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    動画で体感!アコースティックエンジニアリングが手がけた”ドラムが叩ける自宅スタジオの音”[合原晋平宅スタジオ]

    • Contents & Text:Rhythm & Drums Magazine
    • Drum Performance & Recording:Shinpei Aihara
    • Movie:Shigeki Azuma

    レコーディングを終えて、音の響きや自宅スタジオでの録音について合原に語ってもらった。なお、自宅スタジオを作ろうと思ったきっかけやスタジオの詳細は、発売中のリズム&ドラム・マガジン2022年4月号をチェックしてほしい。

    合原の自宅スタジオ詳細が紹介されている
    リズム&ドラム・マガジン2022年4月号はコチラ!

    自宅スタジオはいつでも録れるので
    テストはめちゃくちゃしました

    ●合原さんは、もともと自宅スタジオを作る際に“レコーディングできる環境”を意識されたということですが、録音機材はスタジオが完成する前からあったんですか?

    合原 スタジオができる前からちょっとずつ購入していました。リハーサル・スタジオに行って実際にマイキングして試し録りをしていたんですよ。そのときは8ch分のマイクを持ち込んでいたんですけど、全然うまくいかなくて(笑)。当時は何もわからないでやっていたから、うまくいくはずなかったんですけど、スタジオが響き過ぎちゃったりして、7畳の部屋とか広めの14畳の部屋とか、録るスタジオ自体を変えてみたりいろいろ試しみたものの、どうもワンワン鳴ってしまって……。

    ●いわゆるデッドな部屋でもダメでした?

    合原 そうですね。大きな鏡があるとうまくいかないとか……もちろん鏡が良い影響をおよぼすこともあるんですけど。

    ●自宅スタジオの響きをデッドにしたいというリクエストは、そういうところからだったんですね。

    合原 そうですね。結局サステインを調整するためにミュートするんだったら、部屋がデッド……はじめからミュートされている状態みたいな部屋の方が良いのかなと思って。

    ●そうやって自宅スタジオでいろいろ試しながら、いつしか実際に仕事として音源を納品するまでに至った、という感じだったんですか……?

    合原 いや、実はこの家に引っ越してきて2週間で録音の話がきたんですよ。当時はDAWをLogicからProToolsに換えたこともあり、全然知識がなかったので、しばらくはわかる人……アレンジャーの方に来てもらって手伝ってもらったりして。マイキングはわからないなりに自分でやっていました。あとは自分で録ったパラデータをわかる人に送ってアドバイスをいただいたりもして、データからわかる課題点などを挙げてもらいましたね。「位相がちょっとズレているからこうした方が良いんじゃない」とか、「データを見るとこういう感じで音が録れているから、マイキングはこう変えてみた方が良いよ」とか。僕の周りには自宅録音をやっているドラマーが多かったので、そういうのも本当に助けられました。

    ●本誌連載「ドラムが叩ける!お宅訪問」でも登場された、白川玄大さんや田中 陽さん、生田目勇司さんとはよく意見を交換されているようですね。

    合原 そうですね。ギターやベースの自宅録音をやっているミュージシャンは多いと思うんですけど、ドラムは立てるマイクの本数も多いし、録音はとても難しいので、とにかく疑問に思ったことは聞いたり意見交換をして。自宅スタジオはいつでも録れるので、テストはめちゃくちゃしましたよ。

    ●2021年秋の完成から録音の依頼が続いていて、すでに数十曲納品されているそうですね。

    合原 ありがたいことにそうなんです。でも、やっていくうちにちょっとずつ理解してはいるものの、今でもわからないことはたくさんあって試行錯誤の連続です。ただ、そんな中でよく感じるのは、「スタジオの“響き”はとても大事」ということで、良いスタジオがあって、良い楽器があって……その後にマイクとかの録音機材があるんじゃないかなと僕は思います。そういう意味では、この自宅スタジオの響きは気に入っていて(スタジオを作って)本当に良かったと思っています。スタジオの響き、そして生楽器が良くないと、叩き手がしっかり演奏しないと良くならないんだなと痛感しましたね。

    ●“良い音を録る”といっても、そこに関わる要素は膨大にありますよね。それこそドラム・チューニングだって……。

    合原 そうなんですよ。一時期チューニングに2日かけたこともありましたし。ライヴでやっているようなチューニングとは全然違うので、“わからん!”ってなったり(笑)。録り方自体もわかる人にアドバイスを聞いて参考になることはたくさんあるんですけど、まったく同じマイクやオーディオインターフェイスを使っているわけではないですし、そもそもこのスタジオの響きがある。だからそのへんは何度も経験を積んで段々わかるようになってきた……という感じですかね。

    ▲今回の収録で使用したドラム・セットは、合原がレコーディングにおいて絶大な信頼を寄せるラディックの70s Big Beat(22″×14″BD、12″×8″TT、13″×9″TT、16″×16″FT)。
    音色は程良い塩梅のロー・ピッチでまとめられていた。打面ヘッドはすべてレモで、バス・ドラムはパワーストローク3コーテッド、タム類はレモ・コーテッド・アンバサダー(タムはガムテープ×2でミュート)。バス・ドラムの上には毛布をかけてサウンドを調整。

    【使用マイク一覧】
    ⚫︎Kick(In):Sennheiser MD 421-II
    ⚫︎Kick(Out):AKG D12 VR
    ⚫︎Snare(Top):Shure SM57
    ⚫︎Snare(Bottom):Shure SM57
    ⚫︎Tom:Sennheiser MD 421-II
    ⚫︎Floor Tom:Sennheiser MD 421-II
    ⚫︎Hi Hat:Shure SM57A
    ⚫︎Ride:AKG C451 B
    ⚫︎TOP L/R(stereo):AKG C414 XLII(stereo pair much)
    ⚫︎ROOM:audio technica ATM450

    ▲シンバルはジルジャンを中心に構成。
    奏者左手側からAvedis 15″ハイハット、16″ Kカスタム・スペシャル・ドライ・クラッシュ、セイビアン8″ HH Max Stax(逆さにして使用)、パイステ10″ PST X Swiss Hats、20″ Kコンスタンチノープル・ミディアム・ライド、17″ Kカスタム・ダーク・クラッシュ・ミディアム・シン。フロア・タムの上にはLPのカウベルが置かれている。

    ※画像はクリックすると拡大できます。

    • スネア・ドラムは現行ラディックでJazz Fest(14"×5.5")。打面ヘッドはラディックのヘヴィ・コーテッド。ヘッドのロゴ上付近にジェル・ミュートが施されている。

    ●いわゆる“生音と録り音”の乖離みたいなものはあるんですか? 生音はちょっと変な感じだけど録ってみるとすごい良い音だった、みたいな……。

    合原 これに関してはいろいろな要素があるので一概には言えないですけど、基本的には生音の感じをそのまま録れるようにはしたいと意識はしています。とはいえ、例えばキックの音も自分が踏んでいるときの音の感じと外から聴いたキックの音の感じって変わってくるじゃないですか。そういうことも予想して音作りはしていますね。

    ●レコーディングとライヴで叩き方は変わりますか?

    合原 大きく変える人もいますけど、僕はそこまで変えていないです。ベロシティに差をつけないとか、叩き方で曲中変に音色を変えないとかは意識していて、例えばダイナミクスもライヴとは違うつけ方……音量ではなくリズム・パターンでつけたり、そもそも“ドラムでダイナミクスをつけるべきなのか”みたいな判断はありますけどね。あと僕はパンチインをあまりしないんですよ。基本一発で録って、どうしても直したい場合は、アウトロ丸々とか大きい括りでやりますね。1小節単位とかではやらないです。だから昔の一発録りの楽曲を聴いて研究することが多いですね。今の自分の録り方に近いので。

    ●なるほど。

    合原 変わるところと言えば、外のスタジオではエンジニアさんが音のチェックをするところを、自宅スタジオでは自分でやらないといけないので、そういう負担はありますね。だからエンジニアさんのありがたさもすごくわかりました。作業が多いのでドラム録りは3テイクまでと決めて、そこでできた気持ちの余裕は音のチェックに回して……とかやっていくと、集中力がついてドラムの演奏自体もうまくなっている実感がありますね。

    ●マルチ・タスクになる……ということですね。

    合原 そうですね。ドラマー、エンジニアとして……みたいな。でも今ってドラマーでもPCでの音楽制作は当たり前みたいな時代になってきているなとすごく感じていて日々勉強になっています。海外のドラマーでも例えばアッシュ・ソーン……はすごすぎですけど(笑)、バリバリやっていますよね。昔はDAWの話で置いていかれることがけっこうあったんですけど、最近はライヴ音源の制作とかでもDAWを使うことはあるので、そういうときに自分も話に入れるようになったのは良かったなと思っています。音楽制作だけじゃなくて、最近だとローランドのSPD-SXとか、マルチ・パーカッション・パッドを組み込むドラマーがすごく増えたと思うんですけど、内蔵音源ではない外から音色を入れたいとなったとき、DTMをやっていると自分でミックスしたものをパッドにアサインできるようになったり。ドラマーに求められている音色っていわゆる生だけじゃないですし、ドラマーとしてやる領域は増えていると思っていて、使う/使わないは人それぞれですけど、知っていて損になることは1つもないので僕はもっと勉強したいですね。絶対に知っておいた方が良いと思っています。

    ●今こういう時代だからこそ、自宅スタジオがあることで二次的、三次的に良い影響が生まれることはたくさんありそうですね。

    合原 たくさんありますよ。例えば、イヤモニ環境の基準が自宅スタジオで作れるというのもそうで、いろいろなライヴ会場でも自分のモニター基準がわかるし、現場の方に具体的なモニター環境のリクエストを伝えやすいですし。結果として演奏のしやすさにもつながっています。もちろん現場なので、お客さん入ってガラッと聴こえ方が変わったとか、うまくいかないときはありますけどね(笑)。

    自宅録音の形も選択肢の1つとして
    確立してきたのかなと感じます

    ●今回収録させていただいたオケの1つは、合原さんとつながりのあるシンガー・ソングライター、chise(チセ)さんの楽曲ですが、これは実際にあったレコーディング案件で、もともとは仮歌とギターのみの音源が送られてきたそうですね。

    合原 実際の楽曲に使われているのは今回収録したテイクと違うのですが、これはちょっと特殊なケースで、制作チームの中にアレンジができる人はいたんですけど、それをMIDIで打ち込んでデータにする、という人がいなかったんです。通常だと例えばベースもアコギも入っていて、サックスがテーマを吹いているなら、そこに合わせてドラムを入れる、みたいな流れですけど、この場合はアコギのコード弾きのみ、で。なかなかイメージしづらいところなんですけど、ギタリストがリズムにすごくこだわりのあるプレイヤーで、わかりやすいようにリズムで導いてくれる感じだったんです。“ギターはこういう感じでいきます、この曲はこんな感じです”ってノリを出してくれて、そこにドラムを乗せる形で録音して、結果うまくいきました。

    ●遠隔で録音をするぶん、ノリやグルーヴは共有しづらいですよね。

    合原 宅録だと個々でレコーディングするのでグルーヴがそれぞれ微妙に違ってきてうまく合わないときがあるんですけど、今回はギターに合わせることで一緒にやっているような感じで録れたのが良かったですね。やっぱり録り方でいろいろ変わるんだなとあらためて思いました。

    ●自宅録音ということでは、高橋 優さんのシングル「HI FIVE」も、このスタジオでドラム・レコーディングされたそうですね。

    合原 そうなんです。高橋さんの音源データは仮歌とエレキ・ギター、打ち込みのベースとピアノ、クリックが入っていて。ドラムの打ち込みもありましたね。ドラムの打ち込みは、編曲者のha-jさんが打ち込んだものがかなり完成されていたので、ベーシックなパターン、フィルインはそれを元に自分なりのアレンジを加えたり、自分の解釈で自由に叩かせてもらいました。エレキ・ギターである程度グルーヴは決まっていたので、そこに導かれるように叩いた感じです。まずは1回録ったデータを送って音を決めて、(音が)決まった後に何度かテイクを渡してOKテイクが出る……という流れですね。よくあるレコーディングと基本的には一緒だと思います。

    ●時間に制約のあるレコーディング・スタジオも、それはそれで緊張感を持って臨めるのかもしれないですけど、自宅スタジオだと時間を気にせず何度も直せるからそういう利点はありますよね。

    合原 そうですね。最近のレコーディングだと、最初にリズム体を録って、その後にギター重ねたりという作業を1日、もしくは短期間で仕上げることが多いと思うんですけど、ドラムは早く録り終えた方が……って流れになりがちなので、なかなかいろいろなことにトライできないと思うんですよ。自宅スタジオだと早めにデータをもらえればいろいろと試せるのでそういう違いはありますね。

    ●依頼する側もいろいろ音が聴けて、うれしい側面もありそうですね。

    合原 今のところ依頼がきた案件は、次の日に納品みたいなパターンなので(笑)、それはそれでバタバタしますけど、本当に良い経験になっています。あとは外のスタジオだとマイキングとか音決め的なことは当日に1からなんですけど、自宅スタジオは事前にできてしまうのが大きいですね。やっぱり時間のかかる作業だしハマると焦るんですけど、自宅スタジオだとメンタルは全然違うし、セットやスネア、シンバルのチョイスもパッと換えられますから。

    ●今回のようなドラマーの宅録への意識は、コロナ禍で加速した……と感じます?

    合原 あると思います。もちろん外のスタジオでのレコーディングは素晴らしいと思うんですけど、こういう自宅録音の形も選択肢の1つとして確立してきたのかなと感じます。リモートで録るから人とのつながりは希薄になるんじゃないかと思われるかもしれませんが、先日とある案件で宅録をして納品をしたベーシストさんからリアルのライヴに呼ばれたことがあって。それまでは会ったこともなかったんですけど、実際の演奏にもつながって良い流れだなと思いました。後は先ほども少しお話ししたんですけど、ドラマーが担う領域は昔よりも広がっていると実感していて、音を録る知識だって(ドラマーとして)知っていて絶対に損はないと思うんです。世界のレジェンド・ドラマーとか日本のスタジオ・ミュージシャンも“こういうマイキングにしたら、こういうマイクを使ったらもっと良い音になる”って行き着いているような気がしていて。もちろん自分の演奏や音の良し悪し、楽器のチョイスは大前提として、そのプラスアルファとして自分でマイクを持ち込むドラマーも増えているし、そういうことをすることでお客さんにもっと良いものが伝えられると思うんですよね。

    ※画像はクリックすると拡大できます。

    • ドラム・セットのすぐ隣りにPCを配置。PC用のイスも、演奏に使用しているドラム・スローンと共用で、演奏後すぐに録り音の確認ができるのはとても効率的と言えるだろう。

    アコースティックエンジニアリングとは?

     株式会社アコースティックエンジニアリングは、音楽家・音楽制作者のための防音・音響設計コンサルティングおよび防音工事を行う建築設計事務所。1978年に創業して以来、一貫して「For Your Better Music Life」という理念のもと、音楽家および音楽を愛する人達へより良い音響空間を共に創り続け、携わった物件の数は2,000件を超えている。現在も時代の要請に答えながら、コスト・パフォーマンスとデザイン性に優れ、「遮音性能」、「室内音響」、「空調設備」、「電源環境」、「居住性」というスタジオの性能を兼ね備えた、新しいスタイルのスタジオを提案し続けている。

    株式会社アコースティックエンジニアリング
    【問い合わせ】
    TEL:03-3239-1871
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