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Drummer’s Disc Guide – 2021 Autumn

– Autumn 2021 –

【A】=アルバム 【M】=ミニ・アルバム 【E】=EP 【V】=DVD、Blu-ray


【A】ジョン・コルトレーン『至上の愛~ライヴ・イン・シアトル』

d:エルヴィン・ジョーンズ

エルヴィンのグルーヴ、熱量は
バンド在籍中最高と言えるほどすさまじい

65年のコルトレーンの活動は濃密で目紛しい。フリー・ジャズへの傾倒を顕に、大編成での集団即興作品「アセンション」、アフリカ・ルーツ的な律動を加えた「クルセ・ママ」などをリリースしながら“黄金のカルテット”でのツアーも並行した。ついにはコルトレーンが、メンバーにグルーヴを排したパルスを求めるようになり、マッコイとエルヴィンはバンドを辞すことになる。これは”黄金のカルテット”最後のツアー中、後のフリー・ジャズ期のメンバー達を加えて行われた、カルテットの代表曲のライヴ演奏。エルヴィンのグルーヴ、熱量はバンド在籍中最高と言えるほどすさまじい。フリー・ジャズ若手チームがメイン楽器以外に演奏するパーカッションとの絡みも効果が大きく、後のジャズに大きな影響を与えたと思われる。(芳垣安洋/Orquesta Libre、On The Mountain、他)

◎Disc Information
【参加ミュージシャン】ジョン・コルトレーン/ファラオ・サンダース(sax、per)、エルヴィン・ジョーンズ(d)、ジミー・ギャリソン/ドナルド・ギャレット(b)、マッコイ・タイナー(p)、カルロス・ワード(sax)

発売元:ユニバーサル 品番:UCCI-1052 発売日:2021.10.22

◎エルヴィン・ジョーンズ 関連リンク

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【A】スティーリー・ダン『ノースイースト・コリドー:スティーリー・ダン・ライヴ』

d:キース・カーロック

「Aja」でのドラム・プレイを聴くためだけに
このアルバムを買って良いと言っても過言ではない

ミュージシャンであれば、誰もが知るアーティスト、スティーリー・ダン。あらためて今回のライヴ・テイクを聴くと、圧倒的なアレンジと類稀な演奏能力が際立ち、一瞬、ライヴ・テイクであったことを忘れるくらい丁寧に演奏されています。もともとミュージシャンの配置にもこだわりがあり、それがまた的確で、尋常ではないタイトさと、安定のグルーヴ、常に曲の世界観を意識したプレイ、キース・カーロックを長年手離さない理由がわかります。このアルバムの「Aja」でのドラム・プレイは、これを聴くためだけに買っても良いと言っても過言ではありません。もはや異次元のレジェンド・クラス、タイトで隙間のある圧倒的なグルーヴを、ぜひ体感してみてください。(小笠原拓海)

◎Disc Information
【参加ミュージシャン】キース・カーロック(d)、フレディ・ワシントン(b)、ジョン・ヘリントン/コナー・ケネディ(g)、ジム・ベアード(p、key)、ドナルド・フェイゲン(vo、p)、他

発売元:ユニバーサル 品番:UICY-16015 発売日:2021.09.24

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【E】リンゴ・スター「チェンジ・ザ・ワールド」

d:リンゴ・スター

リンゴらしいシャッフル・リズムや
初期のビートルズ的なルーツが聴けるのもうれしい

前作から半年も経たずに発表されるリンゴ・スターの新譜EPです。今の状況の中、自宅にスタジオがあるからこそ続けることができた、多くの素晴らしいミュージシャン達との交流。そこで友と共に音を出すことから生まれた明るいメッセージを世界に届けたいという、彼ならではの、人々への応援の気持ちに満ちた作品です。スティーヴ・ルカサーと共に作ったリード・シングルは、タイトルも「Let’s Change The World」。リンゴらしく、来るべき、混迷が晴れた世界を思い、希望を込め明るく歌い上げます。前作に続きレゲエ・チューンも登場。70年代ルーツ・ロック界を盛り上げた伝説的な凄腕達をこんなにも集めることができるのもリンゴだからなんでしょうね。随所に聴けるルーツ・レゲエ的なフィルインがまた素敵です。リンゴらしいシャッフル・リズムの曲や、ジョー・ウォルシュをフィーチャーしたロックンロール・クラシック「Rock Around The Clock 」での初期のビートルズ的なリンゴのルーツが聴けるのもうれしいです。(芳垣安洋/Orquesta Libre、On The Mountain、他)

◎Disc Information
【参加ミュージシャン】リンゴ・スター(d、vo、etc.)、ネイザン・イースト/フリー・フルウッド(b)、スティーヴ・ルカサー(g、cho)、ジョー・ウォルシュ/トニー・チェン(g)、ジョセフ・ウィリアムス(key、cho、etc.)、エド・ロス(org)、エイミー・キーズ/ゼルマ・デイヴィス(cho)、他

発売元:ユニバーサル  品番:UICY-16018 発売日:2021.09.24

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【A】ロジャー・テイラー『アウトサイダー』

d:ロジャー・テイラー

ハスキーなハイトーン・ヴォイス・コーラスは健在
すべての楽器をロジャー自身が担当しているのも素晴らしい

古いインタビューで読んだ記憶があるんですが、「ドラマーはジョン・ボーナムに始まり、ロジャー・テイラーに終わると言われることが夢」なんて言ってたロジャー。やっぱボンゾ好きで仕方がないんだなって曲がちらほら。M3&7なんて迫力満点で、ゲートの効いた重心の低いスネア・サウンドも良き。その他は「イニュエンドウ」以降系の、とても綺麗な曲が並ぶ。欲を言えばハードな曲の割合がもう少し多いとさらにうれしかったり。ロジャーと言えばハスキーなハイトーン・ヴォイス・コーラスだけれど、これも健在! 基本的にはすべての楽器をロジャー自身がやってるってのも素晴らしい。最後の曲名が「Journey’s End」ってのが寂しいけど、まだまだやってくれると信じたい。(小畑ポンプ/すかんち、Rolly & Glimrockers、他)

◎Disc Information
【参加ミュージシャン】ロジャー・テイラー(all instruments)、ジェイソン・ファルーン/ジム・クリーガン(g)、ジョッシュ・マクレイ(key、per)、スティーヴ・ハミルトン(sax)、ベン・エドワーズ(tp)、マイク・カーシー(tb)、KTタンストール(vo)、スージー・ウェブ/サリナ・テイラー(cho)

発売元:ユニバーサル 品番:UICY-15998 発売日:2021.10.01

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【A】バンド・オブ・アザー・ブラザーズ『ルックアップ!』

d:キース・カーロック

スローンに座ってキースのドラムを聴いているかのような臨場感
ライヴでも味わえない類の近さを楽しむことができる

この作品を聴いてまず浮かんだのはキース・カーロックの背中だった。レコーディング時のミックスにおいて、ドラムのことだけで言っても音の配置は大きく2パターン考えられる。要するにドラマーを正面に聴いた音の配置か、ドラマー本人が聴いている音の配置かである。当然この2つでLRは真逆になる。この作品は終始キース・カーロックのドラムを背中から、もしかしたらもっと極端にドラム・スローンに座って聴いているかのような臨場感がある。そこに生々しいプレイと音色。ある意味ライヴでも味わえない類の近さを楽しむことができる。現代の音源においてドラムの生々しさは影を潜めることが多くなり、それが1つの時代の音になっている。だからこそ今回のアルバムのような生々しさは、純粋に自分のプレイのレベルを上げたいドラマーにとってわかりやすい指標になるのではないだろうか。(高橋 武/フレデリック)

◎Disc Information
【参加ミュージシャン】キース・カーロック/スタンリー・クラーク(d)、ウィル・リー(b、vo)、ニル・フェルダー(g)、ジェフ・バブコ(key)、ジェフ・コフィン(sax、woodwinds)

発売元:AGATE/Inpartmaint 品番:AGIPi-3712 発売日:2021.10.22

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【A】アイアン・メイデン『戦術』

d:ニコ・マクブレイン

ライド・シンバルで刻むリズムの鮮やかさ
それに絡むフィルイン

デビューから41年目の新作が登場。冒頭から重圧なギター&ベースの中、メイデン・サウンドの要、安定感抜群のニコのドラミングが全編に渡って冴えています。僕が大好きな彼の特徴であるライド・シンバルで刻むリズムの鮮やかさ、それに絡むフィルイン。そして「戦略家(ストラテゴ)」では驚愕の高速バス・ドラムが聴かれます。シングルでここまでできるのか!という。一風変わった「ケルト人の死」ではケルト音楽をメイデン風に取り入れているところが面白い。後半の3曲は10分を超える楽曲。プログレの影響もさることながら、インストゥルメンタルで一気に聴かせる部分がカッコいい。興奮と感動の聴けば聴くほど好きになる大作。オススメです。(江藤良人)

◎Disc Information
【参加ミュージシャン】ニコ・マクブレイン(d)、スティーヴ・ハリス(b、key)、デイヴ・マーレイ/エイドリアン・スミス/ヤニック・ガーズ(g)、ブルース・ディッキンソン(vo)、他

発売元:ワーナー  品番:WPCR-18449/50 発売日:2021.09.08

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【A】SKYE『SKYE』

d:林 立夫

学生時代に知り合った特別な4人が
今でも誰も敵わない演奏クオリティを生み出している

10代からの音楽仲間、それもバンド活動していた友達が、その後それぞれ歴史に残る日本の音楽史を築いてくるという偉大な功績を残し続けて、そして今でも結局我々が無条件に崇める存在として日本の音楽界の頂点に君臨している……その仲間達が半世紀以上も経って、2021年に同じメンバーでバンドを再結成して、それがこんなものすごいクオリティの作品に仕上がってリリースされる……って、こんなに楽しい人生ってあるんだろうか。学生時代の友人すらいない自分にとっては、この特別な4人が学生時代に知り合ってバンドを組んでいた、そして結局今でも誰も敵わない演奏クオリティを生み出している、このすべてが本当に奇跡としか思えない……日本が世界に誇る人間国宝の4人の大傑作!(沼澤 尚/シアターブルック、ブルーズ・ザ・ブッチャー、他)

◎Disc Information
【参加ミュージシャン】林 立夫(d)、小原 礼(b)、鈴木 茂(g)、松任谷正隆(key)、他

発売元:日本コロムビア 品番:COCB-54336 発売日:2021.10.27

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【E】Chris Dave「UNEVEN」

d:クリス・デイヴ

ドラマーのテクニカルな側面というよりも
グルーヴにより重点を置いた作品になっている

レビューなんて書き慣れていない、というか執筆系の仕事にはまったく慣れていないと言っても過言ではない私荒田ですが、今回レビューのお話をいただいていろいろ考えた結果、“ザ! 音楽レビュー!”というよりもWONKのドラマー荒田として書こうと決めたので、ここからは超個人視点で書き進めていこうと思います。

ということで、“荒田的Chris Daveレビュー”を始めていきたいと思うのですが、彼のドラミングは今回の作品『UNEVEN』を聴いてもやはりJ Dillaの影響をバシンバシンに受けてるなぁという印象。HIP-HOPのビート・ミュージックを色濃く踏襲しているのが彼のスタイルです。

J Dillaのビートが正確にクオンタイズされたものではなく、どこか揺らぎを感じるように、今回のクリスの作品でも“UNEVEN”という作品名が表すように、ビートに気持ち良い揺らぎを感じました。最後の楽曲「Wut Itz Not」は作品の中でもかなりイーヴン目なビートを刻んでいますが、それでも機械的なイーヴン・ビートではないですね。J Dillaの影響をバシンバシンに受けているドラマーであるKarriem Rigginsのソロ作を聴いていても、最近のドラマーのソロ作品は、楽曲制作において昔に比べるとよりドラムのテクニックというよりも楽曲の構成やアレンジ、サウンド感にフォーカスしているような印象です。

今回のクリスの作品も同じように、ドラマーのテクニカルな側面というよりもグルーヴにより重点を置いた作品になっているように感じます。このようなスタイルに憧れているドラマーは日本にも数多くいると思いますが、そんな方々にはどんなチューニングをしているのかとか、ハイハット、スネア、キックがどのようなタイミングで打たれているのか分析して、自分のスタイルに落とし込めるまでこの作品を聴きまくることをぜひともお勧めいたします! 300文字程度と言われていながら、長々と書いてしまったんですが『UNEVEN』めちゃくちゃお勧めなんでぜひ聴いてみてくださいまし!(荒田 洸/WONK)

◎Disc Information
【参加ミュージシャン】クリス・デイヴ(d、per、g)、デリック・ホッジ/サデウス・トリベット/タブ・ヤング(b)、アイザイア・シャーキー/ジャイラス・モジー/トーマス・フォード(g)、ダニエル・クロフォード/クレオ“プーキー”サンプル/レイモンド・アングリー/コリー・ヘンリー(key)、ストークリー・ウィリアムズ/ミッキ・ミラー/オズウィン・ベンジャミン/シャフィーク・フセイン(vo)、他

輸入盤 発売日:2021.10.15

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【A】ネイト・スミス『キンフォーク2 : シー・ザ・バーズ』

d:ネイト・スミス

当作を一聴しての私見は
“これドラム聴いたら負けやん”だった

とてもとても後悔しているのは、この作品を稀代のドラマー、ネイト・スミスの作品であるという前情報を得てしまっていたことと、それをあろうことかドラム・マガジンの原稿として書かねばならなくなってしまったということ。なぜならば当作を一聴しての私見は、“これドラム聴いたら負けやん”だったからである。M1にて明確にオマージュされるパット・メセニー・グループの諸作品。からの文字数制限につき、M2〜M10については、ばっさり割愛するが(笑)、最後のM11なんか秋の夜長にでも聴いてご覧なさいよ。情感たっぷりに歌い上げるヴォーカルにひたすらリリカルなピアノ。単純に超いいバラードなもんだから、うん、ドラム聴いてる暇なんかありゃしねぇのよ。ドラムがすげぇのはもう今さらなお話なので、むしろポップ・ミュージックとして語り継がれるべき。(庄村聡泰)

◎Disc Information
【参加ミュージシャン】ネイト・スミス(d、per、key)、フィマ・エフロン(b)、ブラッド・アレン・ウィリアムズ(g)、ジャリール・ショウ(sax)、ジョン・カワード(p、org)、ジョエル・ロス(vib)、レジーナ・カーター(vln)、ブリタニー・ハワード(vo)、他

発売元:Pヴァイン 品番:PCD-25335 発売日:2021.10.08

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【A】ジェニーハイ『ジェニースター』

d:小籔千豊

オシャレなバランスを形成できるのは
小籔千豊&くっきー!という多芸多才なリズム体があってこそ

先日、ラジオから流れてきた曲のドラムがとても自然体で好みだったので調べたらジェニーハイの「夏嵐」だった。もし最初から“ドラマーは芸人”と構えて聴いたなら、また別の印象だったかもしれないが、今回の試聴でもその好印象は変わらず。むしろアルバム全曲を聴き終えると悔しいくらいに素敵な音楽が溢れている。川谷絵音、中嶋イッキュウという才能豊かな二枚看板の融合がシャレになり、かつオシャレなバランスを形成できるのは、小籔千豊&くっきー!という多芸多才なリズム体があってこそだろう。そして新垣 隆の音色がこのバンドに耽美な趣を加えている点も見逃せない。“バンドに大切なのはバランス”、そんなことをあらためて感じた作品だ。(山本雄一/RCCドラムスクール)

◎Disc Information
【参加ミュージシャン】小籔千豊(d)、くっきー!(b)、川谷絵音(g)、新垣 隆(key)、中嶋イッキュウ(vo)、他

発売元:ワーナー  品番:WPCL-13323 発売日:2021.09.01

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【A】Audio Invaders『Audio Invaders』

d:藤掛正隆

従来作にないポップな“表現”
Fulldesignの新風になる予感大!

“フィールド横断インプロヴァイズ×独自エディット”作品を自主レーベルFulldesignから仕掛けまくる藤掛正隆と、かつて“西の電グル”とも呼ばれた電子パンク・バンド“ナスカ・カー”の中屋浩市によるユニットが、今作の制作密度と完成度の高さにより“Audio Invaders”の名でリローンチ。名の通り80s満点なピコピコ電子音で当時の記憶が一瞬で呼び戻され、それを“ツカミ”にこの2人のONとOFFのサウンドを立体的に絡めた(多分に映像を想起させる)いろんなタイプの音像空間に放り込まれる。今回藤掛のドラムは“素材”。中屋の確信犯的エディットにより従来作にないポップな“表現”となっているのが聴くたびに面白く、Fulldesignの新風になる予感大!(村田誠二)

◎Disc Information
【参加ミュージシャン】藤掛正隆(d)、中屋浩市(programming、electronics、vo)

発売元:Fulldesign records 品番:FDR-1046 発売日:2021.08.18