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    真のドラム・ヒーロー、ニール・パートが残した名演を振り返る〜追悼特集 ♯1〜

    • Photo:Mat Hayward/Getty Images
    • Text:Satoshi Kishida

    11th Album『POWER WINDOWS』/1985年発表

    前々作からの探求が大きく実を結んだ80年代の傑作。多様なメロディとリズムが複雑に連続するラッシュ本来の持ち味とエレクトロニクスが融合し、輝きと躍動感あふれるサウンドに。M8「Mystic Rhythms」を筆頭に、エスニック・リズムとエレポップのモダン・ビートが結びつき、ニールのパーカッシヴな個性が生かされた。


    12th Album『HOLD YOUR FIRE』/1987年発表

    80年代の集大成としてラッシュ流モダン・ロックを突き詰めた作。エレクトロニクスの使用を抑え、曲展開を整理。優れたメロディ・ラインを明確に提示し、ゲディの歌が伸びやかに飛翔する。女性ヴォーカルでエイミー・マン参加。空間を生かすドラミングが多いがM7「Mission」、M8「Turn the Page」には手数系ニールらしさもしっかり。


    13th Album『PRESTO』/1989年発表

    90年代を目前にコンピュータ・テクノロジーから離れ、ギター・トリオの原点に向かう彼ら。シンセは後景に退き、ギターと歌が前面に。環境問題や自殺など、社会に広がる不安が歌われ、時代感覚の鋭さにも驚く。ニールはM5「Scars」で生ドラムとエレドラをミックスし、エスニック・リズムをグルーヴィにプレイ。


    14th Album『ROLL THE BONES』/1991年発表

    サウンドは前作を引きつぎ、英エレクトリック・ポップロックを意識し、楽器隊はタイトなリズムにフォーカスした作風。音の隙間を生かしたダンサブルな楽曲が多い。表題曲ではラップが登場。インスト曲のM5「Where’s My Thing?」では正統派ファンクやスウィング・ジャズ・ドラミングを披露。全米3位のヒット・アルバムとなった。


    15th Album『COUNTERPARTS』/1993年発表

    初期ハード・ロックを思わせる豪快なギター・リフのM1「Animate」から、同時代的なグランジのM2「Stick It Out」へ移る冒頭が鮮烈。タイトなリズムを核に他が表現し得ない90年代型ヘヴィ・ロックを展開し、彼らが常にロック最前線で格闘してきたことを知らしめる。ドラムのハイライトは鬼のようなM8「Double Agent」とリラックスしたM9「Leave That Thing Alone」。全米2位を記録。


    16th Album『TEST FOR ECHO』/1996年発表

    前作後、ニールはドラム・トレーナーのフレディ・グルーバーの元でドラムを学び直し、本作をほぼ全編レギュラー・グリップで通す。その変化が音とプレイに表れている。ハード・エッジなギター・ロックの中、ドラムはバウンス感の生きた自然なものになり、彼の原点のジャジーなフレーズが復活。表題作M1「Test for Echo」が圧巻。


    17th Album『VAPOR TRAILS』/2002年発表

    97年夏から1年の間に、娘と妻を相次いで亡くす不幸に見舞われたニールは、失意の中、引退覚悟で放浪のバイク旅に出る。5年の活動休止を経て、3人が再び集った復活作が本作。エンジンを再始動するようなM1「One Little Victory」のツーバスは鳥肌もの。キャリア中で最も激しいヘヴィ・ロック。進化し続ける姿が美しい。


    18th Album『SNAKES & ARROWS』/2007年発表

    ヘヴィなロックの後ろからナチュラルで温もりあるメロディが響く。ニールがバイク放浪で出会い歌詞に込めた心象風景をなぞるように、映像を喚起する曲も多い。『TEST FOR ECHO』以降のドラムの進化を示すのがM6「The Main Monkey Business」、M7「The Way the Wind Blows」、M10「Bravest Face」など。サウンドは甘美に、フレーズはより自由自在に。


    19th Album『CLOCKWORK ANGELS』/2012年発表

    作品全体で1つのストーリーを描くラッシュ初のコンセプト作。歌詞だけではわかりにくいので、ニールとSF作家K.J.アンダーソンによる小説版も作られた。情景や情感を表すためもあって、曲調とドラム・パターンはバラエティ豊か。表題曲の「Clockwork Angels」など、ドラムだけで一巻の映画を観るような説得力がある。

    ※本記事は2016年2月号の記事を転載したものです。

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