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“河村吉宏スペシャルドラムセミナー”@神戸・甲陽音楽&ダンス専門学校【Report】
- Report:Isao Nishimoto
神戸・甲陽音楽&ダンス専門学校と、リズム&ドラム・マガジンによるコラボ・セミナーの2025年第二弾として、去る10月18日に河村吉宏のスペシャルドラムセミナーが行われた。今、日本で最も忙しいドラマーの1人である“よっち”こと河村がこのようなイベントを行う機会はとても貴重で、同校の学生はもちろんのこと、一般の参加者も詰めかけた。ここではこのセミナーの詳細をレポートしていこう!
圧巻のデモンストレーションに加えて
体験談も交えながらドラムに対する考えを
レクチャーした濃密な90分

冒頭、「こんなにたくさん集まってくれて本当にうれしいです」と笑顔で挨拶した河村は、ドラム・セットに座ると、ここ数年ライヴやレコーディングに参加している、ずっと真夜中でいいのに。の「秒針を噛む」をフルサイズでプレイ。目まぐるしく展開する楽曲を緩急豊かに彩る演奏で、早くも参加者の目と耳を釘づけに。
トーク・コーナーでは、進行を担当したドラム・マガジンの北野編集長からの質問を受ける形で、まずはドラムを始めたころの話からスタート。このあたりは、父親である河村“カースケ”智康と対談した本誌2025年10月号の特集でも話しているので、ぜひチェックしていただきたいが、ドラムを始めたのが中学3年生のときで、転機となったのは高校時代に入った軽音楽部という。
「高校では軽音楽部に入って、当時大好きになったニルヴァーナのコピーしかしない日々でした。だからドラマーとして最初に影響を受けたのはデイヴ・グロールなんですけど、ファンになったのはカート・コバーン(笑)。その後好きになったドラマーは、スティーヴ・ジョーダン、ジェフ・ポーカロ、テイラー・ホーキンス、チャド・スミス……たくさんいます」。
そして、高校時代にプロ活動を始めたことでも知られる河村。当時のエピソードから、ドラマーとしての心構えについての話題になり、そのきっかけを語ってくれた。
「プロとしての活動は、高校2年の終わりくらいに、林 明日香ちゃんが若いドラマーを探しているということで、オーディションに誘っていただいたことが始まりでした。オーディションでは胃が痛くなるくらい緊張したんですけど、一緒にやる人と楽しく演奏できたらいいなと無意識に思っていました。それは今も変わっていなくて、メンバーやスタッフさんも含めて、そこにいるみんながハッピーになれるようなドラマーでありたいと思っています。技術やセンスは磨いた上で、その人と一緒にいて楽しいとか、なんかいい空気になるとか、そういう人間であるためにはどうすればいいかなっていうのは、常に考えているかもしれません」。

続いて、自分にとって役に立ったと思う練習方法について尋ねると「それはもう、コピーでしかないですね」と前置きして、次のように答えてくれた。
「僕は誰かに習った経験がなくて、いわゆる基礎練習もまったくやってこなかったんです。いろんな楽曲のフレーズをコピーして、いろんなものを吸収してきただけ。もちろん、基礎練習は絶対に大事だと思いますけど、僕は誰かと何かをすることが楽しかったし、そこから得るものが自分というスポンジに染みていったということなんです。そして僕は、ドラムを演奏するときしかスティックを握りません。その代わり、ドラムから離れているときはずっとイメージ・トレーニングをしています。それで、いざドラムの前に座って、スティックを持って、みんなと一緒に演奏するとなったら、やっとドラム叩ける!ってワクワクする。そういう気持ちを大切にしたいんです」。


そんな河村のトレードマークと言えるのが、極限まで低く水平にセッティングされたドラム・セット。
「最初は普通のセッティングでした。でも小さいころから親父のドラムを見ていて、低いのがカッコいいなと純粋に思っていたので、どんどん低く、平らになっていきました。自分が椅子を低くする一番の利点だと思うのはキックですね。踏む前に脚を上げる動作があるから、そのぶん気合いを込められる。映像で見ると、自分でも変な膝の動き方をしているなと思うけど(笑)、やっぱり上げて踏むと気持ちいいんですよね。“踏むぞ!”って感じで」。
ドラム自体は学校にあるものを使ったが、椅子とスネア・スタンドは本人による持ち込みで、その低いセッティングを参加者も体感できるようにと、1人ずつ河村のドラム・セットに座ってもらう時間も設けられた。1人ずつ順番に椅子に座り、キックを踏んで感触を確かめていく様子は何ともシュール。河村も「何この時間! 最高なんだけど(笑)」と大喜びだった。


セミナー中盤でスティックの握り方や、打面のセンターを外すのが基本というスネアの叩き方などについて解説した後、父親であるカースケ氏がレコーディングで叩いた、椎名林檎「正しい街」を1コーラス分プレイ。さらに、参加者のドラム演奏を河村に聴いてもらうコーナーでは、4名の参加者が思い思いのプレイを披露した。その中で、“自分の演奏がもっとカッコ良くなるには、よっちさんから見て何が必要でしょうか?”とストレートに悩みを明かした参加者には、次のようなアドバイスが贈られた。
「今、僕はこういう格好をしているけど、昔はこんなに派手じゃなかったんです。でもあるときから、自分が好きなものを胸を張って背負える人でいたいと思って、アメカジをちゃんと着ようとか、ファッションじゃなくてスピリットとしてバンドTを着たりするようになりました。そうすると、おのずとドラムも磨きがかかっていくだろうなって想像しながら、まず人としてカッコ良くあることが一番なんじゃないかな。そういう僕もまだまだ途中ですけどね」。

さらに続くQ&Aコーナーでは、“仕事で覚えなければいけない曲と、自分が好きで演奏する曲を、自分の中でどのように管理していますか?”という、なかなかシビアな質問も。それに対する答えも河村ならではのものだった。
「いろんなアーティストといろんな曲を演奏していても、それぞれで全然違う引き出しを開けているわけじゃなくて、どんなフレーズも自分の何かに落とし込んで演奏している感覚があります。もちろん、“こう叩かなきゃいけない”というフレーズもあるけど、“覚えなきゃいけない”じゃなくて、“覚えたい、自分のものにしたい”から始まるんです。その方が楽しいでしょ?」。

90分に渡ったセミナーの最後は、Mrs. GREEN APPLE「クスシキ」をフルサイズで演奏。8月に放送されたテレビ番組『EIGHT-JAM』でも河村がデモンストレーションしていたこの曲を、「ドラムの横でも後ろでも、好きなところから見てもらっていいですよ」という一言で、参加者に囲まれる形になってプレイ。
演奏を終えた河村は、90分に渡った濃密なセミナーのラストを、次のような挨拶で締め括った。
「自分はこういう人間なんだって決めつけないで、いろんなことに挑戦して、諦めずに食らいついていくと、すごく明るい未来がある。僕はそう信じています。みなさんと同じように僕も頑張るので、みんなも頑張って、楽しい仲間を見つけて、楽しいドラムを演奏していってください!」。


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