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Column-デイヴ・ブルーベックとジョー・モレロの革新的な試み

  • Text:Yasuhiro Yoshigaki
  • Photo:JP Jazz Archive/Getty Images

まず代表曲の1つ「Blue Rondo à la Turk」。アルバムの最初を飾るこの曲は、クラシカルな風味を持った9/8拍子のミニマル的なテーマで始まります。リズムの中心はピアノで「2+2+2+3」と区切れる構造で、大きく捉えると6拍子と3/8拍子の組み合わせとなっていて、サックス・ソロは、3/8を一拍とした(3/8の8分音符1つを3連符と捉えてリズムを区切る形)スウィング・ビートに変換します。テーマのイーヴンな9/8の部分では、ジョー・モレロはシンバルのカップ部分でリズムの区切りのところだけを演奏しています。バンドのノリやタイトさ加減は、やはり正規盤の方が出来が良く、OKテイクに選ばれたことは良くわかります。ただミックスの違いからだと思うのですが、このテイクのドラムの音がけっこう生々しく力強いことには驚きます。

ジョー・モレロは、ドラムの大定番教則本『スティック・コントロール』のジョージ・ローレンス・ストーン、グラッドストーン奏法を生み出したビリー・グラッドストーン、モーラー奏法のサンフォード・モーラーらに師事し、力の抜けた素晴らしいスティック・コントロールを信条としていました。ドラムを鳴らすということを今一度考えるのにも良いテイクではありますね。

2曲目「Strange Meadow Lark」はミディアム・スウィングの曲で、モレロのブラシ・ワークと左足によるハイハットのコントロールの見事さが良くわかります。この曲はどちらのテイクも良いのですが、ピアノのソロの響きとエンディングへ移行する際のスムーズさで選ばれたのではないかと思います。

1959年にリリースされた正規盤の『Time Out』

そして3曲目、例の「Take Five」です。この曲が最もテイクの内容が異なっています。正規盤の方は、スウィング・ビートの5/4拍子(3/4+2/4の塊になっています)のドラムから始まり、ピアノ、ベースがちょっとハネたリズム・パターンで加わり、テーマへと流れていきます。ピアノはバッキングに徹していて、ドラムソロのバックでも淡々とパターンを刻んでいます。その結果ジョー・モレロのソロは途中に間を空けたりもしながら、ダイナミックに抑揚に富んだアプローチを聴かせ、この曲のハイライトとなっています。ジョー・モレロのリラックスしたスティック・コントロールが語り継がれてきた理由がよくわかりますね。

この演奏に対して、今回のアウト・テイク集に収録された「Take Five」の方は、まずスウィング・ビートが刻まれません。モレロのドラミングは「Blue Rondo à la Turk」のテーマ同様、シンバルのカップでリズムのアクセントのみを刻むところから始まり、だんだんとその隙間を埋めていくというアプローチで、しかもあまりハネていません。しかも曲の基本は3/4+2/4の5拍子なのに、ドラムは5/8拍子で、8分音符の5つの塊の最初の2つのみをシンバルで打つところから始まります。ハイライトのドラム・ソロではピアノのバッキングもなくなり、ドラムだけの自由な空間になりますが、見事に最後まで5拍子をキープしながらソロを繰り広げます。正規盤のテイクとは大きく違って、テーマのメロディさえ霞んでしまうほどドラムに焦点が当たっています。

アウト・テイクに未発表曲を集めた『Time Outtakes』

アナログ盤でいうA面は以上の3曲でした。アウト・テイク集には、B面に当たるテイクに関しては、モレロのブラシ・ワークの見事な「Three To Get Ready」「Kathy’s Waltz」の2曲以外は未発表となっていたものが収録されています。どの曲もモレロのドラミングとリズムギミックに焦点が当たっていて、50年代にこのような方向を向いてジャズを作ろうとしていたバンドがあったことに驚く方もいるのではないかと思いますが、あまりにもアルバムがドラム・メインになりすぎることを避けて選曲の際外されてのではないかとも思われます。

「Kathy’s Waltz」(アウトテイク集では「Cathy’s Waltz」と表記)はドラムのみがミディアム・スウィングから3/4、そして2/4+2/4+2/4の6拍子と変化していくスタイルで、ピアノ・ソロの中でピアノとドラムが同じタイムの中を、まったく違うビートを感じて進んでいく不思議な世界を表現しています。正規盤の方がその差がくっきりして錯覚を起こさせるようで面白いのですが、アウト・テイク集の演奏もスウィング感が強く面白い演奏です。

何しろ、生誕100周年記念のアウト・テイク集と当時の正規盤、この2枚を聴き比べてみて初めてわかる、「Take Five」だけではない当時のブルーベック・カルテットの革新的な試みを感じてみてほしいと思います。