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【Analysis】歌とガッド……参加作品から探る“ドラムの神様”の名演
- Score&Text:Yusuke Nagano
「Late in the Evening」
Paul Simon
歌モノで炸裂するモザンビーケ・パターン
ポール・サイモンが手がけた映画のサントラで、ガッドが得意とするモザンビーケの手順をそのまま応用したラテン・グルーヴの楽曲。Ex-5がその基本形で、右手はフロアのリムを叩いてパーカッシヴな音色、左手は2つのタムを往復する形となる。このパターンは片手に2本ずつのスティックを握って演奏しているのもポイントで(チップ側をまとめてグリップ)、それによってスティック同士が当たる“カチカチ”という音色や、タムの厚みを加えている。いかにもガッドらしい独創的なアイディアだ。
「Livin’ It Up」
Bill LaBounty
エナジーを注入する熱く強いガッドが光る
AORの名盤の1つで、哀愁を帯びたメロディが印象的なハネ系16ビートの曲。抑制された中にも強い意志を秘めたガッドのプレイが光る。Ex-6aはCメロからサビに入る部分での6連フィル。たった1拍であるが、重心の低い明確な語り口は、そこまでフィルが少ないこともあり、非常に説得力を持つ。また6bはフェイド・アウト寸前部分。鋭い16分音符の引っ掛けを加えて、最後の最後までエナジーを果敢に注入していく熱い様子が曲をギュッと引き締めている。
「Love Lies」
Michael McDonald
ガッド印で盛り上げる計算されたアプローチ
マイケル・マクドナルド初のソロ・アルバムに収録された、ミディアム・テンポの16ビート系の楽曲。Ex-7はサビのパターンで、前半はカップでウラを強調しながらサンバ風の16分音符のバス・ドラムを効かせていく形。そして後半2小節は、左手で16分ウラのハイハットを加えたガッド印のパターンに移行。カップのウラ打ちや3拍目ウラのスネアなど、基本となるリズムの性格をそのまま維持しながら音圧を高めて盛り上げていく、見事に計算されたアプローチ。
「Belfast To Boston」
James Taylor
ドラムのトーンにも込められた深い表現力
ジェイムス・テイラーの15作目に収録された曲で、“Belfast”は北アイルランドの都市名であり、ガッドもアイリッシュを思わせるマーチング系のアプローチを展開。Ex-8は間奏でのロールやバス・ドラムのアクセントを絡めた3拍子パターン。繊細でありつつ奥行きを感じさせる手応えのあるタッチで、特有の陰影を生み出している。歌詞も“世の紛争”をテーマにした内容なのだが、ドラムのトーンからも冷たさや悲しみが伝わってくるように表現力が深い!
※本記事は2012年1月号の記事から抜粋した内容になります