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    CHAPTER5:トラップ・ビート

    みなさんこんにちは、松尾啓史です。今回は、ヒップ・ホップなどの楽曲に用いられている“トラップ・ビート”というドラミング・スタイルについてご紹介したいと思います。機械的なサウンドを表現するために、電子音源を搭載したパッドやエフェクティヴな楽器などを混ぜ込んで表現されることが多いですが、今回はノーマルなドラム・セッティングでチャレンジできるようにしてみました

    “トラップ・ビート”とは?

    トラップ・ビートと聞くと人を“罠”にかけるようなリズム・パターンではないかと錯覚してしまいますが、そもそも「トラップ」の語源は「コカインの密売所」を表すスラングから来ており、ドラッグ中毒者や売春、ギャングなどが横行する地域から生まれたジャンルであることから、その名前で世に広まりました。T.I.というアトランタ出身のラッパーは、“トラップ・ミュージック”というジャンルを広めた第一人者としても知られています。ストリート生活をリアルに歌い上げた歌詞と、シンセやヘヴィなベース・ライン絡み合わせて生まれる中毒性の高いクラブ・ミュージックにおけるビート - キレの良いハイハット連打やスネア、またはクラップ音を主体としたアプローチ - のことを言います。

    奏法パターン Ver.1

    コモン・トラップ・グルーヴ

    導入として、“これぞトラップの真骨頂”と言っても過言ではないポピュラーなトラップ・ビートをまずは体感していただきたいと思います。

    3拍目のバック・ビートを主音とし、3拍目アタマ以外のスネアをサブと捉えていきます。そうすることで、1つのパターンの中で縦横無尽にパルスを変化させたとしても、ビート全体が崩壊せずに統制が保たれています。

    Check!

    コモン・トラップ・グルーヴのエクササイズ

    演奏時、特別音量に変化をつけるわけではないのですが、バック・ビート・スポットがどこにあるのかは常に明確に意識しつつ演奏するのがポイント。奇数・偶数音符の同時演奏や、8分音符、16分音符、3連符、6連符、そして32分音符まで、さまざまなサブディヴィジョンが1つのグルーヴの中で交錯しているのが特徴です。

    奏法パターン Ver.2

    ホールタイム・トラップ・グルーヴ

    トラップ・ビートはパターンの構成要素によっていくつかの種別に分類することができます。今回はその1つである“ホールタイム・トラップ・グルーヴ”について解説したいと思います。

    通常4分の4拍子のリズム・パターンの場合、メインとなるバック・ビートのスネアは1小節で2打、あるいはハーフ・ビートの場合でも毎小節に1打はショットするかと思いますが、2小節でたった1打しかショットしないのがこのホールタイム・グルーヴの大きな特徴と言えるでしょう。

    一般的なハーフ・ビートの感覚とはまた少し違う、リズム・パターン全体がより引き延ばされたかようなスローモーション的な演出や、“酔った”感覚を構築することができるのです。

    Check!

    ホールタイム・トラップ・グルーヴのエクササイズ

    2小節や4小節で展開されるトラップ・グルーヴをプレイしてみましょう。バック・ビートがパターン中に最小限しか存在しないので体感的にゆったりとした印象ではありますが、6連符や32分音符などの細かいパッセージもしっかり登場するため、ぶれないタイム感と正確なスティック・コントロール力が要求されます。ハイハットのダイナミクスをなるべく一定に保てるように、ショットする際のスティックの高さを均一に保ちましょう

    まとめ

    いかがでしたでしょうか? ポップスやジャズ、ロックとも違う独特の観点から、新しいグルーヴが体験できたのではないでしょうか。次回も引き続き、トラップ・グルーヴについて掘り下げてみようと思いますので、楽しみにしていてください。

    Ultimate Drum Technique – BACK NUMBER

    CHAPTER 1:モダン・フット・ワーク
    CHAPTER 2:左足のハイハット・コントロール
     ▶︎上記2つについてもっと詳しく知りたい方は、リズム&ドラム・マガジン20年7月号をチェック!


    ■CHAPTER3:ゴースト・ノート
    ■CHAPTER4:ワン・ポイント・モジュレーション
     ▶︎上記2つについてもっと詳しく知りたい方は、リズム&ドラム・マガジン20年10月号をチェック!

    ◎Profile
    まつおひろし:豊富なドラム知識を生かし、リットーミュージックより自身の執筆する教則本『究極のドラム・トレーニング・バイブル』をリリース。現在はリズム&ドラム・マガジンでプレイ分析や執筆を担当している他、ドラム・セット・プレイヤーとしてのみならず、ドラム・スティックを投げたり回したりと視覚的に楽しませるパフォーマーとして、東京ディズニーシーや打楽器アンサンブル・チームでの公演の経歴もある。また、サウンド制作スタジオ「INSPION」のメンバーでもあり、ゲーム音楽を中心としたレコーディングは多岐に渡る。20歳の頃より音楽教室でのレッスンなど、クリニシャンとして後世のドラマーの育成にも積極的に取り組み、吹奏楽からプログレまでジャンルを問わずさまざまなバンドでのライヴ・セッション活動を行っている。

    ◎Information
    松尾啓史 HP Twitter YouTube