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    Interview – SATOち[MUCC]

    • 取材・文:リズム&ドラム・マガジン編集部 ライヴ写真:田中聖太郎、渡邊玲奈(田中聖太郎写真事務所)

    パワーに頼るんじゃなく
    ベロシティを均等にする踏み方を脳に覚えさせる
    バスドラを踏むのは力を抜く作業なんだってことがわかった

    メロディアスな曲調と重低音を効かせたヘヴィなバンド・サウンドで幅広く支持を集めるV-ROCKバンド=MUCC。新曲の公開収録イベントや、期間限定メンバーを迎えてのレコーディング/ツアーなど、アイディアに富んだ活動でも話題を呼ぶ彼らが、15thアルバム『惡』を完成させた。ここでは、バンドの屋台骨を担うドラムのSATOちにインタビューを行い、今作でのプレイや課題に加え、去る6月にこだわりのサウンドと演出で届けた有料配信無観客ライヴの裏側を語ってもらった。

    テンポが遅いときは
    強く踏もうとする癖がついていた

    ●先日、15thアルバム『惡』をリリースされたMUCCですが、聞いたところによると、最近はSATOちさんの作曲方法が変わったそうですね。これまでは、ギターのパワー・コードをメインに曲を作られていたとのことですが……。

    SATOち もうギターは使っていないですね。俺みたいな、ギターを弾けない人が作ろうとすると、自分にとって気持ち良いコードを使うのがクセになっちゃって。“今日は、違う音から始めよう!”と思って作るんですけど、最終的にはその音に戻っちゃうっていう……(苦笑)。

    それで今は、日常生活の中で思いついたメロディを鼻歌でICレコーダーに吹き込んでおいて、それを基に作るようにしています。サビの部分を入れることが多いんですけど、“Aメロが思い浮かばないな……”とか、迷っているときに録ることもよくありますね。

    鼻歌は50件以上録音してあって、俺の“ラララ”がもし誰かに聴かれたらと思うと、恥ずかしいです(笑)。

    ●(笑)。今作のM11「DEAD or ALIVE」、M14「My WORLD(惡MIX)」はミヤ(g)さんとの共作だそうですが、曲作りはどのように分担されたんですか?

    SATOち 23年間変わらず、まずは俺の作ったデモを出して、足りないところをリーダー(ミヤ)に補ってもらう流れなんですけど、「DEAD or ALIVE」はもとの形からかなり変わりました。

    MUCC(L→R):SATOち(d)、YUKKE(b)、逹瑯(vo)、ミヤ(g)
    15th ALBUM『惡』
    マーヴェリック MSHN-079

    ➡︎lynch.のドラマー、晁直が本作をレビュー!
    Drummer’s Disc Guide

    デモのときは、この曲のBメロがサビで、4つ打ちのジャングル・ビートでドドタドドドタド……って押していくような、全体的にもっと暗い感じの曲だったんですよ。でも、鼻歌を音で再現した結果、出来上がったデモは、サビが転調した状態になってしまって。

    自分の思っていた音とは違って気持ち悪い感じはあったんですけど、雰囲気は伝わるだろうと思って聴かせてみたら、リーダーは“もっと遊ぼう”と思ったらしく、それでシンコペーションを使った明るいサビをつけて完成したんです。

    ●それで明るい部分とダークな音の両立した曲になったわけなんですね。レコーディングはいつものように、メンバー全員での一発録りですか?

    SATOち そうですね。リーダーがエンジニアも兼ねていて、コミュニケーションをとりながら進めています。ドラム・マイクもリーダーの私物で、バスドラを試し録りしてはコントロール・ルームからスタジオに走ってきて、立ててあるマイクを違うものに変えたら、また走って戻っていく……っていうのを、(ミヤは)楽しそうにやっていました(笑)。

    ●(笑)。今作のドラム・サウンドは、ロー感の強い音ながら、ツブ立ちもかなりタイトに聴こえました。中でもスネアの音色が印象的だったのですが、レコーディングでは何を使ったんですか?

    SATOち パールの6.5″のセンシトーンと、TAMAのラーズ(ウルリッヒ)モデルを、変な倍音が出る手前ギリギリのロー・チューニングにして対応した曲が多かったです。センシトーンは、レモのCSクリアをつけて、かなりミュートした状態で使ったと思います。確かに今回のアルバムは、このスネアが肝になりましたね。

    M1「惡-JUSTICE-」MV

    ●曲についてですが、M1「惡 -JUSTICE-」は、ミディアム・テンポでどっしりと聴かせる感じの、MUCCらしい曲だと思いました。

    SATOち この曲はBPM=110くらいなんですけど、俺は“ドドッ!”っていう感じの16分フレーズとかは片足で踏むようにしているんですね。今回、リーダーから(ダブルについて)「ベロシティが気になる」と言われて。速い曲なら小さい音でも良いんですけど、この曲くらいのテンポだと、1つ1つの音が目立つのが結構悩みどころで……しばらくずっと、ベロシティのことばかり考えてましたね。

    ●なるほど。それについては、どのように対応していったんですか?

    SATOち 1発目を強く踏んだら、2発目も同じくらい強く踏むようにリクエストされるんですけど、それを実践すると休むタイミングがなくなっちゃって大変だから、やり方自体を見直そうということになって。

    BPMが100でも150でも同じくらいのベロシティを出すために、テンポが遅いときは強く踏もうとする癖がついていたんですけど、実は、まったく逆なんですよね。バスドラを踏むのは力を抜く作業なんだってことがわかって、そこから椅子の高さを上げて、コロナでの自粛期間中、後輩に教えてもらいながら“修行”したんです。

    ●修行の内容というのは?

    SATOち “踏もうとしない”っていうか、“力を入れずにバスドラを踏む修行”みたいなことをやっていました(笑)。まずBPM=100のテンポで10分間ずっとオルタネイトで踏み続けて、次はテンポを105に上げたら同じことをまた10分、その後は110にしてまた10分踏む……っていうのを、BPM=140まで繰り返していく感じで。そうすると、あっという間に2時間経って、“何これ?”っていう感じで終わるんですよ(笑)。

    要は、パワーに頼るんじゃなくて、ベロシティを均等にするための踏み方を脳に覚えさせるみたいな練習なんですけど、そういう病んじゃいそうなトレーニングを、40歳の今になってやることになるとは思わなかったです(笑)。でも、そのおかげでだいぶ踏み方は変わったと思います。

    ●力みをとっていく修行だったんですね。M14「My WORLD(惡MIX)」は、ドラムは結構、前ノリで叩かれていますよね? すごくドライヴ感があるというか。

    SATOち これは意識的に前ノリでやりましたね。もっと速いテンポなら自然に追いつけるんですけど、このテンポ感であのビートとなると、逆にちょっと後ろノリになっちゃうんですよ。

    それで、L’Arc-en-Cielのyukihiroさんにアドバイスをもらって実践していることなんですけど、ライヴ中、ハシったりモタったりしそうなときは、ずっと左足でハイハットを踏んでリズム・キープするようにしています。yukihiroさんの寸分の狂いもないキープ力を見ると、ハイハットを制する者はリズムも制するんだって思います。