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【連載】博士 山本拓矢がデジマートで見つけた今月の逸品 ♯22〜ドライ系シンバル〜

  • Text:Takuya Yamamoto
  • illustration:Yu Shiozaki

第22回ドライ系シンバル

ドラム博士=山本拓矢が、定番商品や埋もれた名器/名品など、今あらためて注目すべき楽器たちを、楽器ECサイトであるデジマート(https://www.digimart.net/)で見つけ、独断と偏見を交えて紹介する連載コラム。今回はここ数年、トレンドとなっているドライ系シンバルについて、いつも以上にディープに考察します。

いつもお読みいただき、ありがとうございます! 今回は、ドライ系シンバルを軸に、音色を言葉で表現する方法について掘り下げてみます。

楽器の音色に対して、”ドライ”という評価の仕方や、傾向を示すパラメーターのようなものがあります。文字通り、カラッと乾いた状態の物体から発せられる種類の音色であることを指す場合もあれば、文脈の中でわかる、いわゆる”ドライ・サウンド”を示しているケースもあります。他の分野から用語を持ち込むのであれば、クオリア、感覚モダリティといった、各々の感触などの話であって、数値化して明確に定義づけしたり、その定義を共有することは難しいものと考えています。

共感覚という言葉をご存知でしょうか。

色聴と呼ばれる、”音に色がついて見える”というものが有名ですが、仮に、1枚のシンバルを鳴らしたとき、ある人には”青い音”に聴こえたとしましょう。そこに同じく色聴を持った方が居合わせて、「どちらかというと緑の音ではないか」と応えて盛り上がっていた状況で、「その青みは、カラー・コードで言えば……」と言った具合いで、近いイメージを描いて議論に参加できる人がどれだけいるでしょうか。

前述の色聴の例は少々極端ですが、仮に室内用のLED照明の色を「暖かみのある色」と表現した場合、それが電球色や、3000K程度の色温度を示している、と想像できる人は少なくないと思います。音に限らず、受けた印象を言葉や文字にするということは、ある種のデジタル化が行われています。元の情報を、何のために、どのように、どれくらい圧縮するか、が重要です。

そんなわけで、理解しておくことで、メーカーの解説が読み取りやすくなり、多くのドラマーとの会話に役立つであろう、シンバルの傾向としての”ドライ”について説明しながら、製品を紹介していきたいと思います。

現行のドライ系の代表格としては、比較的守備範囲が広いMEINL Byzance Extra Dry シリーズと、Zildjian K Custom Special Dryなどが挙げられるでしょうか。

今月の逸品 ① 【MEINL Byzance Extra Dryシリーズ】

今月の逸品 ② 【Zildjian K Custom Special Dryシリーズ】

もし音に対して、速いディケイ、短いサスティーン、複雑ながらよく通るピング音、ざらつき、硬質さ……といったようなものが感じていただけたら、この記事の筆者と読者という関係の中に、“私の考えるドライなサウンド”の共通認識が存在していそうな気がします。

打感としては、薄さに由来した柔らかさがあり、薄くて柔らかいシンバルらしい質感も聴こえてくるので、硬さに言及する難しさはあるのですが、「表面の酸化したブロンズの硬さが音色に現れている」という意味での硬質さはあると思います。柔軟さがあって、よく振動しているときの、ゴーン、ボワーン、ゴワーンという音ではなく、カツン、コツン、パチッ、カチッとした感触の部分です。

ドライなサウンドは、大音量や重厚な響きの中でも打点がわかりやすく、リズムやビート、パルスを提供するポジションにおいての便利さや優位性があります。また、アコースティックな楽器での演奏に重点をおいて設計された大型のコンサート・ホールや、カフェやレストランといった比較的コンパクトな会場など、PAが前提とされたいわゆるライヴ・ハウス・スタイルの場所以外でも、扱いやすさを感じる場合もあるでしょう。

音色を表すワードとして、段階や深度、解像度として“ドライ”と同等のライン上にあると思われるものに、ダーク、ブライト、ウォッシュ(ウォッシー)、クリア、トラッシュ(トラッシー)と言ったものが挙げられます。

基本的に、ダークさブライトさは相反する概念であり、トラッシーさは、「クリアやソリッドを基点として、どれくらいの傾向があるか」のパラメーターであると考えられるので、共存できるものですが、“ウォッシュ”はやや難解な概念です。特にジャズ・ドラマーには広く普及している概念ですが、製品名として、ダーク・クラッシュや、ドライ・ライドは存在してる一方、2023時点では、ウォッシー・ライドといったものは登場していない(はず)こともあってか、まだまだこれからという印象があります(奇しくも、つい先日、SABIANよりSTRATUSシリーズが発表されました)。

ドライの対義語に、ウォッシーを据えているケースを見かけて、実際にその傾向を読み取ることができる楽器群もあり、ある程度の納得感はあるのですが、ドライなアタックに加えて、ウォッシュが感じられる楽器(Istanbul AgopのSpecial Edition シリーズなど)もあるため、この部分は議論の余地があると思います。

“乾いている”の反対なら、”湿っている/濡れている”のでは?と思う方もいらっしゃると思いますが、シンバルは金属であり、カーフ・スキン・ヘッドや、ウッド・シェルと違って、水分や湿気を含まないためか、ウェットなトーンと表現することは一般的ではないようです。

ドライ系のシンバルが生まれる前の歴史から考えると、「新品状態の“フレッシュ”な響きが、汚れやサビ、金属疲労等によってドライになってゆく」と捉えることもできましたが、現代にはドライでボディ感のしっかりした新品のシンバルが多数あるので、適切な対義語は見つけられませんでした。

現行のドライ系としては、Istanbul Agop Xist シリーズのDry Darkと、Dry Dark Brilliantも抑えておくべきモデルですが、こちらは振り切ったキャラクターで、強烈な個性を持っており、ウォッシュの概念も同等に掘り下げないと説明が難しいため、名前だけの紹介に留めておきます。また、前述のシリーズほどのバリエーション展開はありませんが、Istanbul MehmetのLegend Dryや、Paiste MastersシリーズのExtra Dry Ride、Dry Ride、Dark Dry Rideなども優れた要素のある楽器として、ご紹介いたします。

さらに新旧問わず探せるデジマートという媒体の強みを生かして、廃番やそれに準ずる楽器も少し紹介すると、SABIANのArtisan Eliteや、BIG & UGLY、Jack Dejohnette Signature、Encore、ZildjianのA Earth Ride、K Custom Dry Ride、K Custom Dry Light Ride、K Constantinople Hi Bell Dry Rideといったものが挙げられます。

実在数が多く、流動性が高いものから、生産量そのものや、国内に入ってきた量が少なく、マイナーな楽器も少なくないジャンルなので、気になるモデルは、こまめにチェックすると良いでしょう。

最後に過去の記事で、“ドライ”について言及している記事を下記にピックアップしてみました。すでにお読みいただいている方も、あらためて読んでいただくと何か発見があるかもしれません。

♯11 〜Moongel Damper Pads〜
♯12 〜Ludwig Acrolite Snare Drums〜
♯16〜Zildjian Standard HiHat〜

以上、若干濃い目の内容になりましたが、ジャンルを超えて求められるようになった“ドライ・サウンド”を把握することは、楽器選びの中で必ず役に立ちます。ギターやPA、DTMでエフェクターに触れている方には、ドライとウェットには別の意味もあると思いますが、ドラムではこのような使われ方もしている、と知っていただくと、コミュニケーションの助けになるでしょう。音楽の好みや、良さを語る上でも、便利な言葉です。

この機会に、シンバルを通じて、言葉の意味をあらためて考えてみるのはいかがでしょうか。


Profile
ヤマモトタクヤ●1987年生まれ。12歳でドラムに出会い、高校時代よりプレイヤーとして音楽活動を開始。卒業と同時に入学したヤマハ音楽院にて、さまざまなジャンルに触れ、演奏活動の中心をジャズとクラブ・ミュージックに据え、2013年、bohemianvoodooに加入。 音楽と楽器の知識・スキルを生かして、ドラム・チューナーとしてレコーディングをサポートしたり、インタビュー記事や論説などの執筆業を行うなど、音楽全般への貢献を使命として活動中。

Twitter:https://twitter.com/takuya_yamamoto

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