PLAYER
UP
Interview – 小籔千豊[ジェニーハイ]前編
- Interview:Rhythm & Drums Magazine Text:Shinichi Takeuchi Photo:Yasuro Ide
僕には赤に見えてるのに
みんなに青ですって言われてるんですよ
ほんま“リズムとは?”みたいなことまで
考え込んでしまいました
川谷絵音(g)によるプロデュースのもと、tricotの中嶋イッキュウ(vo)、お笑い芸人の小籔千豊(d)、くっきー!(b)、さらに作曲家の新垣 隆(key)という異色のメンバーが集い、多彩な楽曲をプレイしていることで話題のジェニーハイ。2ndフル・アルバムとなる『ジェニースター』のリリースに際して、芸人という本業の傍ら、ドラマーとしてバンドの楽曲を支える小籔に初取材。2回に分けてお届けする本インタビューの前半セクションでは、ドラムをはじめたきっかけから、ジェニーハイでのレコーディングについて語ってもらった。
若いドラマーにない部分って
何やろうと思ったら“ツテと金”なんですよ
●今回はジェニーハイのドラマーとしてお話をうかがいたいと思います。そもそもドラムを始めたきっかけは?
小籔 僕、“コヤブソニック”っていうフェスをやってまして。2012年の2月ぐらいに、出演してくれることになったチャットモンチーのアッコちゃんさん(福岡晃子)とえっちゃんさん(橋本絵莉子)と大阪でご飯食べてたんです。「9月のコヤソニ、お願いしますね」って話してたら、「ドラマーの(高橋)久美子ちゃんが辞めるんです。今度は2人なんですよ」って。
サポートは入れずに2人だけでやるって言ってて、“じゃあ「シャングリラ」はやるんですか?”、“あれはドラムないとできないんで、コヤソニではやらないと思います”って言うたんですよ。一瞬“お客さんは残念がるやろな”と思ったんですね。キラー・チューンやし。しかも“やらないです”じゃなくて“できないんですよ……”ってお困り顔やったんで、“9月まで半年あるんで、練習したら「シャングリラ」1曲くらいならドラムをマスターできるかも。もしできたら、一緒にやっていただくっていうのもいいですか?”、“全然いいですよ”と(笑)。それがきっかけです。
●そこからドラムの練習を始めたんですね。
小籔 で結局、仕事やなんやで、始められたのが6月の末で。“やばいな、無理かなぁ”と思ったけど、でも女の子2人に約束したんで、できへんにしても、レッスンに行くぐらいはせな、ちょっとカッコ悪いなと思ってレッスンに通い始めました。“「シャングリラ」を9月の中旬までに叩けるようにしないといけないんです”って言ったら“レベルはどれくらいにしますか?”って先生が言うんで、“ほんまもんとやりますんで、久美子ちゃんさんとまったく同じ手順でできるようにしてください”って言ったら急に先生の顔が曇って、そっから厳しいレッスンが始まりました(笑)。もう仕事以外全部レッスンか、1人でスタジオ入るか。で、何とかライヴを迎えて。
●ドラムを叩いてみた感想は? 楽しいと思いましたか?
小籔 いいえ(苦笑)。でも趣味というか、レッスンじゃないところで曲をかけながら1人で叩いてるときは、ズレてても怒られへんし、ただただ好きな曲で叩いてるだけなんで、それは楽しかったです。で、ライヴが終わったら僕はもうそれでやめようと思ったんですけど、でもみんな“続けろ”って言うんですよ。“いや、僕は別にドラムやりたいわけじゃないし、地獄の日々だったし、センスもないです”言うたら、キョンキョン(小泉今日子)が“私のバンマス、ドラムめちゃめちゃうまいから教えてくれるように言おうか?”って。
そしたら次の1月にチャットさんのZepp Nambaでライヴがあって、“アンコールに出てもらえますか”と言ってくれて。“ありがとうございます。ちなみに僕、「Last Love Letter」も今マスターしてます”、“じゃあ2曲でお願いします”と言うので出させてもらって。ドラム始めて半年経たないうちに本物とZepp Nambaに立たせてもらってるんですよ(笑)。
●すごい経験ですね。趣味という話もありましたが、それがジェニーハイのドラマーとしてデビューすることになったわけじゃないですか。そこで心境の変化はありました?
小籔 吉本新喜劇ィズっていうバンドもやってて。わりと真剣やったんですけど、でも僕ができるような曲だったんですよね。ジェニーハイを始めたら、要求されるレベルとむずさと巻き込んでる人の数が違うんで……ドラムを始めたのって2012年からですけど、本格的にという意味では、ジェニーハイを始めてからのような気がしますね。
●川谷絵音さんが“小籔さんの練習量がすごい”っておっしゃっていたのを何かで見たのですが、実際かなり練習されているんですか?
小籔 僕だけバリバリ素人だから、追いつくのに必死でやってるってだけなんですよ。正直、練習したいわけじゃないんです。でもちょっとでも(メンバーのレベルに)近づけんと、お客さんも、メンバーもがっかりするやろうな思って、そのプレッシャーでやってるだけです。大河ドラマで4ページ1人喋りのセリフあったとしたら、だいぶ前から練習するじゃないですか。それと一緒なんですよ。
ただ、僕はもう、歳いってから始めたんで、長く練習すればやっぱり肩と腰にすぐ来るんです。若者とか見てると“どんだけ叩いても疲れへんねやろな”って思うんですけど、逆に若いドラマーにない部分って何やろうと思ったら、“ツテと金”なんですよ。
●わかりやすい(笑)。
小籔 それでレッスンにめっちゃ通って、あとはツテですごいドラマーとかに教えてもらうことで、何とかその若者ドラマーと対抗してます(笑)。ジェニーハイの曲のドラムを考えているのが、(佐藤)栄太郎[indigo la End]さんなんですよ。レコーディングに栄太郎先生が来て、“ここをもっとこうして、もう1回行きましょうか”っていう役をやってくれてるんですよ。
●ディレクションをしてくれているわけですね。
小籔 そうですね。
●レコーディングはいかがでしたか?
小籔 レコーディングでうまくなって、本番でうまくなるって感じがすごいあります。細かく縦のグリッドを見られて、“ここズレてますよ”と言われたり、あとは何回も録り直させられたなって思ったところは、レッスンの先生のところに行って、もう1回そこを修正していくんです。なので、レコーディングで、良いところとアカンところがすごいわかるかなぁという感じはありますね。でもレコーディングは、すごいスパルタ。ズレが0になるまで何時間も叩かされる(笑)。
●縦のズレも厳しく見られてるんですね。
小籔 はい。ニュアンスがデモだけやったらわからなかったり、大阪の先生が譜面書いてくれるんですけど、耳コピだから間違ってることもあって、そうすると当日“違う”って言われるんで、最近はある程度マスターしたら栄太郎先生に確認するんです。それで“ここはハイハット閉じてください”とか“ここはもっと強めに”って、微調整をしてもらいます。
そういえば、今回のアルバム『ジェニースター』の「卓球モンキー」で途中激しくなる部分があるんですけど、栄太郎先生に初めて“小籔さんがここは考えてください”と言われたんですよ。最初は簡単なフレーズにしようかなと思ったんですけど、多分怒られるだろうなと思ってちょいムズにしたんです……やめとけばよかった(苦笑)。
●レコーディングではクリックを使うわけですが、ジェニーハイはシンコペーションなど動きのある曲が多いので、クリックを聴きながら演奏するのはかなり難しいですよね。
小籔 シンコペーションと、足のウラですかね。「卓球モンキー」、「バイトリーダー典子」なんかは、ウラに足もバンバン入ってくるんですけど、それが“ハネてる”って言われて。“2発目がちょっと遅い”とか。僕の中ではジャストだと思ってるのに。これがめっちゃ辛いというか。僕には赤に見えてるのに、みんなに青ですって言われてるんですよ。ほんま“リズムとは?”みたいなことまで考え込んでしまいました。
でも最近レッスンでは、ようやく平均というか標準に収まっているというふうに言われるようになりましたね。右手抜いて左手と足だけでやってみたり、クリック聴いて足だけでやってみたりとか、いろいろ練習して。そればっかりやってたら克服できたんで、とどのつまりは練習不足だったという(笑)。
●なるほど。そして今回は前作以上にニュアンスを大事にされている印象を受けたのですが、いかがでしょうか?
小籔 いやいや栄太郎先生に言われるがまま。でも確かに“この曲は激しくいってください”、“この曲は、ただただ真摯に真面目に叩いてください”とか、ニュアンスのことはけっこう言われますね。「Baby Lady」の最初の“タッタッタッタ”とかは“右手だけでやってください”とか。
●でも片手でやってるニュアンスがちゃんと出ていますよ。
小籔 そういうのを「やってください」と言われるがままやっているってだけなんで。
⬇︎続きはインタビュー後編にて!
●Live Information
ジェニーハイ アリーナ単独公演「アリーナジェニー」
日時:2021.9.25(土)開場15:30/開演 17:00
会場:ぴあアリーナMM
チケット:全席指定 ¥7,000(税込)
チケット発売情報はこちら