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Interview – 小籔千豊[ジェニーハイ]後編
- Interview:Rhythm & Drums Magazine Text:Shinichi Takeuchi Photo:Yosuke Torii
ジェニーハイの理想があると思うんですけど
それに近づくためのピースが足りひんのは圧倒的に僕なので
練習するのも込みで、面白がってもらえたらなと思う
川谷絵音(g)によるプロデュースのもと、tricotの中嶋イッキュウ(vo)、お笑い芸人の小籔千豊(d)、くっきー!(b)、さらに作曲家の新垣 隆(key)という異色の豪華メンバーが揃うジェニーハイ。芸人を本業としながら、バンドのドラマーを務める小籔への初登場インタビュー後編では、引き続き2ndフル・アルバム『ジェニースター』でのプレイや、愛用しているドラム・セットに関するエピソード、そしてジェニーハイにおいて意識している役割について語ってもらった。
ドラムはしっかり聴こえるけど
目立たないみたいなところが理想
●川谷さんや栄太郎(佐藤栄太郎/indigo la End)さんから出てくるフレーズを覚える上で、“自分らしさを出そう”という意識はありましたか?
小籔 一切ないです。僕は、ただただ他のみなさんにご迷惑をかけない、スタッフの方々が支えてくれてることに応える、お客さんがガッカリしないように川谷(絵音)Pが望むラインにできるだけ近づける……(ほな・)いこかさんとか栄太郎さんに比べたら全然上手じゃないし、音も良くないでしょうけど、できるだけ近づくようにするのみです。目立ちたいとか、ドラムの音を聴いてほしいとかはないですね。ドラムの音はしっかり聴こえるけど、目立たないみたいなのが理想かなと。
●先ほど話に出た、ご自身で考えたという「卓球モンキー」の中間部のフレーズですが、どうやって考えていったんですか?
小籔 始まりのところは栄太郎先生が考えたものなんですけど、デモではずっとその連続やったんです。それで“こういうフレーズなんや”と思ってたら、“そこはもう自由にしてもらうためのところです”って言われて。“この尺にハマるパターン何かあるかな? こんなんあるな、こんなんも聴いたことあるな”って感じで必死に考えました。
それで、大阪の先生に“このフレーズは変ですか?”、“全然ありですよ”、“こんなんもいいですか?”、“いいですね。それもありです”って確認して。音楽のマナーみたいなものを覆してる可能性があるんで、ちゃんと範疇に入ってるのかを確認してもらって、‟大丈夫です”ってOKが出たものの中から、自分で並び替えたりしながら固めていきました。
パターンを考えるだけでも何日もかかって、それもいろいろ順番入れ替えたりしてたから、さらに時間かかるんですよね。一旦“これでいこか”って決めても、“何かちょっとちゃうな”ってまた変えたり。パズルをやったような感じです(笑)。そうやって決めたフレーズを“これでどうでしょう”って栄太郎先生に送ったら、“ああ、良いですね”って言ってもらえました。
●大阪で教わっている先生と一緒に作ったドラム・パートを、栄太郎さんにチェックしてもらって、さらにそれを川谷さんがディレクションするという流れでドラム・パートが完成するんですね?
小籔 そうですね。まず大阪の先生のところで、“直して、また怒られて”を繰り返して、その上で栄太郎先生に確認するので、あんまり怒られることはないですけど、僕が根本的に理解してないときとか、あとは、僕が苦手な部分については注意されます。「BABY LADY」は、大阪の先生にめっちゃ怒られましたね。
●なるほど。その「BABY LADY」は、2Aでキックとスネアだけで成立させる場面が印象的でした。ガイドとなるハイハットの刻みがないと、間を取るのが難しいですよね?
小籔 はい。ああいう曲をやるときはクリックがあると助かりますよね。なかったら多分グダグダに……あれはもうクリック頼りですよね。
●クリックに合わせるのは苦手じゃないんですか?
小籔 いや、最初はわけがわからなかったですよ。練習のとき……例えばアクセント移動ですか、そういうときにはクリックを使っていましたけど、クリックを聴きながら曲を叩くっていうのはしたことなかったので。でも今はないと困りますね。自分に自信がないぶん、曲が遅くなったり速くなったりすると申し訳ないので。クリックがあるとちょっとズレても戻れるので、全体のスピードは担保されるというのは本当ありがたい。今は頼もしい相方になってますね。
●さらに曲の話を聞きたいんですが、「ルービックラブ」のサビは、ちょっとだけハイハットがオープン・クローズに聴こえるんですけど、あれは実際どういうふうにやっているんですか?
小籔 閉じたままです。
●サビではちょっと開いているように聴こえますよ。
小籔 ああ、そこはライドです。そうですね、ハイハットは曲によっては閉じているけど緩めとか、ニュアンスを変えていますね。すべて栄太郎さんの指示通りです。
●「シャンディ」は8分と4分の刻みが混ざっていると思うんですけど、8分はアップ・ストロークを意識して刻んでいるんでしょうか?
小籔 どうだったかな……ただ、あれも基本緩めで、“ここはちょっと開き目で”とか“ここはガシャガシャ開けてください”、“でもここは逆に閉じてください”って感じで、けっこう細かく指示されたのは覚えています。
●そんなふうに細かく指示されながらレコーディングでやったことを、ライヴで再現するのは大変ですよね?
小籔 でも、他の方々はいろんな曲をやっているから、きっと覚えるのも大変だと思うんですけど、僕は1回それでやったら、そればっかりずっとやるので。逆に“それ以外でやって”って言われた方が困る(笑)。“これはこういうふうに叩く”って言われたら基本的にはもうそれしかできないんですよ、そればっかりずっと練習するから。
●もう身体で覚えるみたいな感じですね。
小籔 そうですね。他のみなさんは持ってるテクニックをその曲に当てはめると思うんですけど、僕はもう、ただただ完コピ。でも、2枚目のアルバムになるので、“ここはあの曲のフレーズに近いな”とか、“ここはあれと一緒やな”っていうところも出てきたんで、けっこう転用はできるようにはなってきましたけど。
●『ジェニースター』のレコーディングで使ったドラム・セットは?
小籔 ジェニーハイって書いてあるパールの特注です。別に現場に車で行くわけでもないし、置くとこもないし、最初は買わんでもいいかと思ってたんですけど、川谷(絵音)Pも(佐藤)栄太郎先生も「買っても良いのでは?」って言うてきて。まぁライヴもあるし、買おうかな、と。
ペダルもスティックもこれが良いなと思ったものがたまたまパールで。セットを買う前に、“スネアも1個くらい持っていたがいいよ”って言われて、色がめっちゃかわいいやつをネットで見つけたら、それもパールだったんですよ。それでセットもパールがいいなと思って、本社にお話しに行きました。“タムはバスドラから生えているヤツがいいです”とか“色は黄色にしてほしいです”っていろいろ要望を伝えたら、“それなら特注になります”って言われましたね(笑)。
ちなみに黄色のドラムにしたのは、最初にチャットモンチーとやったときに、アッコちゃんさん(福岡晃子)が使ってたドラムが黄色やったんですよ。“色どうしますか?”って言われて、初心を忘れないように黄色にしたんです。ドラムのお母さんはチャットさんなんで、黄色にして真面目に練習するぞ、と。
●そういう理由があるんですね。では『ジェニースター』はドラマーとしての小籔さんにとって、どんな作品になったと思いますか?
小籔 また一歩上達させてくれたアルバムっていう感じですかね。それと、もともとゲスの極み乙女。がすごく好きだったから、川谷Pの曲自体がやっぱり好きなんですよ。プロじゃないんでコードがとか、そんなの全然わからないんですけど。
●今まで聞いたことと重複してしまうかもしれませんが、ジェニーハイにおけるドラムの役割は何だと思いますか?
小籔 音楽は、歌がうまけりゃ売れるわけではないし、演奏がうまい人らだけでやったら売れるのかといったらそうでもないっていう難しい世界ですよね。で、僕はどうなんだっていうと、もっと手前の問題で、ダントツで下手なんですよ。
漫画の『ONE PIECE』でいうと、(中嶋)イッキュウさんは女の子やからナミとしても、川谷Pがサンジで、チョッパーがガッキー(新垣 隆)で、ゾロはくっきー!で、僕はウソップ。‟パチンコしか打たれへん”みたいな感じなので、みんなに必死についていくだけです。
多分、ジェニーハイの理想があると思うんですけど、それに近づくためのピースが足りひんのは圧倒的に僕なので、練習するのも込みで、面白がって興味を持ってもらえたらなと思うんです。“あいつ、最初の頃のライヴ、むっちゃ下手だったのに、10年経ったらそこそこになってるやん”みたいな、朝顔の成長日記のように見てもらって、何とか楽しんでもらえたら。うまいドラムのバンドを聴きたかったら他を聴いてくれと。こっちは朝顔でやってますんで(笑)。
●自分がうまくなればバンドの理想に近づくということがご自身の中で見えているからこそ、じゃあもっと頑張ろうっていうことになりますよね。
小籔 そうですね。ただそれだけです。だから粛々とミッションをこなしていきつつ、本業もありますので、本当は1日8時間練習したいところですけど、できへん中で“こいつは真面目にやっとんな、許したっとこか”っていうふうに、音楽関係者の方やファンの方から思ってもらえるようになっていけたらなとは思っています。
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