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    Interview – 神谷洵平

    • Interview & Text:Akira Yokoo Photo:Takashi Yashima、Kana Tarumi(Live photo)

    大事なのは部屋の広さとそれに見合った音量
    その音量で叩くときのマイクとドラムの距離

    ●神谷さんは普段どうやって曲を作っていくんですか?

    神谷 大半はピアノですね。ピアノと歌だけとか。同時に曲のアレンジが頭の中で鳴っていて、ドラムはいつも最後です(笑)。だからドラムが乗ると、“ああ、こういう曲だったのか!”っていう余白が残されているとも言えます(笑)。

    ●神谷さんが使われているDAWは?

    神谷 Logicですね。ピアノと歌を起点に他の楽器を重ねていく感じです。ちょっとしたフックになる要素、ストリングスやホーンを重ねて、そこからドラムを入れるんです。ベースはあったりなかったりですね(笑)。

    もともとGarageBandで曲を作り始めたのが12年前で、曲になっていないパーツみたいなものはいくらでもあったんです。赤い靴でも(東川)亜希子さんに“最後まで曲を作れるはずなのに作れない人”って言われるくらい、曲として着地させるのが苦手で(笑)。

    でも、自粛期間前にギターの岡田君が家に遊びに来てくれたことがあって、僕のデモを聴いて彼が「いや、これ絶対曲になりますよ、ちょっとしたことで。神谷さんアレンジャーなのに、なんで構成考えないんですか」って言われたりして(笑)。あと、亜希子さんには経過を何度も聴いてもらい励ましてもらいました。しかし、僕が救いの手を求めるのは簡単なので、最後まで責任を持つことには徹しました。

    ●曲作りってつなげるのが難しかったりしますよね。

    神谷 そうなんですよ。それをアレンジ脳で組み立てていくというか。今回はメンバーみんなが僕に自信を持たせてくれたと思います。ゲストが歌詞を書いてくれたのも本当にうれしかったし、実際にゲストの歌と歌詞が入ってくると「めっちゃ良いじゃん! この曲こんな良かったんだ」って毎回感じてました(笑)。僕のドラムなんて全然目立たない影の存在で、本当にメンバーが作ってくれたアルバムなんです。

    ●神谷さんのルーツをメンバーがうまく汲み取って昇華させたような感じはあります。

    神谷 そこはもうメンバーとその価値観が共有できたことに尽きますね。細かく注文しなくても、デモからどんどん変えてくれるんです。メンバーから「ここ変えておきましたよ、ここにシンセ足しておきましたよ」とか、ちょこちょこあったんですけど、それがすごく良いんですよ。NGなんてまったくなくて、うわー、めちゃ良くなった!っていつも思っていました、本当にありがたいです。相乗効果ですね。唯一みんなで同時に喜べなかったのが悲しいくらい(笑)。

    ●(笑)。孤独な作業のせいなのか、制作期間中はSNSでマイキングをかなりアップしていましたね。

    神谷 そうなんですよ。やればやるほど面白くて。正解ってないじゃないですか。やっぱり曲ありきだから楽器との相性とかチョイス、距離……結局一番大事なのは、部屋の広さとそれに見合った音量だと思いました。その部屋に見合った音量で叩くときのドラムとマイクの距離が大事だな、と。レコーディングが進むにつれてどんどん音が良くなっていったように思います(笑)。

    ●ドラムはかなり小さい音で叩いたとか。

    神谷 普通のレコーディング・スタジオはそんなことあまりしないんですけど、全曲めちゃくちゃ小さく叩いているんですよ。それは6畳の自宅スタジオの広さに見合った音量っていうのもあるんですけど、結局後で音を作れるよう小さな音量でコントロールした上でちょっとずつ後から太くしていく……みたいなねらいです。すごく練習になりましたね。

    触っているくらいの音量で録っていながらもアタックを出すためのちょうど良い塩梅を探るんです。だからコントロールの難しさは相当でしたけど、独りでやっているのでわかってもらえず、誰かに言いたかったです(笑)。

    • 神谷の自宅スタジオ。広さは約6畳で、ドラム、鍵盤、アンプ、PCなどなど所狭しに機材が並ぶ。

    ●(笑)。弱音で良い塩梅に叩くのはドラマー冥利に尽きるのでは?

    神谷 一番大事にしたかったのは、雰囲気なんです。ムードを出すってそういう音量じゃないと出せないんですよね。シンバル一発でもそうだし。今回激しい曲がなかったっていうのもあるんですけど、そのムードを6畳の狭い自宅スタジオの中で作って出していく音量感は本当に難しかったですね。

    ●だから何回も録り直したり……。

    神谷 そうですね。テイクを重ねる原因は音色なんですよ。何回もスネア、シンバル、マイキングを変えましたし……。自分が“ドラマーとしてここは叩いておこう”とかちょっとした欲が出ると曲を壊しちゃうんで。とにかく邪念を捨てて曲を壊さないようにっていう、ある意味訓練みたいな感じでした(笑)。

    ●(笑)。制作が進むにつれて段々と変わっていった曲はありますか?

    神谷 そうですね。鹿野洋平君が歌っている「Some of See This」は最初全然違う曲で、もとはダンサブルで陽気な曲だったんです。洋平君に音データを送って、歌詞とメロディが乗ったときに何かギャップを感じたんです。なので、歌がある状態で全部コードを変えたんです。そうしたら一気に曲が変わっていって。歌詞とメロディが乗った時点で曲の方向性を決めるみたいな、面白さもありましたね。なので、構成も曲も特殊だと思います。

    ●優河さんが歌う「Bubble」は彼女の曲と言っても違和感ないくらいで。

    神谷 優河ちゃん自身があの曲を気に入ってくれて。詞と歌が乗ったときは感動しまくって、2人とも“めっちゃ良くない!?”って電話で長話しちゃいました(笑)。やっぱり歌詞なのかな。すごく良いんですよ。

    Jumpei Kamiya Bubble feat. 優河

    あの曲は作った時点でどういうイメージを持っているのかというミーティングがしっかりあって、海底登山……海の中にある山脈っていうんですか、そこを登っていくような感覚が欲しいと言ったら、彼女は深海の動画とかいろいろなものを見たり調べたりしてくれて。イメージを膨らませて歌詞を書いてくれたんです。そのイメージと優河ちゃんの言葉選びが合致したような感じで素晴らしかったです。

    めちゃくちゃ自画自賛ですけど(笑)、美空ひばりさんの「愛燦々」みたいな曲ができたなんて思っています。愛なんてなかなか歌えないじゃないですか。それをさらっと、ちゃんと言葉で歌えているのがすごいなって感動しました。