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    著者・長野祐亮氏に聞く『超ドラム初心者本』制作の内側

    • Interview & Text:Isao Nishimoto

    基礎を磨き上げることに終わりはない
    その大切さを伝えたかった

    楽器を使わずにリズム感を鍛えるドラムレス・トレーニングも紹介されています。

    長野 ドラムのある場所で練習できる機会が少ない初心者も、ドラムのフレーズやカウントを口で歌うだけでトレーニングになるし、椅子に座って、手で太ももを叩くボディ・ドラミングでも、この本に載っているエクササイズの多くは練習できると思います。楽器がないから練習できなくてつまらない……じゃなくて、何でも叩いて練習できちゃうのがドラムの良いところだと思うので、楽しく練習してほしいです。

    あと面白いと思ったのが、練習時間の効果的な使い方を具体例で示したページです。基礎練5分、リズム・パターン5分、みたいな感じで。

    長野 ある程度叩けるようになると、曲を演奏して楽しむ時間が増えて、ついつい基礎練を省いてしまう人も多いと思うんですけど、やっぱり基礎練は大事だし、曲を練習するのも大事だし、その間をつなぐフィルインとかの練習も大事。それらをバランス良く練習することで、上達の土台ができると思います。最初からそういうクセをつけてもらいたいと思って、このページを作りました。

    本書の後半、エクササイズが並んだ実践編は、練習パッド編とドラム・セット編の両方が用意されていますが、いわゆる8ビートではなく4分音符を基本とするリズム・パターンから始まっているのが特徴です。

    長野 8ビートも、その大元は4分音符ですからね。まずは4分音符のビートに乗っていく感覚を掴むことが大事で、それがしっかりしていれば、細かく分かれていっても幹はブレない。細かい音符を叩くことに一生懸命になりすぎると、大元を見失ってしまいますから。

    実践編の最初のエクササイズで、ダウン・ストロークを解説しています。これも教科書的に考えると、ダウン/アップ/フル/タップという4つのストロークを紹介したくなるところですが、あくまでもエクササイズに必要な動きとしてダウン・ストロークに触れているところが親切だと思いました。

    長野 スネアのバック・ビートは特にそうですけど、叩いたあとに低いポジションで止める感覚を掴んでおかないと、うまく叩けないですよね。それを、ゆっくりのテンポで4分音符を叩く段階で身につけてもらうのが最初のエクササイズです。

    ドラマーなら無意識のうちにできてしまうダウン・ストロークの動きも、初めて叩く人は戸惑うことが多いようです。

    長野 そうなんですよね。ダウン・ストロークをちゃんと止めるのって、実はすごく難しいし、その止めたスティックをいかに引き上げるかというのが本当に大事なことで。そこを最初に伝えたいと思いました。

    ●その実践編は4分音符→8分音符→16分音符とだんだん細かくなっていって、それぞれがBasic(初級)/Intermediate(中級)/Advanced(上級)/曲に合わせて叩く、というステップ・アップ式のエクササイズで構成されています。基礎中の基礎から始まって、初心者向けとしては少し高めのレベルにも踏み込んでいると感じました。

    長野 移動が絡むフレーズなどはそうかもしれませんね。縦横の移動がランダムに入っていたりして、意外に難しい。

    だからこそ、長くつき合える本だと思いました。ある程度叩けるようになったらもう見なくなるのではなく。

    長野 そういうふうに使っていただけるとうれしいですね。それは、けっこう先のレベルまで進めるという意味だけじゃなくて、本当の基礎の基礎であっても、ずっと磨きをかけなきゃいけない大事な部分だと思うんです。僕も毎日4分音符と8分音符を練習していますし、16分音符を“タタタン、タタタン”って叩けるよという人も、突き詰めていくといろんな表現の仕方があるわけで、そこにはやっぱり終わりがない。いつまでも磨きをかけるべきフレーズが、この本にはたくさん載っていると思います。

    そういう意味では、もう初心者ではない人もこの本のターゲットになりますね。好きな曲のコピーから始めて、それなりに叩けるつもりになっていて、基礎の大切さは分かっているけれど、いきなり緻密なメカニカル・トレーニングに向き合うのはちょっと……というような人は特に、この本が役立つのではないかと思います。

    長野 ありがとうございます。

    Lesson11以降が“実践編”。画像はLesson12「8ビートと8分音符のフィルイン」の冒頭ページで、この章で学ぶポイント、代表曲、基本的な手順&足順が示される。この後、YouTube動画に対応したステップ・アップ式のエクササイズが続く。

    動画と誌面の組み合わせだからこそ
    伝えられるものがあると信じて

    ●さらに、実践編のエクササイズはYouTubeに対応していて、模範演奏を動画で見ることができますが、叩く上でのコツやアドバイスは動画でなく誌面で説明しているのが、YouTubeに溢れているドラム・レッスン動画とは違うところです。長野さん自身も、本誌10月号の『超ドラム初心者本』告知ページで、“文字だからこそ心に残るものがあるという思いを信じて取り組んだ”とコメントされています。

    長野 “これって、あそこに書いてあったよな”みたいな感じで、記憶のどこかに紐づくようなところが文字にはあると思うんです。そこでまた誌面を見返したりできるのも、動画とは違う本の魅力だと思います。解説文の中には、実際のレッスンで生徒さんがつまづいたり疑問を持ったりしたことに対するアドバイスを散りばめました。最後の最後に、“そういえばこんなこともあったな”と思い出して文章を足したりもしたので、ずいぶんご苦労をおかけしてしまいました(笑)。

    ●動画や誌面写真で使っているSAKAE OSAKA HERITAGEのドラム・セット(Evolved)は、長野さんが新しく手に入れたものだそうですね。

    長野 はい。まだライヴで1回使ったくらいで、あとはスタジオに持ち込んで叩いてみたのと、この本の撮影で使っただけです。しばらくヴィンテージのセットばかり使ってきたので、箱に入った新品のドラムが届いたときはワクワクしました。僕が追い求めているドラマーのイメージに近い、低域が豊かで迫力のある音が出ます。“ドラムっていいなぁ”とあらためて思いました。ちなみに、ドラム・セットの動画はヤマハEAD10を使ったシンプルなセッティングで撮影しています。

    そして、最終章として用意された脱ビギナーのためのコンテンツが、この本の奥行きをさらに深くしています。

    長野 実践編では触れていなくても、例えばシンコペーションなどのように、曲を演奏するときどうしても必要になってくることについて解説しています。ルーディメンツのページは文字が多くなりましたが、“こういうのがあるんだな”ということを知識としてまずわかっていてほしいという気持ちで書きました。

    最後に出てくる手足のコンビネーション・フィルも、初心者は一見難しく感じると思いますが、実はそれほど大変ではなくて、しかもプレイの引き出しを一気に増やしてくれます。

    長野 足が入るとフレーズがカッコ良くなるというのは、僕自身が初心者の頃に思っていたことなんです。音符としては8分音符とか16分音符を使ったフレーズなので、ゆっくりやればビギナーでも叩けると思います。あとはそれを少しずつ速くしていけばいいだけですから。

    全体として、ハードルは低いですが中身の濃い本になりましたね。繰り返しになりますが、初心者だけでなく幅広い読者に届くことを願っています。

    長野 ありがとうございます。昔に比べると、教則本のニーズは変わってきていると思いますが、1人でも多くの人に手に取っていただけたらうれしいです。

    最終章「“脱ビギナー”のためのコンテンツ」より。8分音符&16分音符の基礎練バリエーションから、3連符&シャッフル、ハイハットのオープン/クローズ、シェイク、シンコペーション、ルーディメンツ、手足のコンビネーション・フィルと内容たっぷり。実践編と同じく、著者のレッスン経験に基づいた解説文が練習の頼もしい味方になってくれる。
    撮影:佐藤哲郎

    長野祐亮(ながの・ゆうすけ):東京都出身。15歳からドラムを始め、つのだ☆ひろ、そうる透に師事。大学在学中にプロ活動をスタートし、数々のレコーディングやアーティストのサポートで活躍する。現在はそうした音楽活動と並行し、インストラクターやリズム&ドラム・マガジンなどへの執筆活動を通して後進の指導も積極的に行っている。著書に『1日15分!自宅でドラム中毒』、『ドラム・パターン大辞典326』、『新・ドラマーのための全知識』、『リズム感が良くなる『体内メトロノーム』トレーニング』、『みんなで楽しむ手拍子リズムトレーニング』などがある。