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    Archive Interview- ヴィニー ・カリウタ〜世界最高峰のオールラウンダーが語るドラミングの極意!〜

    • Interview & Text:Rhythm & Drums Magazine
    • Interpretation & Translation:Akira Sakamoto
    • Photo;Wire Images/Getty Images

    あらゆる音楽スタイルを完璧に叩きこなす究極のテクニックと極上のグルーヴ、豊富な音楽知識に百戦錬磨のキャリアも備えた世界最高峰のオールラウンダー、ヴィニー ・カリウタ。本日2月5日は彼の誕生日ということで、彼が唯一メンバーとして参加するトリオ=ジン・チが再集結し、アルバム『SUPREMO』のリリース・タイミングで実現したアーカイヴ・インタビューの一部を公開! 

    2018年にブルーノート東京にて行われたジン・チの来日公演

    より少ない音数でより多くのことが
    表現できるということを伝えたかった

    ●ジン・チの新作『SUPREMO』が発表になりました。ワクワクするような音楽で、聴きたいことがたくさんあります。まずどんな経緯で約13年ぶりにアルバムを作ることになったのでしょうか?

    ヴィニー  ジミー(ハスリップ/b)から、“アルバムを作らないか?”と電話があったんだ。彼はすでにロベン(フォード/g)と話をしていたようで、レーベルの人も乗り気だった。それで結局、ロベンも僕も賛成したんだ。何より長い間アルバムを出していなかったからね。そんなわけで、僕にとっても突然の話だったし、何の前準備もなかったことになるけれど、それが却って良かったんじゃないかな。思いつくままにアルバム作りができたからね。

    レコーディング前の打ち合わせも、確か1回くらいだったと思う。おかげで、今の僕らのありのままの姿を表現できたと思うね。前作の方向性を保とうといったような、余計なことを考える必要もなくて、とても新鮮な気持ちでアルバム作りができたんだ。“ああしなきゃ、こうしなきゃ”といったプレッシャーからも解放されていたからね。その意味では、とても率直な表現になっているんだ。

    ●3人の息が合っているのも、自由に表現できた大きな理由の1つでしょうね。

    ヴィニー  その通り。僕らには特別な一体感があって、お互いのことをよく知っているし、いろいろな場面で一緒に仕事をした経験がある。安心感もあるし、お互いのやることを信用しているからね。それがとても良い形で影響を及ぼしたんじゃないかな。自分の殻を破って外に飛び出すことの大切さについてはよく言われるけれど、それは大きな文脈で理解する必要がある。

    というのも、殻を破るには、気心の知れた相手と一緒にやる必要があるんだ。グループでやる以上、音楽の中でどんなことが起こっても対応できるようにするためには、お互いの信頼関係が必要不可欠だからね。グループ内に居心地の悪い雰囲気が漂っていたり、メンバー同士が敵意を抱いていたりすれば、不信感が広まって、インプロヴィゼーションの妨げになってしまう。むしろグループ内の緊張感がワクワクするような音楽を生むみたいな主張もあるし、それにも一理あるとは思う。でも、僕らの場合は、お互いのことをよく理解して信頼もしていたからこそ、自分達が納得できる音楽が自然に生まれる状況を創り出すことができたんだ。

    ●グルーヴやリズムの点については、あなたが音符を置く位置を見極める精度の高さが印象的でした。それがグルーヴ全体の質感やフィールを決定づけているように思うのです。例えば「Better Times」は、譜面にすると何の変哲もないミディアム・テンポの8ビートですが、そこにほんのわずかにシャッフルというかスウィングのフィールを盛り込むことで、独特な質感を創り出していますよね?

    ヴィニー  どうもありがとう。そこを指摘してもらえると、僕らも目標を達成したという気分になれるよ。ごくシンプルな演奏で多くを表現することは可能だけれど、そのためにはやり方を心得ている必用がある。僕の経歴を知っている人なら、僕が過去30~40年の間に、ごくシンプルなものからものすごく複雑なものまで、ありとあらゆる音楽に関わってきたことを理解していると思う。ドラミングもシンプルだったり複雑だったり、ものすごく速いテンポだったり、その中間のあらゆる組み合わせのものだったりする。そして僕はいろんな仕事をやってきた経験から、それらをコントロールする方法を身につけたんだ。

    このアルバムでは、まさにその“より少ない音数でより多くのことが表現できる”ということを伝えたかった。ただし、それはただ単に、単純か複雑かの違いという意味じゃない。よく“仕事を取るにはシンプルに叩けるようになる必要がある”なんていう話をするけれど、それをただ単純に叩く作業として捉えると、大切なものを見失ってしまう。シンプルにやることの意味を軽んじているようなものだからね。

    今の時代は誰もがセンセーショナルなことをやろうとするあまり、バランス感覚を失っていると思う。しかも、ただバランス感覚を失っているだけじゃなく、単純か複雑かの比較だけで物事を捉えようとしていて、それは未熟な考え方だと思う。重要なのは、タイムの質感の微妙な違いによって説得力のある表現ができるということを理解することだからね。シンプルでも説得力のある演奏ができるのは、個々の音に微妙な変化をつけることで、ものすごく幅広い表現の余地があるからなんだ。

    それを実現するためには、伝えるべき特定のコンセプトをはっきりと意識している必用がある。最後にモノを言うのは、コンセプトだからね。大事なのは“意図としてのコンセプト”と、それを表現する“文脈としてのコンテクスト”で、それ以外のものはすべて、それらに従属する要素に過ぎない。

    例えばシェイクスピアが使った英語は、今の多くの人達がツイッターに書き込む英語とほとんど変わらないけれど、その説得力はまったく違う。優れた詩人というものは、誰かがオークションの商品説明でまくし立てるよりも少ない言葉で、多くのことが表現できる。ウェイン・ショーターはある曲でサックスを1音しか鳴らさなくても、その1音を置く場所や鳴らし方によって、とても豊かな表現ができる。僕が言いたいのは、そういったことなんだ。

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