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    Interview – 吉田佳史

    • Interview & Text:Rhythm & Drums Magazine

    同じことだけをやっていると
    どうしてもそこに合わせたプレイになっていく
    これまで以上の演奏をしていくためには
    自分にもっと負荷をかけないといけない

    “踊れるロック”を掲げる3ピース・バンド、TRICERATOPSの屋台骨を担う吉田佳史。名だたるミュージシャンとのセッション・ワークでも呼び声高い彼が、自身初となるソロ・インスト作『Charge』を発表。吉田が全曲書き下ろし、ATVのエレクトロニック・ドラム×アコースティック・シンバルのハイブリッド・セッティングで録音された今作では、プレイはもちろん、こだわり抜いたドラム・サウンドが最重要ポイントと言えるだろう。アルバムのねらいや今後の活動について、吉田に聞いてみた。

    今回の作品で目指した音像は
    このセッティングじゃないと再現できない

    ●TRICERATOPSでのバンド活動の傍ら、さまざまなセッション・ワークを行っている吉田さんですが、ソロ・アルバム『Charge』をリリースされたきっかけは?

    吉田 バンドやサポートで演奏する音楽とは違うベクトルで、“ドラムを自由に叩きたい”というところから始まりました。何も考えず、音量とかも気にしないで思いっきり好き勝手に演奏して、それを一度作品として残したい。そうなると、曲もカヴァーとかじゃなくて、オリジナルじゃないと意味がないなって。

    1st ALBUM『Charge
    TRINITY ARTIST TTLC-1015

    ●曲はどのように作っていったのですか?

    吉田 僕がLogic(Pro)で全パートを打ち込みで作ったデモを持っていって、アレンジやプログラミングは、長年ディレクターとして第一線で活躍されている福島健太郎さんに作ってもらいました。福島さんはたくさんのミュージシャンに頼られている方なんですけど、実は名古屋で一緒にバンドをやっていたこともある、僕の先輩なんです。アルバム自体は福島さんとエンジニアの加藤さんの3人で作ったんですけど、まずギタリストとかとにかく他のミュージシャンを入れずに進めたいという僕のわがままを通してもらって、僕はドラムの演奏に集中させてもらいました。

    ●レコーディングで使った機材は?

    吉田 今回は全曲、ATVのaDrumsとaD5を使って録ったんです。シンバルは生で、福島さんにキック/スネア/タム用の音源を個別に3台用意してもらって。あまり細かくエディットしないで、自分が叩いているというヒューマンな部分を残してもらうようにしました。

    ●ATVを導入したのはどんな経緯で?

    吉田 福島さんと僕は、昔から電子ドラムというものに可能性を感じていて。30年前は、一緒にドラムのサンプリングにも挑戦していたんです。昔、ボブ・クリアマウンテンが作ったドラム・サンプル集がありましたけど、実は彼より先に、僕らが名古屋で同じことをやっていたり(笑)。福島さんは、これまで毎年のようにディレクターとしてLAに行っては、ヴィニー・カリウタやケニー・アロノフ、ジョーイ・ワロンカーとかジョシュ・フリーズといったドラマーの音を向こうのスタジオでレコーディングしてきた経験を持っている方で、海外のスタジオと同じような音を日本で再現するために、そういうサウンドがパッケージされている電子ドラムで試してみようということになったんです。

    ●今回試したハイブリッド・セッティングでレコーディングした感触はどうでしたか?

    吉田 まず、僕が電子ドラムを叩くにあたってネックだったのがレイテンシーで。生で演奏するタイム感が再現しづらくなるのを心配していたんですけど、今回使ったATVは、試したときにまったく(レイテンシーが)なかったんですよ。興味を持ってレコーディング・スタジオに来たアレンジャーさんも、「え、何で(音が)遅れないの?」と驚いていました。しかも、モデリングじゃなくてサンプリング音源だから、音が格段に良いんですよ。ハイブリッドで録ると音の被りがまったくないので、エンジニアさんも「こんな音はなかなか録れないですよ」というくらいシンバルが綺麗にレコーディングできました。今回の作品で目指した音像は、このセッティングじゃないと再現できないと思います。

    今以上のプレイをするためには
    もっと負荷をかけないといけない

    ●今後はTRICERATOPSはもちろん、セッション・ワーク、そしてソロと多岐に渡る活動を行っていくわけですが、吉田さん自身どんなビジョンをお持ちですか?

    吉田 1作品完成させたので、まず、ソロ・ライヴではそのときの空気感や思いつきで曲のプレイをアレンジしていくつもりです。ソロで曲を作ると、編集やコントロールも全部自分でできるという自由さがありますよね。次のアルバムを作る機会があるならば、生ドラムで一発録りというのも試したいです。同じことばかりをやっていると、どうしてもそこに合わせたプレイになっていくじゃないですか。例えば、ずっと同じ会場でライヴを重ねると、そこに慣れた身体になってしまうんですよ。僕は今年50歳になるので、これまで以上のプレイをしていくためには、自分にもっと負荷をかけていかないといけないなって思います。

    ●なるほど。

    吉田 サポートで参加させていただいた、キャリアを積み重ねてきてライヴの記録まで持っているような先輩方が、未だに新しいやり方にチャレンジしていたり。そう思ったら、自分はもっと頑張らないとなって……。今回、自分で曲を作るということも絶対にドラムの役に立っていると思いますし、究極はドラム・セットも運ばずMac1台持ち込んで、マイナスワン音源を流して会場常設のドラム・セットで納得のいく演奏ができるくらいになれれば……と思っています。バンドをやりながら、お話をいただければサポートもやって、その合間にドラム・クリニックやソロ活動をやる……そうすれば、体力も衰えずに10年、20年とやっていけるなって。今回完成させたソロ・アルバムは、その入り口なんです。

    Recording Gear

    吉田が1stソロ・アルバム『Charge』のレコーディングに使用したのは、ATVのaDrumsとaD5(キック/タム/スネアに3台使用!)に、ジルジャンのアコースティック・シンバルを組み合わせたハイブリッド・キット。ATVの特性を生かし、アメリカのスタジオで録ったようなドラム・サウンドを目指したそうだ。「ATVは、エレクトロニック・ドラムを演奏する上で心配だったレイテンシーがまったくないことや、サンプリングされた音がすごく良いのが魅力です」と吉田。やはりハイブリッド・セッティングによるタイコとシンバルの被りのない音は、今作のポイントと言えるだろう。フット・ペダルはDW-9002。

    ◎Profile
    よしだよしふみ:1970年生まれ、愛知県名古屋市出身。スタジオ・ミュージシャンとして経験を積み、96年にロック・バンド、TRICERATOPSを結成。現在はバンド活動の傍ら、セッション・ワークで吉井和哉、阿部真央など、さまざまなアーティストのライヴを支えている。

    ◎Information
    吉田佳史 Twitter
    TRICERATOPS HP