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    神保×櫻井×向谷のテクニックで紡ぐ珠玉のサウンド 2023.10.28 “かつしかトリオ LIVE TOUR 2023 出発進行!”【Report】

    • Text:Eiichi Kogrey[the band apart]

    今なお感性をアップデートし続ける
    技を極めしトリオの深化
    余裕と圧巻のパフォーマンス!

    そのキャリアや実績からして、神保 彰氏が名実共に、日本のトップ・ドラマーの1人であることに異論を唱える者はいないだろう。そんな彼が、キャリア初期に在籍したバンド、カシオペアの元メンバーであり、共に黄金時代を築いた櫻井哲夫(b)氏と向谷 実(key)氏を迎え結成されたのが“かつしかトリオ”だ。

    ライヴ会場である、かつしかシンフォニーヒルズ・モーツァルトホールは満員御礼。ざっと見渡した客席からも、普段の自分の生活圏内ではあまり感じない日本の音楽文化の幅広さを目の当たりにした思いがする。ステージ上には、メンバーの関係性を象徴するかのように各楽器が並列にセッティングされていて、まだドラマーがバンドの脇役だった時代からそのイメージを塗り替えていったのが、まさしく神保 彰氏だった……そんなことを考えたりした。

    客席の照明が落ち、揃いの白い衣装に身を包んだ3人がステージに現れると、大きな歓声があがる。一呼吸おいて始まったのは、アルバムから先行配信されていた「Bright Life」。現在進行形の3人を象徴するかのようなエバーグリーンなトラックだが、コーラス部への展開を経て“これこれ、これですよ”感に胸を躍らせたのは筆者だけではないはず。

    軽妙な語り口であっという間にステージと客席の距離を縮めた向谷氏のMCを挟み、2曲目に始まったのは、アルバム・タイトルでもある「M.R.I_ミライ」。往年のジャズ・ロックにドラムンベース由来のリズム・アプローチがなされたスリリングな曲だが、一時は“うますぎて歌心がない”などと謎の揶揄を受けることもあった神保氏の正確無比な演奏は、マシン・ミュージックとの同居が当たり前になった現代ドラム・シーンとの見事なリンクを見せている。

    続けて披露された「柴又トワイライト」も3人のセンスがまったく錆びついていないことを窺わせてくれるムーディーなディスコ・チューン。ヴォコーダーを使ったコーラスに重なるどこか和風な音階のピアノや、学校のチャイムを想起させるエレピの単音フレーズなど、見事な和洋折衷がなされた名曲。ここでも、細かく刻まれるハイハットが楽曲に現代性を付与している。

    ここまでの3曲を聴いただけでも、彼らがやりたいのは過去の自分達の焼き直しなどでは決してないことがわかる。作曲や演奏という行為は、個人の人間性や感情の伝達に他ならないから、生まれた音楽の中に、聴き手が往年の3人の影を見つけてノスタルジーを感じるのは当然のこととしても、それを超えて筆者が大きく感銘を受けたのは、これだけのキャリアを誇る人達が、今もなお感性のアップデートを続け、相対的にフレッシュなアートを生み出しているという事実だ。

    ファンキーな「Route K3」、ラテン・フレーバーたっぷりの流麗な「a la moda」と演奏が続く中、当たり前のように差し込まれるハイ・テクニックの応酬に目と耳を奪われっ放しだったが、ステージ上の3人は余裕綽綽の表情。神保氏に至っては、細かな音符を伴ったメトリック・モジュレーションの最中も終始笑顔を絶やさず、最短距離で目標打点を打ち鳴らしている。それまで何万回も繰り返されてきたであろう無駄のないスティックの軌道は、1つの動作の完成形として、ある種の美しさを感じる域だった。

    こうしたハイレベルな演奏の合間に、各メンバーの飾らないMCが挟み込まれる。その緩さがライヴ全体に緩急をつける役割を担っていて、あっという間に時間が過ぎていく。素晴らしいショーというのはそういうものだと思う。

    後半、カシオペアの楽曲を数曲演奏した場面では往年のファンからの一際大きな歓声が上がり(僕の左隣の席で観ていた女性は涙を流していた)、続いて披露された各メンバーのソロも、それぞれの音楽的背景を滲ませつつ、個性と大衆性のバランスが見事なエンターテインメントになっていて、このバランス感覚こそ経験の賜物なのだろうと唸らされた。

    神保氏のドラム・ソロでは、当たり前のように左足クラーベでテンポがキープされ、さらにその上を多種多様なフレーズが彩っていく。動作や音のすべてがスムーズ過ぎて、見ている者に実際の演奏難易度をまったく感じさせない……と言うより、本人にとってはドラム演奏が、言葉を話すのと同じくらいの感覚なのかもしれない。

    終盤、向谷氏が楽器をショルダー・キーボードに持ち替えた「Katsushika De Ska」で、誰も演奏していないはずのギターの裏打ちカッティングが聴こえてきたので、同期を使っているのかな?とステージに目を凝らすと、クラーベに蓋を下ろす形で設置されたパッドを、神保氏が左足で鳴らしていた。あくまで3人での生演奏にこだわりつつ、楽曲に足りない要素をスキルで補ってしまう姿勢には、同じ楽器奏者として頭が下がる思いだった。

    “この3人が集まったら……”とファンが思い描く理想形のような「Red Express」で本編は終了し、アンコールでカシオペアの楽曲を披露するという豪華なおまけもついた素敵なライヴ。長い活動歴を持ち、誰もが認める古強者達が2023年に鳴らしている音は、始めから終わりまで、どこまでも瑞々しかった。

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