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セルフ解説で掘り下げる最新作『HIKAWADAI NIKKI』【the band apart 木暮栄一 連載特別編|有料会員限定記事】
- Text:eiichi kogrey[the band apart]/Photo:Tetsuro Sato
the band apartの木暮栄一による連載コラム「Must-listen Songs for Drummers」。9月12日にそのスペシャル版として、リアル・イベントを開催。the band apartの最新作『HIKAWADAI NIKKI』を題材に、制作の背景やレコーディング、ドラム・アプローチについて実演を交えながら解説してもらった。今回はコラムも特別編として、『HIKAWADAI NIKKI』を木暮自身の言葉でさらに深掘り。メンバーとのアレンジ作業、ドラム・パターンやサウンド作りでの試行錯誤など、制作時のエピソードと共に全10曲を振り返る。

M1「Intro (Hikawadai Line)」
【木暮】使える音色の限定された制作環境、長い制作期間に疲れ切ってしまい、音楽的な意味での癒しと現実逃避を兼ねて作った楽曲……ではあるのだけど、「この電車は氷川台メトロ氷川台線各駅停車氷川台ゆきです。次は氷川台に停まります。氷川台線はお乗り換えです」というアナウンスに象徴されるように、電車から降りようが乗り換えようが、制作現場である氷川台からは決して逃げられない、という当時の状況を無意識に記録してしまった、ある意味ホラーなアンビエント。
M2「氷川台DAYZ」
【木暮】最終的に「Amaj9 on G」と「Gmaj7/9 on A」の響きになるリフレインを、冒頭8小節の間に段階的にビルドアップする工夫をしたイントロが結構気に入っている。イントロ・Aメロ・Bメロは、奇数小節のアタマの強拍を16分音符1つ分後ろにシンコペートさせたリズムが共通しているので、メロディとコード進行でAメロ(疾走感+浮遊感)→Bメロ(昂揚感+感傷)という場面展開を作った。歌詞は過去を踏まえての現在と「こう生きていきたい」という自分への鼓舞が混ざった感じ。延命寺シンバルのハイハットがコンプいらずで、とても録音向きだったのに反して、スネアのピッチを決めるのに苦労した。今作で最もまとめるのが大変だった曲。間奏はすぐできたのに。
M3「約束は緑色」
【木暮】それぞれのパートが独立したフレーズを奏でているのに不思議な一体感があるのは原のセンスだと思う。代理コードの挿入や部分転調に無理やり感がない。調性(キー)外の音を使えば使うほど楽曲の印象は浮遊感と共にぼやけてしまうものだが、彼の曲にはそれがなく、むしろ常に“心地良い裏切り”の仕掛けになっている。サビはちゃんとキャッチー。幼い頃からクラシック以外の音楽を聴くことを親に禁止されていた彼が、小学校高学年で初めて自発的に聴いたクラシック以外の音楽がカシオペアだった……そんな音楽遍歴も原の曲が纏う「謎の上質感」と関係があるのかもしれません。1番2番のAメロと所々にあるキメなど、ドラム・パターンをつけるのにかなり時間を要した。ちなみに曲自体が一回ボツになっている。
M4「やぶ忠/YABU-CHU」
【木暮】ほぼ同じギター・フレーズのループに、ベースやリズムで変化をつけることで成立しているような曲が作りたくて制作し始めた楽曲。しかしその目論見はワンコーラスで終わり、後からつけたイントロ/ブリッジを含め結局3つのパート、さらにプラスしてまったく別のアウトロがつくという構成になってしまった。自分でも何でかわからない。ドラム・パターンは、ジャージー・ビートや2ステップなどの90〜00年代リバイバルなダンス・ミュージックから影響を受けていると思う。サビにうっすら重ねたチープなシンセ・ストリングスも90sハウスへのオマージュです。「だいたい大丈夫」というのが歌詞で言いたかったこと(主に自分に言っている)。

M5「昼下がりのボヤージュ」
【木暮】荒井の曲はコード進行とメロディの状態から、バンドで実際に合わせながらアレンジを決めていくことが多い。スムースにいくときも多いのだが、この曲に関してはほぼ全編4つ打ちのリズムに決まるまで結構時間がかかった。特にAメロに関してはセッションを始めた当初と(ベース・ラインを含め)まったくの別ものになっている。僕は行き詰まると手数を増やしがちな傾向にあるのだけど、この曲のドラムのフィルインはシンプルかつ小粋な感じにしたかったので、古いディスコやソウルを聴き直して参考にした。イントロ/アウトロの印象的なリード・ギターは、荒井曰くドラマ「はぐれ刑事純情派」インスパイア。歌詞の英語部分も含めそうした独特の編集感覚が彼らしい。
M6「中毒」
【木暮】前にドラマガ・コンテストの課題曲(「Your Town To Everywhere」)で作った曲のコード進行に改造を施して作った曲。「やぶ忠」ではできなかったループ構造アレンジに再挑戦したものの、サビでやっぱりコードを変えてしまい、それどころか全体の小洒落た感じに耐えきれずに謎のアウトロまでついている。バンドのために曲を作るとどうしてもこうなってしまうので、無意識下にthe band apartというものに対するセルフ・イメージがあるのだと思う。とはいえ、アルバムの他の曲に比べれば相当シンプルなアレンジで、特に本編のドラムはほぼワンループ。ドラム録音は最小のマイク本数(4本)に、iPhoneのマイクで拾った音が混ぜてある。歌詞はさまざまな中毒について。メロディを荒井につけてもらった。
M7「妾人街」
【木暮】締め切りに追い込まれた原が一週間くらいで作った。彼の曲はドラム・パターンを決めるまでに時間がかかることが多いのだけど、この曲に関しては2日程度でまとまったと思う。なるべく手数を減らしてフィルインもベタでシンプルな感じが良い、という注文もあったので、なるべくそのイメージに添うようにゴースト・ノートもほとんど入れていない。Bメロの、いわゆるサンバ・キック・パターンにタムを重ねたパターンは原のアイディア。ドラム全体のチューニングを少し下げたのに対して、ハイハットはEMJからKジルジャンに替えて抑えめに録音(オープンを連打する場面が多かったため)。タイトルはプレイステーションのゲーム「クーロンズゲート」から。
M8「かなしい」
【木暮】アンニュイで哀愁のあるコード感/テンポチェンジ/変拍子/ラウドなディストーション・ギター、など川崎全部のせみたいな曲。締め切り直前に彼のイメージを僕がMIDIに打ち込んでデモ化し、それを参考に実際にスタジオでセッションして修正を重ねながら、ドラム・パターンや場面展開などを決めていった。the band apartでは作曲者が歌詞を書くことが比較的多いのだが、「どうしてもできない」とのことだったので、僕が川崎にインタビュー形式で歌詞を書いていくという形で作詞(暇を持て余して酒を飲んでいた録音エンジニアが、横から歌詞のダメ出しをしてくるという初めての経験もしました)。5拍/6拍を4つ打ちで跨いでいくパートがあるのだけど、そこに入ってくる「フッフ」というハミングのタイミングがマジで難しい。

M9「Tuesday Night」
【木暮】制作したのが比較的余裕のある時期だったからか、他の曲に比べるとミキシングを含め音にも余裕がある、気がする。この曲も他の荒井の曲と同じくワン・コーラスのコード進行とメロディがあったので、みんなでセッションしながらリズム・アレンジしていった。荒井の曲の場合、特にドラムに関しては基本的にお任せなことが多いので、開放感あるサビのイメージに照準を合わせ、そこへ向かうAメロはなるべく隙間を生かしたアンサンブルになるように、ドラムから全体のアレンジを調整した。原のルーツにカシオペアがあるように、荒井のルーツの1つには、両親が好きで流していたというサザンオールスターズがあるのだと思う。歌詞の英語の使い方にそれを感じることがよくある。
M10「Footsteps in the snow」
【木暮】「Festival e.p.」にワン・コーラスの弾き語りとして収録されていたのだが、良い曲だったのでフル・コーラスのバンド・アレンジで再録音。真冬に作っていたのでベルの音を入れたりした。原型を荒井が思いついたのは20年以上前とのことで、そのことに導かれるかのように過去を振り返るような歌詞になった。近年になってギターの歪んだロック・バンドをまた聴いたりしていることも反映されて、大サビ以降は今作で最もディストーション・ギターの重ねトラックが多い。ドラマガwebの連載でも書いたが、リバーブで反響する轟音ギターの壁は、自分にとってはなぜかノスタルジックなものなのだと思う。大サビのハーフに落ちるところでリズムが前傾になってしまうのを練習して修正した記憶があります。

イベントを終えて……
the band apartのアルバムは、メンバー全員が作詞作曲する点、またキャリアと完全インディーという活動形態によって外部からの視点がほぼ排除されているという点において、「その時その場所を写した写真」が並べられた字義通りの「アルバム」の色合いが非常に強いと思います。
割と好き勝手に書かせてもらっていた連載の最後を、同じく好き勝手に活動してきた自分達の最新作で終えられることは僥倖以外のなにものでもありませんが、それも読者のみなさんや北野さんをはじめ、リットー・ミュージックのみなさんのおかげです。ありがとうございます。
これで”連載コラム”は一旦終了となりますが、形を変えて続くかも?なんていう話もありますので、今後ともご愛顧のほどよろしくお願いいたします。
それではまたどこかで!
the band apart|New Album『HIKAWADAI NIKKI』

『HIKAWADAI NIKKI』the band apart
asian gothic label/ASG-065
2026年8月26日発売
◉収録曲
01. Intro (Hikawadai Line)
02. 氷川台DAYZ
03. 約束は緑色
04. やぶ忠 / YABU-CHU
05. 昼下がりのボヤージュ
06. 中毒
07. 妄人街
08. かなしい
09. Tuesday Night
10. Footsteps in the snow
↓アルバム/ツアーの詳細はこちら↓
https://asiangothic.net/news/2026/07/07/2886
Profile●木暮栄一:東京都出身。98年、中高時代の遊び仲間だった荒井岳史(g、vo)、川崎亘一(g)、原 昌和(b)と共にthe band apartを結成。高校時代にカナダに滞在した経験があり、バンドでの英語の作詞にも携わる。2001年にシングル「FOOL PROOF」でデビューし、2004年にメンバー自らが運営するasian gothic labelを設立。両国国技館や幕張メッセなど大会場でのワンマン・ライヴを経験し、2022年には結成25周年を迎え、現在に至るまで精力的なリリース/ライヴ活動を行っている。その傍ら、個人ではKOGREY DONUTS名義のソロ・プロジェクトで作詞作曲やデザイナー業を行うなど、多方面で活躍している。