PLAYER

UP

Interview – 神谷洵平

  • Interview & Text:Akira Yokoo Photo:Takashi Yashima、Kana Tarumi(Live photo)

自分の曲を叩いたことで今はすごく執着心が減った気がする
邪念を捨てると
叩きたいドラムが叩けている気がして
不思議な感覚になるんですよ
そういう感覚を得られたことが一番の成果かもしれないですね

2010年より活動している自身のユニット=赤い靴での活動をはじめ、大橋トリオ、THE CHARM PARK、優河、Predawnなど、さまざまなアーティストのライヴ/レコーディングに参加し、近年ではCMや映画の楽曲制作、アレンジ、プロデュースなどもこなす神谷洵平が、初のソロ・コラボ・アルバム『Jumpei Kamiya with…』を彼の主宰レーベルよりリリース。自身による全作曲/プロデュースのもと、繊細かつ大胆に音世界が広がっていく同作は、コロナウイルス感染拡大のため中止となった神谷のソロ名義によるライヴに代わって制作されたもので、ツアー・メンバーであった彼の音楽活動に深く関わる仲間達と共にオール・リモートで創り上げたという。ここでは、作品について、今思う音楽観、ドラマー/ミュージシャンとしてのこれからについて神谷に語ってもらった。

制限があるってことが素晴らしいんです
コロナ禍だから作れた音像だったり個性だったりする

●いわゆるSTAY HOMEの自粛期間中、さまざまなミュージシャンが“今後どう活動すべきか”を模索していたと思うんですけど、神谷さんは自宅スタジオで『Jumpei Kamiya with…』の制作にこもっていた……というわけですね。

神谷 そうですね。とはいえ、最初はガーデニングやって花の成長を楽しんだり(笑)、いきなり制作入っていた感じではないですよ。

●多くのアーティストが配信ライヴを行っていましたが、神谷さんは?

神谷 勢いで1回インスタ・ライヴをやったんですが、サポート以外ではほとんどやらなかったです。ある意味、配信が弊害になっている人もいるとは思うんですよね。意味のない競争心で無料の垂れ流し配信やるなんておかしいと思うし。

●ツールによって音質も変わりますからね。

神谷 受け取る側の質を高めるのは僕らなんで、リスナーを甘やかさない(笑)。タダで音楽を聴くのが当たり前のようになってきていますけど、そのへんはコントロールしたいなと思っていて……愚痴ですけど(笑)。

●(笑)。話は戻りますが、もとは2月からソロ名義のツアーがあったんですよね。

神谷 そうなんですよ、僕自身が企画していたツアーがあったんです。自分で集めたバンド・メンバーとゲスト・ヴォーカルを入れてライヴをするというものだったんですけど、ちょうどコロナウイルスの影響で全公演中止になってしまったから、“ソロ・アルバムを作ろう”という気持ちになれたのはありますね。作品にすることで自分たちが前に進めるきっかけを作ろうと思って。

1st Solo Album『Jumpei Kamiya with…
Make Some Records
配信限定

[収録曲]
M1. Some of See This feat.Yohei Shikano
M2. Invisible Seasons feat.Jumpei Kamiya
M3. Bubble feat.Yuga
M4. Bathing for The Sun feat.Ryo Hamamoto
M5. Gingerbreadman feat.Predawn
M6. Shine Again feat. The Charm Park
M7. Wat feat.Daniel Kown

[Band Member]
神谷洵平(d、etc.)
隅倉弘至(b)
岡田拓郎(g)
Rayons(p)
副田整歩(sax)

●なるほど。

神谷 そもそもソロ・アルバム自体は、この3〜4年くらいずっと作りたいと思っていたんです。ただ、ドラマーとして自分がどういうドラムを叩くのか、そもそもドラムにスポットを当てるのか……何をメインに出していくのかは迷いましたね。

●最初にBandcampで配信された「Invisible seasons」は、神谷さんが歌っている驚きはもちろんですが、何より全体の音像が素晴らしかったです。

神谷 ありがとうございます。実はこの曲、ずっと歌詞ができていなくて、ギリギリで間に合うのかなと思っていたんですけど、それこそコロナ禍と重なって、その個人的な心境をすっと書くことができたんです。今まで歌詞なんてまともに書いたことなかったから新鮮でした(笑)。

●歌詞を書くって難しいですよね。

神谷 でした(笑)。自分が体験したリアルな感覚を歌詞に書くなんて、生きていてそうないじゃないですか。哀しみに暮れて失恋の歌詞を書くとか(笑)。そもそも歌詞もリズムなので、英詞が良いかなと思っていたんですけど、今回、コロナ禍での自分の心境が自然と文字に書けたんです。味わったことのない感覚でしたね。

●ドラマーが書いた曲だけど、ドラム!って感じじゃないのも良かったです。

神谷 今回は本当にまったくドラムは目立っていないですね(笑)。ドラマーが聴いても何も思わないかもしれない……。でも自分自身が(曲を書いて)、“曲に対してのドラムを叩く”ってことに集中できました。大変でしたけど(笑)。

Jumpei Kamiya 「Invisible Seasons」

●今作の録音はコロナ禍ということで、全メンバーそれぞれが自宅でレコーディングして神谷さんのもとにデータを送る、オール・リモートで制作を進めていったそうですね。

神谷 よくレコーディング・セオリーで“1テイク目が良い”とかあるじゃないですか。僕以外のメンバーもそうなんですけど、自粛期間でしかもリモートだからめちゃくちゃ追い込んで録るんですよ。

●時間の制約がないから、何回もテイクを重ねて、より完成度を高める……みたいな。

神谷 そうですね。同時に録るわけじゃないし、何回でもやり直しができるので。今回参加してもらったメンバーは、みんな曲を書くアーティストですけど、全員が納得いくまで録り続けて完成度を高めていくタイプということもあって、無限に詰めていくんです(笑)。

録り方は順番があって、まず僕が自宅スタジオでドラムを録って、そこから各パートにデータを回して最終的に僕のところへ戻ってくるんですけど、自分は自分が作った仮デモしか聴いていないから、みんなの音が乗って本当に素晴らしい出来上がりになって戻ってくると、やっぱりドラムを録り直したい!っていう曲も中にはありました。Predawnが歌う「Gingerbreadman」とDaniel Kwonの「Wat」かな。ゴメンみんな!ってことでドラムを録り直しました(笑)。

あと面白かったのは、リモートで自宅録音だから、みんなそれぞれの録り方をしているところですね。ヴォーカリストもそれぞれの機材で録っているんです。ダニエル君はSHUREのBETA57とか、ライヴ用のマイクを使っていたりとか、オーディオ・インターフェースも簡易的なものしかないっていう人がいて、僕の自宅スタジオで録る話も出たんですけど、それぞれの家にあるもので完結しないと面白くないと思ったんですよ。

機材とか環境を良くしてしまったら、それぞれの個性が失われるというか。制限があるってことが素晴らしいんですよ。コロナ禍だから作れた音像だったり個性だったりするんです。

●リモート録りもアプローチの1つとして考えると面白そうですね。それによって生まれるマジックもありそうですし。

神谷 人によってはすごく良いと思います。レコーディング・メンバーの岡田(拓郎/g)君は「今回、自分のベスト・プレイができました」と言ってくれたんですけど、彼みたいなアレンジャーや曲を作る人からしたら、やっぱりこのくらい練ってやりたいんだなと思いました。普段はやっぱりスタジオの時間制限とかあるから。僕自身もサウンドが曲に合っているかどうか、何回もドラム・セットを換えましたし。しかも僕はものすごい機材を集めてきてしまった人間なので(笑)、こういうときじゃないと使えない楽器も使いましたよ。散々試しました。

●今聞いてきたお話も踏まえて、とにかく音が素晴らしく良かったです。海外で録ったような質感、楽曲に対するドラムの音色とか……。

神谷 やっぱり僕が音を作り込んでいくのが好きなので。ただそれは、ドラムをチューニングしてっていうのはもちろんですけど、マイキングや録った後の処理……コンプをかけたりっていうのも大きいですね。あと、ミックス・エンジニア佐々木 優君とのミックスのやり取りが本当に充実していました。本当に彼が良く応えてくれました。岡田君のミックスも素晴らしい。2人には頭が上がりません。

さらにマスタリングでビッグ・シーフのプロデュースなども手がけているアンドリュー・サルロに奇跡的にお願いできたんですけど、またそこで大きく変わって。めちゃくちゃ太くなったんですよ。そういう意味では音を作りすぎたかなっていう感じもあります。

●あまり“余地”を残さなかった?

神谷 そうなんですよ。作り込みすぎてて、想像の余地がないと言われればそうで。とはいえ、全体的に考えても納得いく満足いくアルバムになりました。