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真のドラム・ヒーロー、ニール・パートが残した名演を振り返る〜追悼特集 ♯2〜
- Score & Analysis:Michiaki Suganuma
- Photo:Fin Costello/Getty Images
2020年1月7日に天国へと旅立っていったRUSHのドラマー、ニール・パート。完璧に構築されたメカニカルなドラミングで、一世を風靡したにもかかわらず、フレディ・グルーバーやピーター・アースキンに師事するなど、常にドラムの高みを目指し続けてきた。追悼特集第二弾では、まさに求道者であった彼の唯一無二のドラミングを検証していこう。
Playing Analysis〜ニール・パート印の秀逸フレーズ
「Fly By Night」
Ex-1A〜Dはギター・ソロ部で4小節ごとに入るフィルのバリエーション。フィルのフレージングをこまめに変えていくニールのプレイの特徴が集約されたような場面である。スプラッシュ・シンバルやツーバスを絡めた形で展開していき、最後はアピール度満点の6連を使ったチェンジアップ型の得意フレージングで締めている。楽曲における要所のフィルはしっかり練って作っている感じもあり、スタジオ盤とライヴ盤で同じフィルということも多い。
「The Spirit of Radio」
80年代までのラッシュの楽曲では変拍子が多く取り入れられ、特に7拍子はマスト・アイテムだった。Ex-2は曲のブリッジ部分での7拍子のアプローチ。それまでの7(4+3)拍子に添ってのプレイから展開して、バック・ビートをキープする形の2拍パターンに変わった部分。つまり3拍子は無視して、リズムの流れから逸脱していくような格好になっているが、リズムが重複的に流れるようなカウンター感覚を意図したプレイである。
「Freewill」
ラッシュの楽曲ではドラムとベースがあるパートをキメのように計画して合わせる“決め打ち”スタイルのアプローチが多く見られる。Ex-3はその象徴的な場面であるBメロの終わりでのプレイのバリエーション。1回目に比べて2回目では音数も増やし、16分のウラ打ちでリズムに激しさを加えている。3コーラス目ではその傾向がさらに強まり、楽曲全体として躍動感が増していく感じをドラミングでうまく演出している。
「Red Barchetta」
これも7拍子の中で、拍子の枠組みから逸脱していくプレイの別バリエーション(Ex-4)。ここではEx-2とは逆に、終始3拍子パターンでプレイしている。本来の7拍子からさらにズレていく感覚で、聴くものを幻惑させるようなプレイだが、最後のクラッシュの“ジャン・ジャン”で元のリズムの流れに着地した、安堵感をむしろ演出しているとも思わせるアプローチ。こうしたリズム・トリック的手法も曲の“スパイス”の1つとなっている。
「YYZ」
Ex-5はドラムとベースがフィル(ショート・ソロ)を交換するパートでのフレージングのバリエーション。ニール・パートのフィルの魅力が詰まったような内容で、小口径タムを高速フレージングで回していく痛快さは、彼ならではのものがある。5Aは通称“バケラッタ”フレーズで、強弱をコントロールして滑らかさを出している。5B、5Cはチェンジアップが特徴的で、最後に打つクラッシュのカウンター・アクセントも彼の得意技。
※本記事は2020年4月号の記事を転載したものです。
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