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2020年のヒット曲をドラム視点で検証してみた
- Text:Yusuke Nagano
2021年の年明けということで、ドラム的な視点で2020年のヒット曲を振り返ってみたいのですが、リズムに関しては打ち込みなどのサンプリング音と、生ドラムとの共存、または対比というのが1つの大きなポイントになっていると感じます。
ビルボードの年間チャートはこちら→HP
打ち込みとバランス良く溶け込む「紅蓮華」のサウンド作り
発売は2019年ですが、2020年もヒット・チャートを席巻したTVアニメ「鬼滅の刃」のオープニング・テーマであるLiSAの「紅蓮華」はその例の1つ。スピード感のあるロック・チューンですが、AメロやBメロでは打ち込み系ループ・ドラムが主体で、サビから比田井 修氏がプレイする力強いアコーステック・ドラムが入ってくることでドラマチックな抑揚変化を演出。ドライなスネアの音色や奥行きを持たせたクラッシュなど、打ち込みのドラムにバランス良く溶け込むサウンド作りも特徴的です。
打ち込みと生ドラムの共存が光る米津玄師の最新アルバム
8月に発売された米津玄師の『STREY SHEEP』は、アルバム・チャートの年間1位を記録した大ヒット・アルバム。作品に収録された「馬と鹿」や「感電」も同様に打ち込みと生ドラムの共存が光る楽曲です。「馬と鹿」のドラムを演奏する堀 正輝氏は、打ち込みサウンドに造詣の深いドラマーで、ライヴの現場ではサンプリング・パッドなどを駆使して、最新のサウンドへの対応力を発揮していますが、レコーディングに於いても、タイトで精度の高いプレイと、レスポンスの良いサウンド・メイクで、打ち込みと絶妙な距離の近さで交わるプレイが光ります。リズム・アレンジ面ではバック・ビートの音色変化によるダイナミクス操作にも注目です。
アルバムから先行してシングル・カットされた「感電」は、ジャズをルーツに持つ石若 駿氏がプレイ。ブラック・ミュージックのテイストを含む血の通ったビートが打ち込み系サウンドと見事な塩梅で融合。中間部で披露する手数を躍動的に繰り出すエモーショナルなプレイも曲のハイライトとなっています。
ドラム・サウンドとリズム・フィールの振り幅の広さ
バンド系では今や国民的な人気バンドと言えるOfficial髭男dismの活躍が目立っていますが、こちらのサウンドもやはりエレクトロニックと生の融合がポイントと言えるでしょう。昨年2月にリリースされたヒット曲「I LOVE…」において、トラップ・ビート(詳しくはこちら)を彷彿とさせる打ち込みのリズムを採用。シャープなハイハットの細かい連打などに特徴が表れていますが、その小気味良いビート感が曲に新鮮な息吹を加えています。
その一方で、7月にリリースされた「Laughter」においては、太く温かみのある音色の生ドラムを駆使して、曲にフィットする人間味のあるリズムを繰り出しているのも見逃せません。この楽曲に関しては、ドラマーの松浦匡希氏がドラマガWebのインタビューで60年代のロジャースのヴィンテージ・キットを使ったと語っていますが、このようなドラム・サウンドやリズム・フィールの、振り幅の広さもバンドの魅力となっているでしょう(松浦氏のインタビューはこちら)。
歌をバックアップする間を生かしたビート
また人間的なリズムという流れでは、あいみょんのヒット曲「裸の心」における朝倉真司氏のプレイも印象的。生ドラムの豊かな音色と、絶妙なポケットに入ったスネア。そして“間”を生かした重心の低いビートで、歌を情緒豊かにバックアップする名演となっています。
音作りに精通したドラマーが今後さらに求められる
というわけで、2020年のヒット・チャートを賑わせた楽曲のリズム・アプローチを大きな流れで検証してみましたが、あらためてここ数年のリズム・トラックの目まぐるしい進化を実感します。エレクトロニックな方向性に関しては、今後もさらに進化が進むのは間違いないでしょうが、それに伴って精度の高い音符の分割テクニックやデジタルの知識はもちろん、サウンド・メイクにも精通したドラマーがより一層重宝されていくことでしょう。
またその対極をいくような人間味のあるビートの需要もどんどん増えてほしいと願います。海外では相変わらずヒップ・ホップ系アーティストの人気が高いようですが、アメリカの年間チャートTop10に入ったハリー・スタイルズの『ファイン・ライン』収録の「She」には重鎮、ジェームス・ギャドソンが参加。19年のグラミー最優秀新人賞を獲得し、次世代ポップ・アイコンとも言われるデュア・リパのシングル曲「Break My Heart」では、レッド・ホット・チリ・ペッパーズのチャド・スミスがプレイ。さらにイギリスではロック・バンドが再び盛り上がっているというニュースもあります(記事はこちら)。2021年も1年間でさまざまなヒット曲が生まれるでしょうが、デジタル、アコーステック、そして両者の融合といったドラマー目線で注目する聴き方も、興味が尽きなく楽しいことでしょう。
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