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CANOPUS Yaiba 24 Kitの実力 feat.玉田豊夢

  • Photo:Taichi Nishimaki
  • Text:Yusuke Nagano
  • Contents:Rhythm & Drums Magazine

カノウプス代表が語るYAIBA Ⅱという新たな挑戦

(L→R):鈴木隆司氏、碓田信一氏、松村史明氏

新たに24 Kitを作ることになったこのタイミングで
YAIBA Ⅱはミドル・クラスというカテゴリーから
外していかなければいけないと思っています

●YAIBA Ⅱはカノウプスとして初めてターゲット・プライスを決めたシリーズと言えると思いますが、あらためて開発の経緯を教えてください。

碓田 2008年のリーマン・ショックのときに、ドラムのバジェットが一気に下がったんです。売れなくなって、どうしたらいいんだろうって、アメリカ、ヨーロッパ、アジアのディーラーを回って情報収集したら、みんな「1,500~2,000ドル以上のドラムは売れないよ」って言うんです。そこで「1,500~2,000ドルのバジェットの中で作らなければいけない」という現実をいきなり突きつけられたわけです。コストダウンは大命題なんですけど、妥協はしたくないし、音が悪いものは作りたくないわけです。シェルの産地選定や作業の順番など、いろいろ見直していく中で、鍵となったのがラッカー・フィニッシュでした。

現代のラッカー塗装は、UVやアクリル、ウレタンが主流なんですけど、多くのヴィンテージ・ギターで使われているのがニトロセルロース・ラッカーで、結局はいかに薄くラッカーを仕上げるかがポイントなんです。最近の塗装材料だと、2~3回でテカテカでカチカチのものができるんですけど、それだとシェルのヴァイブレーションがロックされてしまう。だから昔のレコードで聴けるような柔らかい音が出せないんです。それが重要だと気づいて、カノウプスではこだわってニトロセルロース・ラッカーを使ってきたんですけど、塗装工程が多い上に、薄いのでクラックが入りやすいという問題もあるんです。本来は木が乾いている証拠で、ギターだとそれが良い状態になってる証でもあるんですけど、楽器を買う人はやっぱり綺麗な状態の新品が欲しいんです。そこは避けては通れない問題で、総合的に考えて、YAIBA Ⅱでは傷のつきにくいラッカー塗装を採用することに決めました。製造工程もニトロセルロース・ラッカーは20回塗らなければいけないのに対して、UVラッカーなら2~3回で済むので、コストも大幅に削減することができる。あとはラグも削り出しのものからダイキャスト製のものに変えました。ヘッドなんかも見直して、我々としてはもう少しこだわりたかった部分もあったんですが、これが発表するとすごく高い評価を受けたんです。

感動したのはスティーヴィー・ワンダーが当社のHigh-Standardシリーズも試した上でYAIBA Ⅱを選んでくれたことで、目が不自由な彼が純粋に音だけで「これが一番良い」って選んでくれたんです。ケニー・ワシントンもそうで、ジャズの世界ではトップ・ドラマーの彼が、会うたびに「何でこれがミドル・クラスなんだ」って言ってくる。そして今回、(玉田)豊夢さんが、YAIBA Ⅱを使うことになった。これまでカノウプスのいろんなシリーズを叩いてきた彼が、“使ってください!”って我々からセールスしたわけじゃなく、自らYAIBAⅡを使いたいと言ってくれたことは、あらためて自信になりましたし、豊夢さんが24″のバス・ドラムを使いたいということで、新たに24 Kitを作ることになったこのタイミングで、もうミドル・クラスというカテゴリーから外していかなければいけないと思うようになりました。

●なるほど。

碓田 興味深いのは、作業工程の短縮やコスト削減のために使った材料が、実は時代の音に合っていたということなんです。今まで我々が追求してきたのは、叩いたときにシェル全体が鳴るドラムで、逆を言えば音が飛ばないんです。それはシェルが薄いということ、そして塗装がニトロセルロース・ラッカーであることに起因している。そもそも今は昔に比べて大音量の中で音飛びを重視するため音のピッチが上がってるんですね。演奏の場もクラブからホール、アリーナへと変わっていって、シェル本来の音と同じくらい、音を飛ばすということが重要になってきたんです。コスト削減という大命題を受けて、ラッカーをニトロセルロースからUVに変えることになり、ラグも削り出しのチューブ・タイプからダイキャスト製に変えたんですけど、それが結果としてサウンド全体を硬くすることにつながって、図らずしも時代が求める音にマッチしたっていうことだと思うんです。でもその根底にあるのは、エッジの研究だったり、フラットにエッジを持っていく技術だったり、我々がこれまでに積み重ねてきたものに対する評価だと自負しています。

音色に関係しないところでのコスト削減の一環として、梱包も見直し。空輸への対応も考慮した、安全でコンパクトなイージー・パックという新たな梱包方法を開発。
バス・ドラムの中にタムを収納し、その状態でフロント・ヘッドを装備。さらに独自の蓋をすることで、移送時の傷はほぼ完璧に防げるそうだ。

●新たにYaiba 24 Kitが発売になりましたが、玉田さんはナチュラルな音色でサウンド・メイクがしやすいとその印象を語っていましたが、それはねらい通りなんでしょうか?

鈴木 そうですね。ウチのシリーズはそれぞれに存在意義を持たせてきたんですけど、考えてみるとフラットなものが見当たらないと思ったんです。そこでできるだけフラットな音色で、音作りがしやすく、それでいて気持ちいい音を目指して作っていきました。

碓田 それだけドラムのマーケットが成熟してきたんだと思います。昔はポーカロのドラムが欲しい、ジョン・ボーナムの音を出したいっていうことだったけど、今は自分の音を表現したいという方向に変わってきている。そういう要求に対して、我々が追求してきたヴィンテージ・サウンド……薄いシェルに薄いラッカーの、側鳴りするドラムでは対応しきれない部分もあったかもしれません。例えばうちのドラムはフカフカの絨毯で天井の低い、デッドな環境でやるときに、音が吸われて、響きが聴こえてこないという声もあった。そういうリクエストに対応できるドラムが、厚いシェル、硬いラッカーのYAIBA Ⅱだったんです。

●Yaiba 24 Kitはバーチ材を採用していますが、シェル構成は従来のBirchシリーズとは違うのでしょうか?

鈴木 違います。材質もプライの厚みも変えています。現行のYAIBA Ⅱのバーチ・シェルは6プライなんですね。6プライと聞くと薄いイメージを抱かれる方もいるかと思うんですけど、厚さは6.4mmあるんです。そして等圧材を使っているBirchシリーズとは違って、厚いプライと薄いプライを混合してあります。プライの厚みが違うと曲げ強度が変わるんですけど、それが振動数にも関係して、当然サウンドも変わります。従来のシリーズとの差別化を図ると共にコストも削減することができました。

Yaiba 24 Kit のシェルはバーチ6 プライ。厚みの違うプライを組み合わせることで、6プライながら6.4mmという厚みを実現。エッジ角はデフォルトのクリア・ヘッドに合わせた、YAIBAⅡオリジナルのデザインを採用。

●試行錯誤の結果、YAIBA Ⅱはコスト=グレードを覆すことに成功したわけですが、これはカノウプスのラインナップの中でどういう位置づけになるのでしょうか?

碓田 何でもできる、最もオールマイティなドラムなんです。そこからフォーカスして、ジャズ、ロックってなったときに、我々には特化したモデルがあるので、それを選んでいただく。だからカノウプスの基準になるシリーズだと思います。

鈴木 YAIBA Ⅱは音楽ジャンルを想定して、素材から違うものを選んでいるカノウプスの中でもちょっと特殊なシリーズなんです。Bop Kitはその名の通りジャズ向けで、これはオール・メイプルです。Groove KitとYaiba 24 Kitはバーチ・シェルで、ダークでロック向けのサウンドになっていて、シェル・コンストラクションも違う。すごくわかりやすい切り口になっているので、ロックとジャズのプロ用定番機として選んでもらえるとありがたいですね。位置づけという点に関しては、カノウプスのラインナップの中にある最も買いやすいプロ・モデルと、私は捉えています。

松村 カノウプスの技術を最も感じてもらえるラインナップだと思います。コストダウンされたシリーズは、ユーザー側もどこかで“妥協されているもの”という認識を持っていると思うのですが、YAIBA Ⅱはそれを感じさせるのではなく、コストダウンのために採用した工法が現代で要求される音色を実現したドラムだと思います。手にとってもらいやすい価格帯でありながら、玉田さんが使っているものと同じセットを所有できる、プロが使っているものと同じサウンドが体感できるという点は、ユーザーにとっても大きな魅力になるのではないかと思います。

CANOPUS DRUMS HPhttps://canopusdrums.com/jp/

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