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ラッシュ再始動|ニール・パートの“後継者”アニカ・ニルス、その実力と“選ばれた理由”とは?
- Photo:Tetsuro Sato/Text:Rhythm & Drums Magazine
伝説のプログレ・トリオ、ラッシュ(Rush)が再始動。2020年にこの世を去ったニール・パートに代わり、そのドラムの座を務めるのは凄腕女性ドラマー、アニカ・ニルス。常に最高峰のドラマーを起用し続けてきたジェフ・ベックも認めたその実力は、ドラマガでも度々特集してきた通り、いまや世界が知るところだ。ここでは、過去の取材から紐解く彼女のルーツ、そして「プログレの頂点」に選ばれた理由を多角的に考察してみたい。
学生時代に徹底して磨き上げた
揺るぎないタイム感
アニカ・ニルスは1983年生まれ、ドイツ出身。ドラマーだった父親の影響で5歳でドラムを始める。影響を受けたドラマーとしてジェフ・ポーカロ、ジョジョ・メイヤー、クリス・コールマン、ベニー・グレブの名前を挙げており、特にジェフはドラムに真剣に取り組むきっかけになったという存在。2016年3月号のインタビューでは、「彼の演奏から聴くことができるフィールと、いかに本質的な部分を引き出しているかというところね。それから彼の音楽的なセンスにもかなり影響を受けていて、それが私自身のフィールやタイム感、音楽のセンスを成長させて、確立していく上で役立ったわ」と語っている。ゴースト・ノートを駆使した、流れるようなグルーヴにも定評のあるアニカだが、それもジェフから学んだエッセンスなのだろう。
地元の音楽教室で基礎を学び、その後は独学でスキルを磨いたというアニカ。ドラマーとして成長していく上で転機になったのがドイツの音楽大学=Popakademieへの入学。自分に不足していること、そして自分が本当に興味があることを発見した期間で、当時は1日6~7時間は練習に励んでいたという。
またこの時期に徹底的にタイム感を鍛え上げたそうで、「異なるクリックのパターンを使ったり、クリックの取り方をズラして練習すること。これらはタイムを鍛えるのにすごく役立つわ」と取材時にオススメの練習方法を紹介してくれた。ポリリズムやメトリック・モジュレーションなどの手法を取り入れたアプローチは、彼女のトレードマークだが、学生時代に培った揺るぎないタイムの精度が、難解かつ緻密なリズム・ワークが求められるラッシュのドラマーに抜擢された要因の1つと言えるのではないだろうか。
YouTubeがきっかけで
ジェフ・ベックからオファー
SNSで注目を浴びたドラマーの先駆者的な存在でもあるアニカ。2013年からYouTubeへの投稿を始めたそうで、「Wild Boy」、「Alter Ego」などのオリジナル楽曲のドラム・パフォーマンス動画が話題を集め、PASICやMINEL DRUM FESTIVALを筆頭に数々のドラム・イベントにも出演。パワーとテクニックにグルーヴも備えた存在として、ドラム・シーンでの認知度が加速。2017年には初のソロ・アルバム『Pikalar』もリリースし、これまでに3枚のフル・アルバムを発表。Logicを使って作曲を行なっており、アルバムの楽曲も自身で手がけるなど、コンポーザーとしての才能も発揮している。
一般の音楽ファンにも彼女の名前が知られるようになったのは、ジェフ・ベックのドラマーへの抜擢。きっかけはYouTubeだったそうで、動画を見て興味を持ったジェフからオファーが届いたという。2022年からツアーに参加し、世界中にその圧倒的な実力を証明してみせたアニカ。しかしジェフは2023年1月に他界。図らずも彼女は、ジェフ・ベックが最後に選んだドラマーとなった。
使用機材に見る
ニール・パートとアニカの違い
ニール・パートの使用機材と言えば、ステージ上で圧倒的な存在感を放っていた要塞のようなドラム・セットが有名だ。DW製のアコースティック・ドラムと、ローランド製のエレクトロニック・ドラムを組み合わせた、自身を360度囲んだ超多点セッティング。そこから繰り出される正確無比なドラミングで、楽曲の世界観を緻密に表現していた。
一方のアニカの使用機材は1バス、2タム、1フロア・タムのスタンダードな組み合わせが基本。しかし3月に行われたイベント出演時の映像を見ると、1バス、2タム、2フロア・タムに加えて、左手側にシングル・ヘッド・タムを4発、右手側にゴング・バスを配置するなど、大幅にセット・チェンジ。緻密な楽曲を表現するための”ラッシュ仕様”になっている点が特徴的だ。


ニールの後任がアニカである理由
ゲディ・リー(b、vo)は公開されたインタビューで、ジェフ・ベックのツアーに帯同していた自身のベース・テックがきっかけでアニカを知り、やはりYouTubeで演奏を見て、興味を持ったと語っている。そして実際にアレックス・ライフソン(g)を交えたセッションを重ねた末に、一緒にツアーに出ることを決めたちう。アニカ自身は別のインタビューで、ニールの思考とフィーリングの捉え方が重要だと語っており、楽曲と真摯に向き合う姿勢がうかがえる。
ルーツやプレイ・スタイル、セッティングこそニール・パートとは異なるが、大学時代に磨き上げたタイム感、YouTubeでの発信、コンポーザーとしての視点、そしてジェフ・ベックの信頼を勝ち取ったという実績。そのすべてを彼女自身の力で積み重ねてきた歩みが、ラッシュのドラマーに選ばれた理由と言えるだろう。
アニカの加入によって新たな章に突入したラッシュが、これからどのようなサウンドを繰り広げてくれるのか。ツアーの幕開けとなる6月7日のロサンゼルス公演に注目したい(詳細はこちら)。
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