NOTES

11月27日よりスタートするキング・クリムゾンの来日ツアー。トリプル・ドラムを軸とした強固なバンド・アンサンブルで待ちに待ったファンを熱狂の渦へと巻き込むことは間違いないだろう。ここでは注目の来日公演に先駆け、クリムゾン・サウンドを支えた歴代のドラマー達にフォーカスしてみたい。

マイケル・ジャイルズ〜アンドリュー・マカロック〜イアン・ウォーレス

1969年に『In The Court Of The Crimson King』でデビューを果たしたキング・クリムゾン。その初代ドラマーは、マイケル・ジャイルズ。ツーバスを操りながらジャズの影響も感じられる独特なドラミングが特徴的。その代表曲とも言える「21st Century Schizoid Man」でのプレイは、その後のクリムゾンのドラミングの方向性を決定づけたと言っても良いだろう。しかしながらこのアルバムが大ヒットする中、ジャイルズは脱退することになる。アンドリュー・マカロックがその代理を務め、70年代初頭に続くドラマーとしてイアン・ウォーレスが加入。彼は不安定だった70年代初頭のクリムゾンを、ライヴを中心に支え、その後はボブ・ディランのサポートとして来日もしている。

初代ドラマー、マイケル・ジャイルズの名演が冴える「21st Century Schizoid Man」

ビル・ブルーフォード & ジェイミー・ミューア

73年に発表された『Larks’ Tongues in Aspic』で、再びメンバーが一新。イエスを脱退したビル・ブルーフォード(過去のインタビューはこちら)と、奇人と言われたパーカッション(ドラム)のジェイミー・ミューアが加入。イエス時代に培われたブルーフォードの変拍子プレイと、ミューアの即興的なパーカッションのコラボ(時としてツイン・ドラム)は鮮烈で、クリムゾンの第2期黄金期を作り上げたと言える。ミューアはこのアルバムだけで脱退してしまうが、主宰のロバート・フリップとブルーフォードの関係は続き、プログレ界の第一線としての名声を獲得。ブルーフォードは70年代後半に、クリムゾンでの盟友でもあるジョン・ウェットンとUKを結成し、プログレ・ドラマーの第一人者の地位を確固たるものにしていった。

ブルーフォード & ジェイミーの怪演が印象的な「Larks’ Tongues In Aspic, Part Two」

ビル・ブルーフォード & パッド・マステロット

80年代になるとトニー・レヴィン(b)エイドリアン・ブリュー(g、vo)が加入し、新生クリムゾンがスタート。ブルーフォードはシモンズの電子ドラムを導入し、より高度なポリリズム的なプレイへと発展し、プログレのドラミングも新たな時代に突入したことを印象づけた。バンドはこの時期(81年)に初の来日公演を敢行。それもありこの頃のクリムゾンの印象の強いファンも多いだろう。90年代になるとバンドの再編が動き出し、94年にトレイ・ガン(b)とMr.ミスターなどで活躍していたドラムのパット・マステロットが加入。各楽器が2人ずつ存在する“ダブル・トリオ”と呼ばれる新体制が発足。95年のアルバム『THRAK』においてその全貌が明らかになり、自在かつタイトでロック的なマステロットのプレイと、ブルーフォードのプログレ流ドラミングのコンビネーションは強力なポリリズムを生み出した。74年の『Red』で萌芽を見せたプログレッシヴ・メタルの方向性が花開き、”ヌーヴォ・メタル”と名づけられ、このツイン・ドラムによるパワー感は、それ以降のクリムゾンのサウンドにも大きな影響を与えたのは間違いないだろう。

90年代後半からは、”プロジェクト”という名義の小ユニットによる実験的なバンド活動へとシフト。この時期に中心的な役割を果たしたのがマステロットで、アコースティックとエレクトロニックを組み合わせたハイブリッド・セットを駆使し、そのプレイを進化させていった。98年にはブルーフォードが自己のバンド、アースワークスに専念するため脱退し、2003年にヌーヴォ・メタルの集大成とも言うべき『The Power To Believe』を発表するがクリムゾンは活動休止となった。

ヌーヴォ・メタル期を支えたブルーフォードとパットのツイン・ドラム

パッド・マステロット & ギャヴィン・ハリソン & ビル・リーフリン

2008年にポーキュパイン・トゥリーのドラマー、ギャヴィン・ハリソンが加入。北米ツアーを敢行するが、メンバー間による紆余曲折を経て再び長期の休止に入る。そして6年の月日と経て、2014年にバンドは再開。このタイミングでロバートが発案したのが、パット・マステロット、ギャヴィン・ハリソン、そして新たに加わったビル・リーフリンによるトリプル・ドラム編成である。リーフリンは90年代にインダストリアル・メタル・シーンで活躍したマルチ・プレイヤーで、クリムゾンではメロトロンなどのキーボードも担当。2015年にこの新体制で来日を果たしたのだが、ステージ前方に3台のドラム・セットが並び、残りのメンバーは後ろに配置された台の上で演奏するという、独特なステージングでオーディエンスの度肝を抜いた! 三者三様のスタイルは生かしつつ、ツイン・ドラムでは考えられないような高度なコンビネーションとポリリズムを実現。新曲だけでなく、クリムゾンのこれまでの名レパートリーをふんだんに組み込んだセット・リストを展開し、ファンの共感を生んだことも特筆すべきポイントだろう。

名曲「Red」をトリプル・ドラム編成で熱演!

パッド・マステロット & ギャヴィン・ハリソン & ジェレミー・ステイシー

好評を博したトリプル・ドラム編成であるが、2016年に病気で休養を余儀なくされたリーフリンに代わり、ノエル・ギャラガーを筆頭にさまざまなアーティストのサポートを務めてきたジェレミー・ステイシーが参加。途中にリーフリン(2020年に急逝)が復帰するも、ジェレミーはメンバーとして正式加入。2018年にも来日を果たした。そして今月末より、強力な体制が維持されたクリムゾン3年ぶりの来日ツアーがいよいよスタート。強烈なポリリズムを生み出す“ドラム三重奏”はまさに必見である!

今回の来日公演を支えるパット、ギャヴィン、ジェレミーによるドラム三重奏