SPECIAL
コロナ禍を境に、ミュージシャンにとって不可欠なツールへと変貌を遂げた配信プラットフォーム。双方向のコミュニケーションの場としてだけでなく、リスナーからの直接的な支援は、アーティストが自律的に活動を継続するための大きな支えとなった。そして日常が戻った今、第一線の現場を支える演奏家にとって、配信とはどのような存在なのか。リアルな声を探るべく、J-POPシーンの最前線で数々のアーティストをサポートする大津 惇にインタビューを実施。演奏活動と並行して、TikTok LIVEを軸に精力的な発信を続けている彼が思う、現代におけるLIVE配信の重要性と、リスナーとの新たな関係性について話を聞いた。
※本記事はリズム&ドラム・マガジン2026年7月号でも読むことができます。
Interview
LIVE配信は僕を1人のミュージシャンにしてくれる
これほど自分が成長できるプラットフォームは他にない

アメリカでの原体験と
プロ・ドラマーへの転換期
●まずは大津さんのドラマーとしてのルーツからうかがっていければと思うんですけど、ドラムに目覚めたのはいつ頃ですか?
大津:6歳くらいだったと思います。父の仕事の関係で3歳から10年間アメリカに住んでいたんですけど、現地の方から引越しのときにドラム・セットを預かることになり、地下室のある家が多い地域だったので、それでうちに突然ドラム・セットが来たんです。
そのときは、父の運転する車ではCASIOPEAさんやDIMENSIONさんだったり、フュージョンがめちゃくちゃかかっていて、母の車ではU2、TOTO、ジャーニーとか、80 年代のロックがずっとかかっていたんですけど、特に神保(彰)さんがカッコいいなと思って、ドラムをやりたいなと思っていたので、渡りに船でしたね。
●いいタイミングでしたね。
大津:黒人が多く住んでいる地域で、いつもバスケをして遊んでいたんですけど、日曜日だけ約束が取りつけられなくて、「何してるの?」と聞いたら「教会に行っている」と。それでゴスペルに出会って、帰国するまで4 〜5年くらい教会でドラムを叩いていました。OBがたまに来て見てくれたりするんですけど、基本は見よう見まねで。あとは自分が好きなフュージョンを地下で練習したりですね。
TikTokをはじめ、SNSに積極的な投稿を行なっている大津。昨年投稿した「In-Ear Mix」シリーズ=“ドラマーがイヤモニでどんな音を聴いているのか?”という動画は画期的で、リスナーはもちろん、同業者も気になることを取り上げた投稿は現在も話題を呼んでいる。
●その後、誰かに習ったりは?
大津:だいぶ間が空いてしまうんですけど、帰国して中学の頃は全然叩いていなくて、高校生の頃から、国立音楽大学に入り浸るようになったんです。当時からSNSを結構使っていて、「音大キーボード プロ」とか「音大 ギター プロ」みたいな感じでヒットした人に片っ端から「セッションしてください!」ってメッセージを送って、それで行き着いたんです。
高校生ながら卒業ライヴにも出させてもらったんですけど、それが六本木ピットインの昼の部で、夜の部の入れ替えで岩瀬立飛さんが入ってきて、ちょうどバレンタインだったんですけど、お客さんからもらったチョコを「差し入れです」って渡したんですよ。
●(笑)。
大津:最低ですよね(笑)。「絶対もらったやつでしょ(笑)」ってバレたんですけど、「何でも手伝いま
す!」って言って2 年くらいボーヤをやらせてもらいました。エリック・ミヤシロさんのビッグ・バンドや国府弘子さんだったり、ジャズの現場に連れて行っていただいて。
●プロとして活動することになったのは?
大津:普通に大学に行って、就職して、会社員として働いていたんですけど、そのときに知り合った方を通じて、声優の今井麻美さんのツアーに参加することになったんです。大学時代もアーティストさんのサポートはちょこちょこやっていたんですけど、フルタイムでドラマーとして活動したのはそのツアーが初なので、それがプロ・デビューと言える仕事だったと思います。
コロナ禍の苦悩と
活動を支えたLIVE配信
●今のように、SNS での発信を本格的に行い始めたのはいつ頃なのですか?
大津:学生の頃からSNS を使ってはいたのですが、実は、手応えを感じ始めてきたのは去年あたりなんです。ドラマーが現場でどういう音を聴いているのか、イヤモニの中の音をそのまま聴かせる“ 耳中シリーズ”をまずInstagram で投稿し始めたらすごく反響があって、そういう動画をTikTok にも投稿してみたらすごく見られるようになったんです。それで、まずはTikTokフォロワーの基盤作りというか、ブーストをかける目的で投稿していきました。
●LIVE 配信はどういうきっかけで始めたんですか?
大津:もともと2021年の8月くらいから他の配信プラットフォームを始めていたんです。コロナで仕事がなくなってしまって、「現場のないミュージシャンとは、ミュージシャンと果たして言えるのだろうか?」と考えるようになって、周りのミュージシャンも配信を始めていたので、その流れで自分も始めましたね。
去年の10 月あたりからは、より多くの人にリーチできるTikTok LIVEに、主戦場を移しました。先ほどお話ししたTikTok フォロワーの基盤作りは、ちょうど配信プラットフォームをTikTok LIVE へ移行しようとしていた時期でした。
●プラットフォームを切り替えて、新たな発見はありましたか?
大津:まず世界中の人に発信できるのは魅力ですね。リーチできるリスナーの属性も違ってきますし、もちろん前の配信プラットフォーム時代から変わらず見てくれている方もいます。今のところは以前からやっている、電子ドラムでの演奏とトークをだいたい8:2 くらいというスタイルで配信していますが、まだまだ模索中です。
1 つ面白いのが、TikTokの投稿と、LIVE配信でまったくインサイト(視聴者データ)が違うということですね。LIVE配信は60〜70%が女性なんですけど、投稿では80%以上が男性です。しかも、いつも投稿を見てくださる方に向けてLIVE配信をするとしたら、タガログ語(フィリピンの公用語)を覚えないといけません(笑)。
●海外の方が大多数なんですね(笑)。配信に抵抗感はなかったですか?
大津:僕はなかったですね。現場では「またあいつ配信回してるな」くらいに思われていたと思います(笑)。ただ、セッション・ミュージシャンの中ではまだまだ「配信なんて……」と思う人も多いので、厚かましいですけど、僕がその壁を少しでも下げられればというか、自分の活動の実態をダイレクトに届けられるツールだと思うので、「TikTok LIVEいいよ!」というのを、多くのミュージシャンに伝えていければいいなと思っています。
1人のミュージシャンとして
感じるLIVE配信の重要性
●ミュージシャンの在り方が多様化している現代において、配信は1つの生存戦略に捉えられることもあると思います。
大津:ギフトというお金のやり取りも生まれている点では、クラウドファンディングのような側面もあるんですけど、僕にとってはまた違った面の方がとても意義があることだなと思っています。
僕自身、コロナ禍で仕事がなくなったときに、リスナーの方々に精神面でも本当に助けていただきましたし、逆に、リスナーさんが元気のないときに僕の配信を見つけてくれて、ディープな相談をしてくれたり、僕の演奏で前向きになってくれたり。配信は、そういった濃密な人間関係と恩返しのループが生まれる場所なんです。
●相互の支え合いがあって、それぞれの原動力になるというのは、とても素晴らしい循環だと思います。
大津:それと僕が助けられた点はもう1つあって、自分自身が主役となる“1人の自立したアーティスト” としての意識が芽生えるようになったんです。LIVE配信は、言ってみれば自分の完全なワンマンショーです。1人きりで1回3〜4時間もカメラを回し続けるというのは、実はかなりの集中力と精神力、体力を必要とします。喋りの度胸も含めて、ミュージシャンとしての修行の場になります。
バック・バンドの1 人という立場から、僕を1人の独立したミュージシャンたらしめてくれた場でもありますね。リアルな世界よりも、LIVE配信の方がアクションに対するリアクションが返ってくるスピードが圧倒的に速いと感じていて、だからこそ、どうすればもっと楽しんでもらえるか、どうすれば僕のLIVE配信に留まってもらえるかという考える癖が自然と身につきます。自分のキャリアを能動的に構築していく上で、これほど成長できるプラットフォームはないと思います。

普段の配信はリクエストに応えて演奏しながらトークも交えるというスタイル。TikTok LIVEでは「視聴者リクエスト機能(ギフトに応じて配信者にリクエストを送れる機能。チャットを入れなくても、ギフトを送るだけでリスナーのリクエストが伝わる)」など、初見のリスナーでも参加しやすい環境づくりが特徴。LIVEクリエイターへのサポートも手厚く、LIVE Creator Hubと呼ばれる、LIVE配信のノウハウを段階別/ジャンル別でまとめたWebサイトも公開されている。
Streaming Gear〜大津 惇のLIVE配信機材〜
大津がLIVE配信で使用しているドラムはRolandのTD-27KV2。音源モジュールTD-27を搭載したV-Drumsで、フラッグシップ・モデル譲りの性能やサウンドは折り紙つき。TD-27のサウンドや演奏する楽曲の音源はBehringerのミキサー、XENYX 1202FXを通して調整し、IK MULTIMEDIAのオーディオインターフェース=iRig Pro Duoを介してLIVE配信にミックス。映像はスマートフォンのみで完結しており、非常にシンプルな配信環境となっている。


TikTok LIVEとは?

新たなファン層の獲得と収益化が可能!
手軽に始められるLIVE配信
TikTok LIVEとは、TikTokアプリ内でリアルタイムに動画配信を行い、クリエイターと視聴者が双方向で交流できる機能。TikTok LIVEでは、18歳以上かつ一定のフォロワー数の条件を満たしていれば誰でも配信が可能で、一定の条件を満たすと視聴者から贈られるプラットフォーム上の“ギフト”を受け取ることもできる。
LIVE配信を行うクリエイター(LIVEクリエイター)は、他のクリエイターや視聴者を最大8人まで招待できる“マルチゲスト配信”や、視聴者から贈られるTikTok LIVE上の“ギフト”などの機能を活用することで、新しいファン層の獲得や収益化を実現。
一方、視聴者はLIVEを視聴するだけでなく、“LIVEコミュニティ”へのサブスクリプション登録、チャットへの参加、ギフトによるリアクションを通じて、お気に入りのクリエイターを応援することができる。
スマートフォン内蔵のカメラのみでも配信ができるため、誰でも気軽に始めやすい点も大きな特徴。幅広いユーザーが手軽にLIVE配信を行える環境が用意されている。
TikTok LIVE
◎TikTok LIVEの詳細はこちら
https://www.tiktok.com/support/faq_detail?category=web_tiktok_live
◎LIVE配信ガイド(*閲覧にはTikTokアカウントへのログインが必要です。)
https://www.tiktok.com/live/creators/ja-JP/academy?enter_from=Category_Nav
◎LIVE Creator Hub
https://www.tiktok.com/live/creators/ja-JP/

Profile●おおつまこと:1990年7月30日生まれ。幼少期の10年間をアメリカ・ミシガン州デトロイトで過ごす。帰国後、2006年にYamaha Big Wave Orchestraに加入。慶應義塾大学に進学後、自身のバンド「大津カルテット」が六大学音楽FES’ 2010決勝大会において最多動員賞を受賞。2016年、声優/歌手の今井麻美のツアーへの参加をきっかけにプロとしてのキャリアをスタート。ブラック・ミュージックを色濃く感じる強力なビートとテクニックで国内外のジャズ/R&B界のトップ・ミュージシャンとの共演を続ける他、ロックやポップスに至るまでジャンルに捉われない活動を展開している。


