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吉澤 響[セカイイチ]20周年の“最高傑作”に込めた想いと活動休止のその先 【Interview】

  • 取材&文:編集部 撮影:ハヤシマコ(Live)

自分はまだまだ伸び代だらけだし
伸び代だらけだと思いたいです(笑)

●今回のミニ・アルバム『Where we are』は活動休止が決まってからのレコーディングだったそうですが、曲作りはどのように進めていったのですか?
吉澤
 最近の曲作りは、ヴォーカルの岩崎(慧)がしっかりとしたデモをメンバーに送ってきて、それをスタジオで詰めて完成させるというやり方で進んでいます。今回もそのやり方で、作品の方向性としてはデモが上がってきた時点で、すでに色濃く方向づけられている感じでした。収録曲に関してもデモ自体が今回の収録曲プラス1曲くらいだったので、岩崎がデモを送る前に精査したんだろうな、と思います。結果的にミニアルバムになった、という感じですが、収録曲の5曲を聴いたときに、この5曲でしっかりと成立しているなぁと思いましたね。

●“最高の作品になったという手応え”や、“やり切った、出し切ったという感触”があったともおっしゃっていましたよね。
吉澤
 これは個人的なドラム・プレイの話というよりは、バンドとしての手応えだったり、やりきった感触だったり、という話ですね。自分のドラムはまだまだ伸び代だらけだし、伸び代だらけだと思いたいです(笑)。

今作は、歌モノ・ロック・バンドとして始まったセカイイチが、さまざまな音楽ジャンルを吸収して、音楽性の幅を広げてきた、そのキャリアを集約したような作品だなと思っています。そういう意味で、収録曲すべてにおいて、歌詞やサウンド、リズムのバランスが素晴らしいなと自負しています。

●昔からバンドとしてのグルーヴを大事にされてきた印象ですが、今回のアルバムではバラ録りや一発録り、クリックあり/なしは使い分けていったのですか?
吉澤
 今作は全曲、クリックありでベーシック(ドラム、ベース、リズム・ギター、リード・ギター)を一発録りし、その後に鍵盤と歌を録音しました。

●ドラム・サウンドも多彩だと思ったのですが、機材は何を使用したのですか?
吉澤
 今回は友達のスタジオでレコーディングしたんですが、そこにあったラディックのキットが素晴らしくて、全曲通してそのキットを使用して、スネアとシンバルは曲ごとに変えましたね。

スネアは「Go」、「I’ll Be There」はグレッチのアルミ(深さ5.5″)を、残りの3曲はプレミアのブラス(6.5″)を叩きました。このスネアはフープをグレッチのダイカストに変えています。

シンバルは基本的にイスタンブールで、全曲通してハイハット側のメイン・クラッシュはトラッシュ・ヒットの18″です。あとは曲によって、ライドとライド側のクラッシュの組み合わせを変える感じでした。ライドに関してはガムテでミュートすることも多かったです。

●サウンド・メイクの面では、分離がさらに良くなったというか、曲調によってはキットやスネアのサステインを抑えてタイトさが増したような印象を受けたのですが……。
吉澤
 おっしゃる通りで、基本的にどの楽曲もミュートを多めにしてサステインを抑えています。楽曲から想起される音色がそのようなタイトな音色であるのと、打ち込み的なドラムをできる限り突き詰めることによって、より人間的な部分が浮き彫りになるような、そんなサウンド作りやプレイを意識しました。

その曲のジャンルやカルチャーから
できるだけはみ出さないように
はみ出すときは意図してはみ出すように

●そうだったんですね。それではドラムのプレイに関しても伺っていきたいのですが、M1「Go」は、1コーラス目と2コーラス目のBメロのアプローチがちょっとずつ違ってたり、間奏ではバスドラを抜いたり、とても緻密に練られている感じを受けました。
吉澤
 その楽曲のジャンルやカルチャーがどういうものか、を意識しています。できるだけそこからはみ出さないように。はみ出すときは意図してはみ出すように。それが前提にあって、リズム・パターンやフィルインは他の楽器がどんな演奏をしているかをヒントにしています。

●では今回のレコーディングは、フレーズなどはあらかじめ作り込んで臨まれたのですか?
吉澤
 ドラム・フレーズなどはデモの段階で大まかな方向性が決まっているので、そこから細かいところを調整した感じですね。

●M2「I’ll Be There」はとにかくノリが心地良い1曲でした。
吉澤
 この楽曲は16分音符と向き合う1曲でしたね(笑)。最近のセカイイチの楽曲には多いのですが……。こういう、すべての楽器の譜割りが細かい楽曲は、セクションごとの役割を把握することが大事だと思っていて、周りが16分音符でクっているのに、ドラムはクわずに4つ打ちで土台に徹したり、要所要所でバチバチに合わせにいったりと、その時々で土台になるのか上モノに合わせるのか、という全体のバランスを意識しました。

あとはBPMが118というミドル・テンポの楽曲ですが、軽快さやスピード感を演出する必要があるので、せかせかしたり、たっぷりしたリズムに聴こえたりしないように、“あくまで素直に”を心がけて演奏しました。

●シェリル・リンの「Got to Be Real」を思わせるギター・リフも印象的ですよね。オリジナルのジェームス・ギャドソンや、いわゆる海外のレジェンド・ドラマーなどはイメージされたり……?
吉澤
 海外のレジェンドはイメージになかったですね。強いて言えば、そういう海外のレジェンド・ドラマーにも精通している現代のドラマーは、そのジャンルの音楽マナーに現代のエッセンスをどうやって取り入れてどうアップデートするのかな、みたいなことは考えました。

●冒頭の、拍感を狂わせるようなピックアップ・フィルも面白いですよね。
吉澤
 このフィル、面白いですよね。これはヴォーカル岩崎のデモのままです。僕も最初“あれ?”となったのですが、彼にとっては自然なフィルみたいですよ(笑)。譜面的には2拍目の16分音符4つ目から始まってます。

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