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たたきびと ♯9 “表現”の鍵を握るハイハットに注目

  • Photo:Takashi Yashima、Yoshika Horita Analysis:Yusuke Nagano

2014〜16年にお届けした玉田豊夢と朝倉真司による連載セミナー=“たたきびと”をドラマガWebに転載! 打楽器の魅力、楽しさを伝えることを主軸に置いており、ドラム&パーカッションを初めてみようという方に最適な内容です。第9回では、前回の左足の使い方=ハイハット・ペダルからの流れで、ハイハットにフォーカス。グルーヴ・メイクの核を担う、重要アイテムについて考察していきます。

これからドラムを始めてみたいという方は「ビギナーお助け記事まとめ」をチェック!

ハイハットで音楽を縫ったり
流れていく文体みたいなイメージがあるので
ずっと集中している (朝倉)

初心者だから無理と思わずに
表情やニュアンスに注目してほしい
そこに目を向けたら
ハイハットを演奏する意味がわかると思う (玉田)

●ハイハット・ペダルの踏み方からの流れで、今回はハイハットそのものについてお聞きしていきたいと思います。

朝倉 左足を動かさないのと同じで、基本的にはハイハットも “チッチッ〜”って同じ音をずっと出していたいという意識なので、叩き方もスティックの腹で、常に同じ場所のエッジだけを叩く、みたいなイメージなんだと思います。そんなに強くは叩いてないですし。

●ハイハットを叩くときは、一定なものをキープしたいわけですね。

朝倉 そう。一定なものって存在感はあると言えばあるし、ないと言えばないし。だからこそすごく大事なものだと思う。なので演奏している最中は基本的にずっとハットを見ているかも。目の高さというと言い過ぎですけど、かなり高めにセットして、ハットのことにずっと集中している。

ハットで音楽を縫ったり流れていく、文体みたいなイメージがあるので、ダイナミクスもあまり過剰につけることなく……まぁフレーズとしてつけたりすることはありますけど、イメージ的にはスーッと流れていく感じですね。

●玉田さんはいかがですか?

玉田 僕はハットでいろんな表情を出したいので、いろんな場所を叩いたり、オープンするにしてもいろんな幅やスピードでやりますね。

昔はチップでボウを叩いてキープするっていうのが苦手で、ほぼやらなかったんですけど、最近はそれもありだなと。“チッ、チッ”っていう一定したツブ立ちの良い音を出したいときは、ボウを叩くし、“ジッ、ジッ”って言わせたいときは、エッジで叩くし。あと、スチュワート・コープランドや青山 純さんなんかは、ハットでフィルしながら合間にカップを叩いたりするじゃないですか。ああいった小気味良くてオシャレなアプローチも好きなので、たまにやったりします。

ドラム・セットの中でハットが一番音の長さや音色をコントロールできるので、自然とこだわりも強くなりますね。ちょっとした開け具合いや強弱で、グルーヴの速さや広さが全然変わってくるので、本当に深くて楽しい楽器だと思います。

●考え方やアプローチ方法にそれぞれ違いがあるんですね。でも共に16インチと口径の大きなハイハットを使っているんですよね。それが面白いと思いました。

朝倉 そう、豊夢君が使っている16インチのハットを見て素晴らしく気に入って、同じものを買いました(笑)。もともと15インチのハットを使うことが多かったんです。

14インチがいわゆる標準サイズになると思うんですけど、私は14インチだと、ちょっとイメージ的に物足りなくて。スティーヴ・ジョーダンが大きいハイハットを使っているのを見て、“クラッシュを重ねたりするのもありなんだ”と思って、そうしていたこともあります。14インチと16インチでは、ビート感も全然違ってきますよね。

●では初心者が初めてハイハットを買うというときは、どのサイズが良いと思いますか?やはり14インチが良いんでしょうか?

朝倉 いつも同じ答えになっちゃいますけど、何でもいいんじゃないですかね(笑)。13インチを使っている人もいれば15とか16インチを使っている人もいて。高くセットしている人もいれば、低い人もいるし。これっていう正解がない。私も今でも高さは少しずつ変えたりしてるし。大切なパートではあるけど、最初からそこまで気にするものでもないというか。

玉田 (笑)。でも朝倉さんはそう言いますけど、見ているとものすごくこだわっていますよね。熟練の技というか。確かにやっていることはシンプルかもしれないけど、それで朝倉さんみたいに説得力を出すのはすごく大変。ハットで何をやりたいのかが、明確じゃないとその説得力は生まれないですよね。

だから初心者にアドバイスをするならば、ただ何となく叩くのではなく、ちゃんとイメージを持って取り組んでほしいということ。例えば8ビートを教えてもらったとして、それを音の羅列として覚えるのではなく、“何でこういうビートなのか”を考えたり、“ちょっと左足を浮かしたら、ロックっぽくなるな”って試してみたり。そういう表情というか、ニュアンスに注目してほしいと思います。

“初心者だから無理”とは思わず、逆にそういうところに目を向けたらハットを演奏する意味がわかると思うんです。上達も早いし、豊かな演奏になると思います。

たたきびとの“ハイハット・テクニック”

玉田&朝倉ハイハットの“使い方”を見ていこう。ここではハイハットのセッティング方法、トップとボトムの開き方、さらにその叩き方&叩く位置をチェック。ここにもそれぞれのハイハットに対する考え方やアプローチの違いが表れている。

玉田の“ハイハット・テクニック”

  • 写真1

写真1から見た玉田のハイハットは、高過ぎず低過ぎずの位置で、右手の自然なフォームにも注目。そして2枚のシンバルは標準の範囲内でしっかり開き幅を確保(写真2)。ハイハットはある程度シンバルの距離に余裕がある方が踏む圧力による音色変化の幅を出しやすい。写真3のスティックがエッジに当たる位置や角度もオーソドックスで、タッチや角度による表情を加えやすいポジションと言える。そのまま角度を起こすだけでボウ(上面)の中心をヒットできるのもポイントだ(写真4)。

朝倉の“ハイハット・テクニック”

  • 写真1

朝倉のハイハットはかなり高めのセッティングが特徴的(写真1)。それでも右腕は非常にリラックスしており、左腕と同じくらいの高さに位置している点に注目だ。写真2のシンバルの開き加減は玉田とほぼ同じだが、ボトムのシンバルにやや角度がつく。これはシンバルの噛み合わせに影響するため、叩く音色やタッチにも変化をおよぼす。また写真3を見るとスティックにかなり角度をつけているのがわかるが、このようなポジションでヒットすると鋭角的でキレのある音色を得やすい。

※本記事は2015年5月号の連載セミナーを転載した内容となります。

朝倉真司●音楽家、ドラマー、パーカッショニスト 。1996年にLOVE CIRCUSのメンバーとしてデビュー。その後、ヨシンバ、パーカッショングループ ”Asoviva!”のメンバーとして活動しながら、森山直太朗、一青窈、くるり、秦基博、あいみょん、Superfly、ONE OK ROCK、岸谷香、いきものがかり、レキシなどのさまざまなアーティストのライヴ/レコーディングに参加している。
2017年9月には森山直太朗劇場公演「あの城」(本多劇場・2018年3月映像作品化)、2019年7月には20th century(V6) TWENTIETH TRIANGLE TOUR「カノトイハナサガモノラ」
(グローブ座、北九州劇場、梅田芸術劇場・2020年3月映像作品化)にそれぞれ役者としても出演している。
玉田豊夢●1975年生まれ。20歳の頃からサポート活動をスタート。100s、C.C.KINGのメンバーとしても活躍。これまでに中村一義、小谷美紗子、斉藤和義、レキシ、いきものがかり、Superfly、フジファブリック、ポルノグラフィティ、宮本浩次など数多くのアーティストのライヴ/レコーディングに参加。13年には自身のシグネチャー・スネアを発表した(生産完了)。

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