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    モーゼス・ボイド〜ロンドンのジャズ・シーンを牽引する凄腕ドラマー!〜 【Interview】

    • Photo:Tetsuro Sato/Special Thanks:Billboard Live Tokyo
    • Interview:Rhythm & Drums Magazine
    • Interpretation & Translation:Akira Sakamoto

    21世紀のドラマーは音楽創りのための
    総合的な知識を持っている
    自発的にいろいろな実験をして
    その成果を発表できる立場にいると思う

    ●今回あなたはヴィレッジ・オヴ・ザ・サンのメンバーとして来日していますが、主宰者のサイモン・ラトクリフと一緒に仕事をするようになったきっかけは何ですか?
    モーゼス サックスのビンカー・ゴールディングと僕は、“ビンカー&モーゼス”名義でギアボックス・レコードから4枚のアルバムを出しているけれど、ギアボックスの本部の近くにサイモンがスタジオを持っていて、サイモンとレーベルのオーナーが仲良しということもあって、2人でいろいろなアイディアについて話し合っていたらしいんだ。それで、サイモンがいくつかのトラックを作っているときに、その1つで僕らをフィーチャーしたいという連絡をくれたのが、確か2018年のことだったと思う。

    そのときは1曲だけだったけれど、それから1年くらい経ってさらに2曲に参加して……とやっていくうちに、彼の作品がまとまってきて、僕らとの関係も深くなっていったんだ。このグループではまだロンドンでショウをやっただけで、日本公演が2回目なんだ。サイモンはベースメント・ジャックスで世界中を周っているし、ビンカーも僕もそれぞれの活動があるからね。だから、今回一緒に演奏する機会が持ててうれしいよ。

    ●日本の観客は幸運ですね。ヴィレッジ~の音楽自体は、あなたとビンカーが中心的な役割を果たしているんでしょうか?
    モーゼス いいや、アイディアのほとんどはサイモンが考えた枠組みやメロディーなんかがベースになっている。つまり、音楽の方向性は彼が決めているんだ。アルバムの『Village Of The Sun』では、ビンカー&モーゼスのサウンドが大きな役割を果たしているのは確かだけれどね。

    ●アルバムの中では、メンバーそれぞれの個性が融合している「Ted」が印象的ですね。
    モーゼス うん、あれはこのプロジェクトの性格がよく出た例だと思う。サイモンは僕らが自由にやる余地をかなり残してくれていて、レコーディングのときにも、アイディアを持ち込むのは彼だけれど、それに対して僕らがやることに対してはオープンなんだ。彼が何かのループを作ってきて、僕らがそれに音を重ねて、最後に彼が曲に仕上げるというやり方が基本だから、まさにコラボレーションだよね。

    ●ビンカー&モーゼスの最新作は『Feeding The Machine』ですが、サックスとドラムというプロジェクトといえば、過去にはマックス・ローチとアーチー・シェップの『The Long March』やデューイ・レッドマンとエド・ブラックウェルの『Red & Black』(1980年)などがあります。あなた方のプロジェクトは時代が新しいこともあって、使えるサウンドの可能性がより広くなっているように思います。『Feeding The Machine』はどのように作っていったのでしょうか?
    モーゼス あのアルバムは、コロナ禍のロックダウンの最中に作ったけれど、それまでのアルバムでやったことは繰り返さないようにしようと決めていた。それで楽曲を持ち寄るんじゃなく、まずはスタジオで自由にインプロヴァイズしてみようと提案したんだ。モジュラー・シンセを使ったりレコーディングの方法を工夫したりすることも含めてね。

    スタジオで一緒に作業できる時間がどれぐらい確保できるかもわからなかったし、リハーサルも満足にできるかどうかもわからなかったから、スタジオが使える間に集中して作業しようと思ったんだ。それで、パースにあるピーター・ガブリエルのリアル・ワールド・スタジオで3日間、実験を続けたけれど、とてもうまく行ったと思っているよ。

    ●ジャズの世界では今、ドラマーがリーダーを務める音楽が増えている印象がありますが、あなたはその理由は何だと思いますか?
    モーゼス 理由の1つは、音楽を学ぶ機会が増えているところにあると思う。必ずしも学校だけじゃなく、YouTubeでも何でもあるからね。今はドラマー達もProToolsやLogic、フリー・ループスなんかの使い方を知っているし、ドラム・マシンのプログラムの仕方も知っている。いろんなプロジェクトに参加してリハーサルの進め方も心得ている。つまり21世紀のドラマーは、例えば70年代の多くのドラマーに比べても音楽創りのための総合的な知識を持っているわけで、自発的にいろいろな実験をしてその成果を発表できる立場にいるんじゃないかな。表現したいことはあるわけだからね。

    僕が今あるのは、マックス・ローチやロイ・ヘインズ、イドリス・ムハマッド、アルフォンス・ムザーン、ビリー・コブハムといった人達が築いてきたもののおかげなんだ。彼らがリーダーとしてツアーをする機会はそれほど多くなかったかもしれないけれど、少なくとも自分達の曲を書いて発表していた。僕は常にそのことを意識しているし、僕だけじゃなく、他のドラマーにもそういう機会が与えられているのは、とても良いことだと思う。マカヤ・マクレイヴン、カッサ・オーヴァーオール、フェミ、ユセフなど、たくさんのドラマーが素晴らしい音楽を創ったり、バンドを率いたりしているからね。もっとやるべきだよ。

    ●そのためにも、楽器やサウンド創りのテクニックばかりでなく、スタジオ作業や作曲などについての知識やスキルが要求されるようになっているということですね?
    モーゼス そう思う。今の時代、スタジオ入りして思い通りのサウンドを得るにはどうしたら良いのか、自分自身が理解している必要があるんだ。マイクやプリアンプ、ドラム・マシンなんかについてもね。知識が増えれば、できることも増えるんだ。

    リズム&ドラム・マガジン2023年7月号

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