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【ドラマー三嶋RACCO光博が起こすInnovation “the RACCO WORKS”】 1st Innovation:Music×Business(後編)
- Interview & Text:Rhythm & Drums Magazine
荒れた茶畑から
古式三年番茶を生み出す
●今度はそこから“古式三年番茶”を作ることになるんですよね。
RACCO そうなんです。就労支援……正しくは就労継続支援B型とA型という名称で、障害者の働く場所を作るのが僕の仕事なんですけど、当時はアルバイトみたいな形で工場からきた障害福祉の経験のない年配の方とかが支援員として入ってきて、その方が障害のある方に仕事を教えていたりして。有資格の職員は就労を経験したことがないとか、いろいろ解釈があるんですけど、障害のある方への就労のために職業訓練はするものの、就職先が障害のある方への理解や扱いがあるかはわからない。もちろんジョブコーチというサポートがついたりするんですけど、一番良いのは障害のある方への支援方法がちゃんとわかっている人が会社を設立して(障害のある方を)雇うことだと思って、僕はそれをやろうとしたんですよ。で、どんな職種が良いかなと思ったときに、自分なりの経験から考えてみたんですけど、先ほど話したように障害者の中には健常者よりも作業が早い人がいるんです。健常者は仕事を効率的にやろうとか楽をしようって考えるのが普通だと思うんですけど、障害のある方の中には、先ほど話した打楽器を演奏したかったときと同じように、とにかくその仕事がやりたい一心で、ものすごい集中力を発揮することがあるんですよね。そうなったときは本当にすごい。具体的な数字は言えないですけど、ものすごい売上を立てることもありますし、アートの領域でも一緒で、僕は文化芸術専門活動というのを担当していたんですけど、彼らが描く絵というのもすごいんです。
RACCO このコラムのテーマ、“Innovation”という言葉で僕が思っているのは、(Innovationを)起こすポイントって“両極端、正反対なもの”だと考えていて、それを融合させることがInnovationに近いと感じているんです。音楽でいえばデジタルとアナログとか。障害のある方と会社の起業……できないと思われていたけどできた。それが、僕が始めた「薪炒り三年番茶」のプロジェクトなんです。
●このプロジェクトは環境問題にもつながっているんですよね。
RACCO 静岡といえばお茶というイメージがあると思いますけど、時代と共に長い間放置された茶畑……いわゆる耕作放棄地が増えていて。これは本当に厄介で、景観が乱れたり、ボーボーに伸びた草やお茶の木からスズメバチの巣が作られたり……先祖が扱っていた茶畑をボーボーにすること自体申し訳なく思う方がたくさんいるんですけど、持ち主のみなさんは高齢だったりで手がつけられないんです。そこで耕作放棄地の茶畑を無料で刈りに行って綺麗にして、刈ったお茶の木から三年番茶にすることを始めたんです。荒れた茶畑から理に適った昔ながらの製法でお茶を作る……これもInnovationですよね。三年番茶は薪を使って茶葉や茎を焙煎するんですけど、この薪も仲間の木こりから手に入れています。今は薪ストーブの需要もそれほどないから間伐材の使い道がなくなったりしていて、山も荒れているんです。杉の葉や小枝とか、そういうものも本当に良い燃料なので山も綺麗になる……三年番茶はそういう意味でも究極のオーガニックだと思いますよ。
●三年番茶は耕作放棄地のお茶の木を枝ごと焙煎して作り上げる、ということですが……。
RACCO 三年以上伸びきった成木を焙煎して作るので三年番茶。晩茶とも言われるんですけど、京都の方では“番茶”ってほうじ茶のことを意味していて、僕はほうじ茶という意味で(番茶という名前を)使っています。三年番茶はマクロビオティックの創始者である桜沢如一先生が晩年に佐賀県で見つけて勧めたものなんですが、カフェインも少なくオーガニックで身体に優しいと言われているお茶です。エコ、身体に優しいとか、三年番茶は今のトレンドがたくさん詰まっているんですよ。多くの人に認知してもらうには時間がかかるかもしれませんが、将来たくさんの人に知ってもらえるんじゃないかと思っています。前置きは長くなりましたが(笑)、これを障害のある方と、音楽や芸術を楽しみながら1日の半分は仕事、半分はアートみたいに一緒に作る……ということがしたかったんです。
●素晴らしいですね。三年番茶はスタジオ・ワークの多いミュージシャンも良いかもしれませんね。
RACCO そうなんですよ! スタジオに三年番茶があったら、ドラマーはもちろんギタリストやベーシストは大喜びだと思いますよ。夏の冷えきったスタジオとか、冬の寒い現場とか……身体や手先が温まると言われているんです。
●そして、三年番茶は2019年に賞を取るんですよね。
RACCO はい。徳川宗家の家広さんが主宰、そして静岡県が協賛している世界緑茶コンテストで三年番茶のティーバッグ“遠州番茶T-Bag”が奨励賞を受賞したんです。うれしかったですね。そのときに僕は三年番茶フェス……“音楽大茶会”をやりたいと思っていて、茶会は誰でも開けますけど、一般的に大茶会というのは時の将軍にしか開けないことになってたらしく。僕は主宰の徳川家広さんにお話しして“音楽大茶会”をやりたいなと思い描いていたんですね。その構想はコロナ禍になって実現できていないんですけど、いつか本格的に動き出したいと思っています。
●そして、ここからがドラマーとして本格的に始動されていくお話になっていくのだと思いますが、長くなってしまったので一旦区切って次回にしましょう(笑)。
RACCO なかなかドラムの話に辿り着かない(笑)。
三嶋RACCO光博
Profile●ミシマラッコミツヒロ:1968年鹿児島県生まれ。10歳のときに国家公務員の父の転勤により徳島県に移住。17歳で上京。プロ・ドラマーとしての活動をスタートさせる。95年にロック・バンド、シアターブルックのミニ・アルバム『CALM DOWN』でメジャー・デビュー。97年にバンドを脱退。以降バンドマンからセッション・ドラマーへ軸を移し、活動の幅を広げる。11年に静岡県菊川市社会福祉法人草笛の会に赴任、障害音楽リズム療法に取り組みサービス管理責任者の資格を取得し、障害者の音楽支援を行う。18年より、耕作放棄茶畑、中山間地域再生に取り組み、薪炒り三年番茶を製造。世界緑茶コンテスト2019奨励賞受賞。22年に父の介護のため熊本県へ帰郷、そしてリズム&ドラム・スクール開講のためラッコワークス合同会社(RACCOWORKS LLC)を設立、起業する。
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