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    同期と共生する“現代”のドラマーたち #1 大井一彌【Archive Interview】

    • Interview & Text:Rhythm & Drums Magazine、Isao Nishimoto(equipment) Photo:Takashi Yashima(portrait)

    本当に良い演奏のときは
    クリックが自分に合わせてくれる

    大井 ミキサーには4種類の音が入ってくるようになっていて、1つはクリック、1つは自分以外の音の2ミックス、もう1 つはスネアにレイヤーしているクラップ音やパッドのサンプル音だったり、電子ドラムに関するもので、あとは生ドラムだけっていうのも1つあって、それらを自分で調整しながら聴いています。でも一番大きく聴いているのはクリックの音ですね。

    生ドラムのモニターはEAD10で作っているので、PAからは返してもらってないんです。どの現場でもEAD10の音で生ドラムをモニターしています。キックの上に装着するマイクからの音なので、ドラムに近いところで音を拾うからなのか、会場の鳴りの影響を受けにくいので重宝しています。モニター環境という点では、ロー・エンドもしっかり体感できるように、サブ・ウーファーが中に入っているPorter & Davies というブランドのスローンを使っていて、そこにPAからキックの音だけを返してもらってます。

    大音量だと耳だけでモニターを完結させることができないので、体感のローっていうのがすごく大事になるんです。日本で活動している人で使っている人はほとんどいないんですけど、ドラムは上から下まで出る楽器だから、全身で音をモニターできた方がいいと思うんですよ。特に今は音楽がどんどん重低音化していて、ベース・ミュージックがポップスの領域にも浸透しているじゃないですか。ベースが大事な音楽の時代になっているわけで、低音をモニターできる機材を使う意義は深いと思います。

    大井 あとは外の音をダイレクトで聴きたいので、ヘッドフォンでモニターする方が好きですね。確かに遮音性は大切で、それを優先するならインイヤーのイヤフォンを使えばいいんですけど、ドラムは目の前で鳴る楽器なので、鳴った側から生音が少し聴こえる感覚を大事にしたいんです。

    大井 それはあるかもしれません。同期を使う、クリックに合わせて演奏するって言うと、途端に情報を制限して、肉体性を遮断して電子的なものに服従するっていうマインドになってしまう人もいると思うんですけど、そうじゃなくて、本当に良い演奏のときは、クリックに合わせていくよりも、クリックも自分に合わせてくれるような感覚なんです。

    そこに至るために僕は情報を遮断しない方向で、できるだけ自然なあり方で、周りの情報をできるだけ聴き漏らさないようにしたい。バンド・メンバーの演奏もそうだし、PCから流れているシーケンス、生で鳴っているドラム、もちろんクリックもそうですけど、あまねくすべてをモニターしながら演奏したいんです。ロー・エンドをしっかり体感したいのもそれが理由ですね。

    ▲ドラム・セットの傍に置かれたテーブルに各種機材を用意。生ドラムのモニターはPAから返すのではなく、テーブル右上のYamaha EAD10で収音して作っている。「どの現場でも安定した音でまとめられる、とても良くできているモジュールです」。トリガー周りは手前中央のローランドTM-6 PROでコントロール。左下のミキサーはMACKIE MIX5で、クリック、自分以外の音の2ミックス、トリガーやパッドで出しているリズム関係の音、EAD10で作った生ドラムのモニターを立ち上げている。テーブル手前右にある緑色の機材はPorter & Davies BC-Xのモジュール。右写真のように、専用のスローンとケーブルでつながっており、PAから返してもらったキックの音でスローンを振動させる。モニタリングはIEMではなく、ゼンハイザーのヘッドフォンHD26 Proをメインで使用。

    ▲大井がレコーディングしたドラムの2ミックス・データから約1小節分を抜き出したところ。「スネアのようにトランジ
    ェントがタイトに出る音は、グリッド上で鳴る同期とズレると気持ち悪い。キックはわずかなタイミングの揺らしで重さや急速感を出したり、ハットなどの刻みのグルーヴを1小節かけてわずかにハシらせていって、次の小節アタマでグリッド上に収まるように演奏すると、1拍目を重くできたりします」。

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