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    【連載】博士 山本拓矢がデジマートで見つけた今月の逸品 ♯16〜Zildjian Standard HiHat〜

    • Text:Takuya Yamamoto
    • illustration:Yu Shiozaki

    第16回Zildjian K Fat Hat/A New Beat HiHat

    ドラム博士=山本拓矢が、定番商品や埋もれた名器/名品など、今あらためて注目すべき楽器たちを、楽器ECサイトであるデジマート(https://www.digimart.net/)で見つけ、独断と偏見を交えて紹介する連載コラム。今回はジルジャンが誇る膨大なラインナップの中から、新旧2種類のスタンダード・ハイハットにフォーカス!

    いつもお読みいただき、ありがとうございます! 今回は、素晴らしい新製品が登場したタイミングなので、スタンダードなハイハットという切り口で、2機種まとめて掘り下げてみたいと思います。まずご紹介するのが、Zildjianから新たに発売された、K Fat Hatsです。2023年4月号のNEW PRODUCTS(こちら)でも紹介しましたが、本当に良い楽器です。

    先日、楽器においての”良い”の基準について尋ねられました。言葉で整理してみたところ、“優れた点が多く、欠点が少ない”だとか、“圧倒的な個性がある”といったものが思い浮かびました。そして、そのどちらにもある前提は実用性です。究極的に言えば、製品として流通しているだけのニーズがある楽器には良し悪しは存在せず、違いがあるだけ、とも考えています。しかし、楽器を試してみたときに“これは良い!”と感じることは間違いなくあって、その感覚は大切にすべきだなとも感じます。

    そんなところも織り込みながら、あらためて今月の逸品、K Fat Hatsを解説してみます。

    今月の逸品① 【Zildjian K Fat Hats

    一通りチェックした上で、まず取り上げるべきだと感じたのは、コントロール性の良さです。コントロール性と表現していますが、言語化は情報のデジタル化であり、手短に要点を伝えられる一方、失われてしまう情報も生まれてしまいます。そこで、そもそもコントロール性とは何を指すのか、この楽器に関しての優れた点として感じたところを、もう少し具体的に説明します。

    ハイハットは、ハイハット・スタンドにセットし、スプリングによって持ち上げられたトップのシンバルをフット・ペダルで操作することで、音を鳴らしたり、音を変化させることができる楽器です。その性質上、シャフトやクラッチを含めて、質量が小さければ小さいほど、少ない力で楽器を動かすことができます。スプリングを弱くできれば楽に踏めますし、踏み込みも戻りも早い、機敏なアクションになります。

    では、軽ければ軽いほど、コントロール性が良いのかというと、そうではありません。踏み込みの抵抗が少なく、ペダルが軽すぎる状態は、タメが効かないと感じる場合もありますし、シンバルの口径がそのままで軽いということは、厚みが薄いということで、薄いシンバルはたわみやすくもあります。シンバルはたわむとピッチが上がるので、加える力に連動して音色が変化してしまいます。

    このピッチの変化を表現に組み込むこともありますが、楽曲の中での振る舞いとしては、明確なピッチが存在しない方が都合の良いことがほとんどなので、あまり敏感に変化しすぎると、扱いが難しくなってきます。厚くなる方向に進んだ場合の、タッチへの追従性の減少と音色の安定性向上に関しては、また別の話で、たわみやすさにはシェイプの要素も関係してきますが、多くの演奏者がいわゆるKシリーズに対して求める要素とのバランスの上で、たわみすぎない程度に軽快なアクションであるK Fat Hatsは、コントロール性が良いと表現しています。

    NEW PRODUCTSのレビューでは、この表現を103文字に圧縮しています。文章の面白さと難しさの話に脱線しかけましたが、音色についても少しだけ説明してみます。Kシリーズらしく広いレンジで鳴っており、1/8インチ大きい分、低域が充実しています。そんな中で、Aタイプのレイジングによる高域の成分も存在しており、太鼓側のフープやラグ、スネア・ワイヤーから発するタイプの高域の成分とのブレンドの良さも感じられます。

    また、ベルに由来する電子音のような”ピッ”という高域のピーク成分に関しても触れる必要があると思われます。所有している楽器の中では、SABIANのハイハットによく見られる特徴で、この性質は、ライヴでの便利さと、レコーディング時での対処の容易さから、優れた個性として捉えています。

    ライヴでの便利さとしては、はっきりとヌケてくる部分なので、自分自身も共演者も、聴き取りやすいポイントとして扱うことができます。レコーディングでの対処は、これまた明確に鳴っているため、ピンポイントでEQによるカットが可能です。多くの場合、問題になりませんが、気になる人がいたり、気になるケースはあるので、把握しておくことでその強みを生かせる1つの例でしょう。

    ここまで褒めていますが、すでに人に言いづらいくらいの量のハイハットを持っているので、まだ購入していません……これから楽器を揃えると仮定して、3ペアだけ選んでいいよと言われたら、うち1ペアはこれを選ぶと思います。

    さて、もう1つご紹介する逸品は、永遠のスタンダードと言っても過言ではない、ZildjianのA New Beat Hi Hatです。