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【Rest In Peace】チック・コリア追悼 スティーヴ・ガッドと共に残した名演の歴史

  • Score & Text:Michiaki Suganuma
  • © Jordin Pinkus / Chick Corea Production

2月9日に急逝したアメリカを代表する音楽家、チック・コリア。50年以上に渡ってジャズ・フュージョン・シーンを牽引し続け、数々の作品を世に送り出してきた。ドラマーの才能を引き出す名コンポーザーであり、ロイ・ヘインズ、レニー・ホワイト、デイヴ・ウェックル、トム・ブレックライン、ブライアン・ブレイド、マーカス・ギルモアらと共演。中でもスティーヴ・ガッドと共に70年代に作り上げた傑作の数々は、現在も色あせることない輝きを放っている。ここではチックの功績をあらためて振り返るべく、2人が残した名演を検証していこう。

① 1970年代後半のコンセプト三部作

2人の初共演は、リターン・トゥ・フォーエヴァー(RTF)の第二期で活動していたチックが発表した『The Leprechaun』。その続編的な『My Spanish Heart』、さらに集大成的な『The Mad Hatter 』と、高度な楽曲による組曲的なコンセプト・アルバムが次々とリリースされる。この3作(勝手に三部作と括らせてもらったが)で起用されたことで、スティーヴの高い音楽性とテクニックは広く知られるようになり、フュージョン・ドラミングの偉大な“お手本”を作り上げたと言っても過言ではないだろう。

ガッド流テクニックを凝縮した「Lenore」

Ex-1「Lenore」におけるスティーヴの画期的なパターン・アプローチ。ハイハットを左手で叩くオープン・ハンド奏法と、リニア・アプローチが融合し、曲とも見事にマッチ。ガッド流テクニックの凝縮した名演である。

チックのユニゾンに完璧に対応する
「Leprechaun’s Dream」におけるドラミング

Ex-2Aは同アルバム収録の「Leprechaun’s Dream (妖精の夢)」でのソロのバッキング・アプローチ。スパニッシュ感覚のフュージョン・グルーヴで、後半のパラディドル型のチェンジアップ・プレイは、インタープレイを煽るスティーヴらしい高速のメカニカル・プレイ。2Bは曲終盤での完全なユニゾン・パートでのプレイで、チックの畳み掛けるようなスリリングなユニゾンに完璧に対応したドラミング。メロディも意識したタム・プレイや、抜群な曲解釈による後半のキック連打も秀逸!

ブラシを使った「Love Castle」のサンバ・パターン

Ex-3は『My Spanish〜』収録の「Love Castle」におけるブラシを使ったサンバ風パターン。これもオープン・ハンドによるガッド印のアプローチと言えるが、近年ことにジャズ以外でもブラシを使うことの多いスティーヴだが、そのスタイルの原点と言えるかもしれない。

ドラム・コーのスキルが生かされた
「Spanish Fantasy, Part 1」のプレイ

Ex-4も同アルバムより「Spanish Fantasy, Part 1」でのユニゾン・パートで、お得意のドラム・コーのテクニックが生かされたプレイ。6連部のコンビネーションもらしさが出ている。

「Dear Alice」のソロ・パートで展開する
トレード・マークのモザンビーケ型のアプローチ

Ex-5Aは『The Mad〜』収録の「Dear Alice」のソロ・パートに出てくる、トレード・マークとも言えるモザンビーケ型のパターン。チックとの共演ではしばしば登場し、一瞬にしてラテン色に変えてしまう威力を発揮する。5Bはそのソロ・パートでの一部で、2人のプレイが完全に一致した瞬間を示したもの。随一の反応スピードを誇るスティーヴだが、この気の合い方は“異常”!

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