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    Interview – 神谷洵平

    • Interview & Text:Akira Yokoo Photo:Takashi Yashima、Kana Tarumi(Live photo)

    コロナ禍にしかできない
    やり方とか音って絶対にあると思う
    それをどう面白くするかは発想次第

    ●音楽が日々大量消費されていく時代の中で、今回は社会情勢もありましたが、強い意思を持ってとても丁寧に作ったんだなと感じました。

    神谷 自分の音楽家人生の中で、すごく大切な作品の1つになったと思います。それを誰かに評価してもらいたい、売れたい、みたいな意識は全然なくて、この社会情勢の中で仲間とリモートでこれだけ丁寧に作れたっていうのは、モノ作りがわかる人にはすごく共感してもらえるんじゃないかなと思っています。

    それがもし伝わっていたならすごくうれしいですね。いわゆるバンドの一発録音のマジックじゃなくとも、誰一人手を抜いていない(笑)、最後までこだわって作れたアルバムだと思います。

    このコロナ禍にしかできないやり方とか音って絶対にあると思うんです。それをどう面白くするかは発想次第で、何十年経ってその時期の作品をたくさん聴いたときに、“だからこの時期は、リモートだったり電子ドラムの作品が多いのか”とかわかるかもしれないですし。音楽史に残る可能性もあるわけですからね。

    各々が簡易的な気持ちでモノを作るってことじゃなくて、ちゃんとした気持ち、ちゃんと今と向き合って作品を作るというか……。みんな今を乗り越えるために、“俺、今ここにいるぞ!”みたいな、垂れ流しの手を振っている配信じゃなくて。

    もちろん存在を証明する承認欲求みたいなことって快感はあるんですよ。僕もあります。でも僕はクリエイターでいたいから、そこに甘んじたくはないんです。こんなこと言うといろいろ批判されそうだけど(笑)、僕はやっぱり人と違うことがしたいってずっと思ってきたし、今回の作品が自分のドラマーとしての生き方の中で自分を、自分しかできないことを突き詰めるっていう1つの要素ができたというか、自分の音楽をやっと出せたなって思っています。

    ●そういう意味でコロナ禍は自分と向き合うたっぷりの時間が取れたのかもしれないですね。

    神谷 本当にそうです。自分がこれからどういうふうに生きていくか、ドラマーとしてどう生きていくかって考えるのには良い時間でした。例えば、ひたすら曲を作るとか練習をしたという人もいると思うんですけど、今までやれていなかったことを集中してこの何ヵ月かやって、自粛期間が終わって久々に演奏するとき自分の変化に気づくと思うんですけど、そのとき新たな出発点がその人に問われているような気がするんです。

    これだけは言いたいことがあるんですけど(笑)、今回、誰かの曲に携わる自分と自分の曲に携わる自分との関係性で気づいたというか、今まで自分は他人の曲に対するドラムに無責任だったと思うんです。思い入れをそこまで入れないって言うと変ですけど、これまではそれを入れすぎて収集つかないことが多くて。自分の曲を叩いたことで今はすごく執着心が減った気がするんです。

    だから自分のアルバムを作った後にサポートで演奏したとき、“自分がどういうプレイをすればプラスになるのか”ではなくて、“自分がこの曲に対して、みんなの演奏に対してどうあるべきか”ってことしか考えなかったんですよ。(ソロ・アルバムを作ったことで)そういうふうに考えられるようになったのはすごく大きな変化でしたね。

    今はドラムが自由に叩けるような気がしていて……言い方が難しいですけど、“思考”でドラムを叩かなくなるというか。邪念を捨てると、叩きたいドラムが叩けている気がして不思議な感覚になるんですよ。

    自分的には作品ができた喜びはもちろんあるんですけど、そういうドラムの感覚を得られたことが一番の成果かもしれないですね。ドラムが楽しくなりましたよ(笑)、変わるもんだなと。少しだけ達観して物事を見られるようになったと思っています。

    一気にいろいろ言ってますけど(笑)、僕が憧れている海外の音楽、海外のドラマーのグルーヴって絶対にその場で何かが起こっているんですよ。それが何なのか……多分この日にこういう機材を作って、こういう人達が集まってこのスタジオで録ったからとか、そういうことじゃないんですよ。やっぱりその状況とかそのときの気持ちとか……何だろう、状況がいくつか重なって良いものができていく、みたいな“何か”があって。そういうことってすごく大事だと今回の作品を通して思いました。

    だから、その“何かを起こす何かって何だろう?”って常に考えていきたいです。アンサンブルっていうのもあると思うんですけど、やっぱり“何か”があるんですよ。それを追究するのが楽しくて。難しいですけど。

    ●良い音楽っていうのは、まさにその“何か”じゃないかと思います。

    神谷 絶対にそうなんですよ。非現実を起こしたくてしょうがないマインドとか。否定するつもりはないですけど、日本のみんなで同じ気持ちを分かち合って同じ方向に進んでいこうみたいな教育が、その何かを起こす弊害を生んでいるような気もします。

    決められた通りに音楽をやって演奏する喜びもわかるけど、自分に響くものやお客さんに伝えたいものがメンバー間で共有できた瞬間って素晴らしくて、今回はコロナ禍における状況とマインド、演奏が間違いなく作品に影響をおよぼしていると思いますね。それがさっき言った“何か”を起こしているのだと思います。

    別にコロナのことを歌っているってことじゃないですけど、同じ状況下で同じ気持ちで、しかもリモートで録ったアルバムで、それこそマスタリングしてくれたアンドリューでさえ同じコロナ禍という状況。世界的に同じ状況って普通あり得ないじゃないですか。ある意味奇跡のアルバムだと思うので、ぜひ聴いてもらいたいですね。

    ◎Profile
    かみやじゅんぺい:1983年生まれ、静岡県出身。ドラマーであった両親の影響で5歳よりドラムを与えられ、触れ始める。Jon BrionやBeckの影響で高校時代から作曲も開始。東川亜希子との赤い靴では作詞、作曲、アレンジ、さまざまな楽器も担当する。自身の活動と並行して、楽曲提供/アレンジ/プロデュースの他、大橋トリオ、THE CHARM PARK、優河、Predawn、松室政哉など、さまざまなアーティストのライヴ/レコーディングにも参加。

    ◎Information
    神谷洵平 Twitter