プランのご案内
  • UP

    Featured Drummer- アニカ・ニルス

    • Interview & Text:Rhythm & Drums Magazine Interpretation & Translation:Akira Sakamoto
    • Photo:Jules Bartolomé,Anika Nilles(Equipment)

    Interview

    自分が作ってきた“物語”を
    他の人達に預けて変化させるのは
    私にとって最大の挑戦でもあった

    メトリック・モジュレーションなどの複雑難解な拍子を操り、その超絶技巧ドラミングで全世界から注目を浴びるドイツ人女性ドラマー、アニカ・ニルス。今年5月に予定していた初来日公演が新型コロナウイルス感染拡大の影響により中止となってしまったが、弊誌がアニカへの電話インタビューに成功! 彼女が率いるバンド=Nevellと共にリリースした2ndアルバム『For a Colorful Soul』の制作話に迫りつつ、レコーディングで使用した愛器も紹介していく。さらに、クリニックを心待ちにしていた日本のファンのために、アニカがオススメ基礎練習の譜面を特別公開!

    このメンバーとの結束力を高めて
    “自分達”の音楽をやりたいと思った

    ●以前のインタビューでは、テクニックとフィールのバランスを取りながら両方を追求したいというお話がありましたが、新作『For a Colorful Soul』はその集大成になっていると感じられました。今回のアルバムを作る上で、どんな点を心がけましたか?

    アニカ 今回はあまりテクニカルな面を押し出さずに、他の楽器のパートとグルーヴを融合させるように心がけたの。曲も私がプロデューサーと一緒にすべてを作った前作(『Pikalar』)とは違って、バンド(Nevell:ネヴェル)全員でアイディアを出し合いながら作っていったわ。アルバムの7曲は、主なアイディアを私が持ち込んだけど、2曲はヨアヒム(シュナイス/g)や、パトリック(ルーゲブレークト/key、syn)のアイディアが元になっていて。私が持ち込んだアイディアも、みんなと一緒に曲を作っていくうちに、それぞれの感覚や好みが加わって、最初のものからはかなり変化しているわ。こうしたやり方は私にとっても新鮮で、とても楽しかった半面、自分が考えてきた“物語”を他の人達に預けて変化させるというのは、ある意味では最大の挑戦でもあったわね。

    ●テクニカルな面で言えば、ポリリズムやメトリック・モジュレーションといった手法も取り入れてはいますが、それらがより自然に楽しめる音楽になっている感じですね。

    アニカ ええ。曲そのものもより自然に出来上がったから、流れもより自然に感じられると思うわ。

    ●みんなで曲を作ろうと思ったのは、バンドとしてのネヴェルに自信が持てるようになったからですか?

    アニカ そうですね。バンドというのはセッションなどでミュージシャンを集めたものとは違うから。私はアルバムやツアーごとに違うメンバーを集めるというやり方は好きじゃなくて、メンバーが固定したバンドで活動したいと思っているの。メンバーが固定していれば、より深い表現を追求できるし、お互いのことをよく理解すれば全体の創造性も高くなるわよね。そういう結束力みたいなものが欲しかったのよ。このメンバーではすでにライヴをたくさんやったけど、曲も一緒に作って、“自分達”の音楽をやりたいと思っていたわ。だから、ネヴェルの音楽は私が1人で曲を作った前作のものとは大きく違うし、その違いは感じてもらえると思う。

    ●前作よりもリラックスして聴ける理由はそこにもありそうですね。

    アニカ 私もこのバンドでは、よりリラックスして演奏できるわ。他のメンバーがスポットを浴びてエキサイトしている間、私はのんびりできるの(笑)。ドラムでもやることはたくさんあるけど、それでもこのバンドでやるときにはリラックスできるわ。

    Nevell(L→R):Joachim Schneiss(g)、Jonathan Ihlenfeld Cuñado(b)、Anika Nilles(d)、Patrick Rugebregt(key、syn)

    For a Colorful Soul

    歌詞に頼ることができないからこそ
    感情は“ハーモニー”を通じて表現していく

    ●あなたがメインのアイディアを持ち込んだのは7曲ということですが、そのアイディアは主にどんなものだったのでしょうか。リズムかコード進行かメロディか、あるいはそれ以外のモチーフのようなものなのでしょうか?

    アニカ 今回はコード進行が多かったわ。というのも、最初に言ったように、テクニックよりもある種の気分や感情をもとに作ることが多かったから。ここ何年かツアー活動が多くて、いろんな国を訪れたときの経験や感じたことを音楽にしたかったの。私はいろんな色や風景、芸術、建築を見るのが大好きで、そういうものは国によってまったく違うから、ショウが終わった後でくつろぐときには、ワインを片手にその国で感じたことをしっかりと記憶に留めて、次の曲作りに生かすようにしているわ。私にとってはそれが重要なインスピレーションの源で、こうした感情をもとにすると、曲作りがとても楽になるの。インストだと、感情を表現するために歌詞に頼ることができないから、感情はハーモニーを通じて表現することが大切だと思っているわ。

    ●「Golden Sparks」では、タムに取りつけたスナッピーをスティックでこするようなことをしていますが、あれはどんなきっかけで思いついたんですか?

    アニカ ある曲のある場所で何か特殊なサウンドがひらめいて、どうすればそれに一番近いサウンドが出せるのか、いろいろと実験することがあるの。それがスナッピーをこする音だったり、特定のシンバルを重ねた音だったりするわけなんだけど、私はそれほど機材に詳しくないこともあって、特に普段からいろいろなサウンドを試しているというわけではないわ。ただ、シンバルに関しては曲調に一番相応しいサウンドのものを使いたいから、常にいろいろと試していて。曲の中でシンバルが発揮する効果というのは、なかなか興味深いわ。シンバルは私にとって、ドラム・セットにパーカッション的な要素を加えるもので、それはドラムをいろいろなものでミュートするのと似たような感覚ね。

    ●新作の中で、自分のドラミングが一番気に入っている曲はどれでしょうか。

    アニカ 良い質問ね(笑)。そうね……「Neon」と「Bulgarian Nights」、それに「Circles」かな。普段の私は力強くてエネルギッシュな演奏が特徴で、この3曲もそうした面もあるけど、ダイナミクスやゴースト・ノートといった細かい部分にも神経を使って、スネアを多く使ったり、シンバルを少なめにしたりする部分を作るようにしていったの。いつもはシンバルを叩きまくる方だけど(笑)、それを抑えてドラムを中心にリズムを組み立てたのが、私にとっては新鮮だったわ

    ▼ 続きは次ページへ ▼