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    Archive Interview −ジョジョ・メイヤー −

    • Photo:Taichi Nishimaki
    • Interpretation & Translation:Akira Sakamoto
    • Interview & Text:Rhythm & Drums Magazine

    J・ディラのビートをドラムで再現できるようになったとしても、彼が生み出したものの根底に何があったのかを理解しなければ、そのスタイルはすぐに廃れてしまう

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    ●あなたのテクニック自体は、トラディショナルな訓練によって身につけたものですよね?

    ジョジョ 僕は自分のテクニックがトラディショナルなものだとは考えていないよ。僕の持っているテクニックは、ある特定の効果を可能な限り簡単に得るためのものなんだ。例えば細かい16分音符は、シングル・ストロークで叩く方法もあればモーラー・テクニックで叩く方法もある。方法はたくさんあるんだ。僕はトラディショナルなテクニックを、物理法則を利用するドラミングとの接点になるものとして捉えている。スティックを持ち上げるときには重力や慣性といった物理法則の影響を受けるし、筋肉はそれとの関係で動かすわけで、ドラマーとしてそこから抜け出すことはできないからね。宇宙船から脱出しても、酸素の供給は必要なんだ(笑)。

    とにかく僕には新鮮さが必要で、5年後には今とは違う方法で演奏しているかもしれない。肝腎なのは時代との関係性を持った音楽を生み出すことで、僕はそのために努力している。それはともかく、当時J・ディラがやったことはあまりにも常識外れで、そのために彼がどんなテクニックを使ったのかは僕にもわからない。おそらく、何かの間違いがきっかけだったんじゃないかな。クオンタイズのやり方を間違えたとかね。でもそのサウンドがカッコ良かったから、その間違いを再現する方法を探っていったんじゃないかな。そういういびつな感覚がみんなの心を捉えた。時代のいびつさを表現していたということでね。でも、今カッコいいと思っているものも、いずれ廃れる時期が来る。J・ディラのビートをドラムで再現できるようになったとしても、彼が生み出したものの根底に何があったのかを理解しなければ、そのスタイルはすぐに廃れてしまうよ。ディラの音楽を上辺だけ真似たに過ぎないからね。今のニューヨークには、そのくらいのことができるドラマーはたくさんいて、僕にとってはそれがすでに流行遅れのように思えるんだ。もしJ・ディラから学べることが1つあるとすれば、“何か違うことをやるのを恐れるな”ということなんじゃないかな。

    ●そして間違いでさえ創造のきっかけに利用してしまう、ということですね。

    ジョジョ そう。そして今起こっていることを既存の知識で判断しないで、自由な発想で捉えることも大切だ。僕が自分のイベントを“プロヒビテッド(禁止された)・ビーツ”と名づけたのも、仕事でそれをやったらクビになるようなビートを追求するためだったんだからね(笑)。

    ●面白いのは、グリッチ・ビート(Glitch Beat)のように一見不安定なビートでも、観客はそれに合わせて踊っているんですよね。つまり、ダンスできるような取っかかりはあるわけですね。

    ジョジョ ダンスというよりもむしろ、音楽を聴きながら身体を動かすというのは、文化的な伝統なんじゃないかな。ビートはある種のスウィング感のようなものを内包していて、それが流行のきっかけになるけれど、流行はやがて廃れる。ドラムンベースは一時期大流行りだったけれど、多くの人達が一斉に便乗して、アンダーグラウンドな要素に安易な飾りを乗せて売れ線を狙ったものも出て来て、すぐに廃れてしまったよね。

    グリッチ・ビートに話を戻すと、ドラムは結構ストレートなままのことが多くて、リズムを外すのはむしろベースの方なんだ。つまり、ドラムがストレートなビートを刻んで、ベースがそれを中心にしてリズムを外すというパターンになる。両方が同時にリズムを外そうとしても、なかなかうまくいかない。どうしてもやるなら、両方がビートの位置をしっかりと把握している必要があるんだ。でも、そういう手法はむしろフレージングの問題で、特に新しいわけじゃない。エルヴィン・ジョーンズもある意味でそれをやっていたと思う。彼は微妙にビートを外すことで、緊張感を創り出していたんだ。何でもかんでも特定の規格のようなものに当てはめられるわけじゃない。すべてを規格に押し込めようとすると、大事な何かが失われてしまうんだ。だから僕は言葉で議論するよりもとにかく実際にやってしまうようにしている。ドラマーとしての発想を捨てて、ドラム・マシンを操るプログラマーの発想に切り替えてね。そんなふうに、ドラマーの世界とマシンの世界を行ったり来たりしているんだ。

    NERVEでジェイコブ(バーグソン/key)と一緒に曲を作るときには、僕は発想を変えるためにドラムじゃなくてMPCやキーボードを使うこともある。あるいは、彼が読み出したランダムなノイズを手がかりに曲作りを始めるとかね。ドラム・パートはむしろ、曲作りの最後の段階でつけ加える。身体が出来上がった後から骨格を入れるわけだから奇妙な話だけれど、そうすることで曲作りの方法に新しい可能性が開けるんだ。

    ●なるほど。ちなみに今、エルヴィンの名前が出ましたが、Jディラはエルヴィンのことが大好きだったそうですよ。

    ジョジョ そうだろうね。それは彼の音楽を聴けばわかるよ。彼のその感覚は、エレクトロニックの世界で受け継がれていると思う。特にフライング・ロータスなんかにね。とにかく一番大事なのは、自由は安全ではないということさ。創造の自由を手にするためには、安全圏から抜け出す必要がある。大航海時代の探検家みたいに新大陸を発見したければ、水平線上に何も見えないような大海原に乗り出さなきゃならない。そうしない限り、いつまでも同じような状況が続くだけで、何も変えることはできないんだ。

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