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Studio GT ✖️ CANOPUS ✖️ アコースティックエンジニアリング feat.河村”カースケ”智康〜スペシャリスト達が語る良いスタジオ、良い楽器、良い音〜
- Recording:Tomoyuki Shikama[EDo-mae Recordings]
- Photo:Taichi Nishimaki/Movie:Shigeki Azuma
- Interview & Text:Isao Nishimoto
良い音の楽器は、気持ち良く演奏するための起爆剤
●動画ではもう1台、アッシュのセットもカースケさんに叩いていただきました。これは滝川さんがドラマーとして活動する際のメイン・キットということですが。
滝川 以前使っていたR.F.M.シリーズ(メイプル)よりアタックが出て、なおかつタイトな音というイメージで新しく導入しました。シェルの木目もすごくカッコ良いんです。それでいて、メイプルに比べて手に入れやすい価格なのもうれしいところですね。
●ゼルコバと同じく、カースケさんはアッシュのセットも今回初めて叩いたそうですね。
カースケ ちゃんと叩いたのは初めてです。やっぱりカノウプスらしいドラムで、何の違和感もなくチューニングできたし、パンッとした明るい音で、良いなと思いました。雑味がないというか。
●動画で披露しているデモ演奏は、ゼルコバもアッシュもそれぞれのサウンドに触発されて、気持ち良く叩いているように見えました。
カースケ それはありますね。セットの出音だったり、スタジオの響きだったり。音で気分が変わって、良い気持ちで演奏できたりする、その起爆剤です。楽器ってそういうものですよね。
●幅広い現場で活躍されているカースケさんは、カノウプスのキットを複数所有して使い分けていらっしゃいます。気に入ったキット1つでいろいろな仕事をこなすドラマーもいますが、カースケさんはそういうタイプではない?
カースケ いや、でもね、カノウプスで初めて自分用に作ってもらったセットは20年以上使い続けています(詳細はこちら)。他のセットはいろいろ入れ替わってるんですけど、その1台だけは絶対手放せないくらい音が気に入っていて、ずっと持ってますね。
鈴木 カバリングはボロボロになっていますが、“張り替えると音が変わるんだったらこのままでいい”と言われています。
カースケ どこに持って行っても絶対に良い音がするので、“魔法のセット”と呼んでいます。すごく好きな音で、何の文句もないセット。たぶんこれからも手放さないと思います。
鈴木 そこまで言っていただけると、我々も本当にありがたいです。
楽器の個性がそのまま聴こえる
ニュートラルな響きのスタジオ
●先ほどスタジオの響きの話が出ましたが、カースケさんはこのスタジオの音をどう感じましたか?
カースケ すごくストレートな音で、演奏しやすかったです。その楽器のタッチや色合い、匂いがよくわかる。とても気持ち良いなと思いました。
●ドラムを叩いてそう思えることって、当たり前のことではないですよね。
カースケ うん、部屋が変われば音も変わる。同じチューニングの同じ楽器でも、別のところに持って行ったら、そこの音になる。それは普通というか、当然のことだよね。ドラムは特にそう。
滝川 部屋次第で、めちゃくちゃ残念な音になってしまうこともありますからね。
カースケ そうだね。こっちの感覚もちょっとおかしくなるというか。
●滝川さんは動画で、床の構造へのこだわりを話していましたね。コンクリートだけで固めるのではなく、コンクリートと木を併用するという。
滝川 その構造にしたことによるバスドラの聴こえ方については、以前スタジオの取材をしていただいたときにも話していますが、トータルの鳴りもすごく自然なんです。響き過ぎることもなければ、吸い過ぎることもない。ゼルコバのことを“普通の最上級”と言いましたが、そんなゼルコバの良さがそのまま聴こえてくる。素材の味を一番生かした料理みたいなイメージですね。
●このスタジオは音楽スクールでもありリハーサル・スタジオでもあります。設計側としてはどんなことを意識しましたか?
入交 いろんな人がいろんな楽器を持ち込んで演奏するスタジオなので、ある特定の方向に寄せることはせず、ニュートラルな音にしなければならない。実はそういう部屋が一番難しいんです。レッスンや練習に使うことを考えると、細かいミスまでちゃんと聴こえた方がいいという考え方もある一方で、滝川さんがおっしゃったようにドライ過ぎるのも良くないし、カースケさんがおっしゃったように、自分の出した音にインスパイアされて良いプレイができるというところも大切にしたい。
あと、プロの方はどんな環境でも自分のベストな演奏ができると思いますが、アマチュアの人はなかなかそうはいかないので、そういう意味でも、響き過ぎずドライ過ぎずというバランスで設計しました。もちろん、変な共鳴が発生しないとか、低音の溜まりがないように部屋の形状を整えるという、基本的なところはきちんと押さえた上でのことです。
●先ほど話に出た床の構造は、滝川さんからのリクエストだったそうですね。
入交 日本のスタジオは、まずしっかり遮音することが前提なので、コンクリートでガッチリ固めた構造になることがほとんどですが、海外のスタジオの場合、音が漏れてもいい箇所はわざと華奢にして、音を閉じ込めず抜いていくんです。そういう向こうの感覚が、滝川さんの求める音にマッチしました。今までに弊社でスタジオを作らせていただいたプロ・ドラマーの中にも、同じようなリクエストをされる方は何人もいらっしゃったので、滝川さんの気持ちはよくわかりました。
滝川 そうだったんですね。この床には相当助けられています。
入交 楽器の音というのは、楽器と部屋と演奏者のすべてが合わさって生まれるものだと思います。スタジオを設計するときは、木の響きがきれいだとか、石とかレンガの響きが特徴的といったようなキャラクターづけをすることもありますが、ここは誰が来ても演奏しやすいように、楽器の個性にぶつからない脇役を目指した感じですね。
良いスタジオで良い楽器を叩く
その体験をたくさんの人に
●鈴木さんも、スタジオでの音の聴こえ方に関心していらっしゃいましたね。
鈴木 我々はレコーディング・スタジオで、楽器の鳴りのおいしい部分が吸われてしまうという経験をたくさんしてきました。マイクを通すとレコーディングとしては成立するんですが、プレイヤーは気持ち良くないし、演奏にも反映されかねません。でも今回は、サウンド・チェックの時点で、ちゃんとタイコとして鳴っていたことにとても驚きました。
カースケ うん。すごくタイトなんだけど、いやらしくないというか。ゼルコバもアッシュも、楽器の持ち味がちゃんとわかる感じがしました。例えば響き過ぎるスタジオだと、何でも良くなるんだよ。
滝川 どうやっても似てきますよね。
カースケ 悪いチューニングだったとしても良く聴こえたりね。でも、ここは適度なタイト感があって、キャラクターがよくわかるところがナチュラルで良いと思いました。
鈴木 建物の周りは住宅なので、もっとガチガチに防音されているスタジオをイメージしていたんです。だから意外でした。騒音のクレームもないんですよね?
滝川 ないですね。
鈴木 つまり、音は漏れてないけど、楽器の音はちゃんと聴き取れる。きっと遮音と吸音のバランスがすごく良いということなんでしょうね。楽器を作っている我々としては、現場に置いたときにどんな音で鳴るかがとにかく気になるので。
入交 今回は必要以上に遮音構造の剛性を高くせず、音が閉鎖的にならないようにした上で適度な吸音をするというスタンスで設計しています。その部屋でどれだけ気持ち良く演奏できて、目的が達成できるか。僕らもそれがすべてですよ。
鈴木 新しいドラムを作って、レコーディングに呼んでいただいて状況を確認するときは、いつも胃が痛くなるんです。この部分を吸われちゃうんだったらこのスペックではダメだと、作り直したこともあります。
入交 そういう意味では、今回の動画をここで収録したのは良かったかもしれませんね。
●こういう部屋でこういう音を聴けることが、どれだけ素晴らしいことかよくわかりました。動画を観て興味を持った人は、ぜひ自分自身で体感してほしいですね。
カースケ ほんとに、こういう場所は貴重ですよ。
滝川 それぞれのスペシャリストが集まったことが、今回の企画の醍醐味ですね。我々もこういう環境をもっと作っていければと思っています。
■ゼルコバ・セットが叩けるスタジオを新料金で利用可能!
今回の動画撮影を行ったGTミュージックスクール/スタジオGTのGstには、ゼルコバとアッシュのセットが河村“カースケ”智康によるチューニング&セッティングのまま常設されている。これらは、一般のリハスタ利用者も叩くことが可能。このGstはドラム個人練習のみに対応した部屋で、本企画を記念して料金も半額以下に改定された。極上のサウンドを、ぜひ自分自身で体感してみてほしい。詳しくはスタジオGTのサイト(https://studio-gt.jp/)を参照のこと。
●個人練習料金770円+ゼルコバ・セット使用料550円=合計1,320円/1h(アッシュ・セットのみ利用の場合は770円/1h)