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    Deep Purple’s ALL Original Album Review 〜イアン・ペイス生誕記念〜

    • Text:Satoshi Kishida
    • Photo:Ben-Wolf

    『パーフェクト・ストレンジャーズ』(1984年発表)

    何度かの噂が現実のものに。84年5月、パープル再結成(第5期)が決定した、それも第2期黄金のラインナップ……ブラックモア、ギラン、ロード、グローヴァー、ペイスで。だが仕上がったサウンドは、全盛期のスピード感ある演奏というよりも、大人のミュージシャン達による大味なハード・ロックという印象。ペイスのドラミングも、ゆったり落ち着いたノリになっている。

    『ハウス・オブ・ブルー・ライト』 (1987年発表)

    前作とその世界ツアーがセールス的に成功だったにもかかわらず、ブラックモアとギランの不仲が再燃。本作のレコーディング中には意見の衝突がさらに激しくなった。そんな状態で作られた本作は、前作の方向性を引き継ぎつつも、より聴きやすいハード・ロックを志向しているが、アルバム全体として散漫な印象をぬぐえない。リズム面でもペイスらしさが見られないようだ。

    『スレイヴス・アンド・マスターズ』(1990年発表)

    新作のためのセッションにギランは呼ばれず、ブラックモアは新ヴォーカリストにレインボーで一緒だったジョー・リン・ターナー(vo)を登用する。ロードはこれに完全に賛成ではなかったが、ここに第6期パープルが形成された。レコーディングはブラックモアを中心に彼の世界観が表れた内容になったが、他のメンバーとの温度差が目立ち、特にリズム面は単調な印象。

    『紫の聖戦』(1993年発表)

    ターナー参加を快く思っていなかったブラックモア以外のメンバーが再びギラン復帰を主張し、バンド外からの“結成25周年”というかけ声もあって、ギラン再復帰となり、三度第2期メンバーが揃った作品(第7期)。バンドに気迫とパワー感が蘇り、楽曲もヘヴィ・メタルを意識した音作りでバラエティがある。ペイスのドラム・サウンドが硬質に変わったのもその要因だ。

    『紫の証』(1996年発表)

    ブラックモアの後釜にジョー・サトリアーニ(g)を起用して93年に来日した彼らだが(第8期)、サトリアーニはソロ活動を優先させるためすぐに脱退。替わりにメンバーとなったのがスティーヴ・モーズだった(第9期)。ジャム・セッションの中から作り出した楽曲は生き生きとし、モーズが新風を呼び込みバンドが生き返った。ペイスにもやる気と創造性が感じられる。

    『アバンダン』(1998年発表)

    第9期の2作目に当たる本作も、2年という時間をかけて、ジャム・セッションを繰り返す中から生まれた自然な作風を持っている。だがそれゆえか、ハードなリフやメロディにこれぞというパープル節が少ないのも確か。しかしモーズの現代的なギター・プレイに触発され、新しいパープル像を模索し続ける姿勢は健在だ。曲ごとにさまざまなリズム・パターンが聴けるのも楽しい。

    『バナナズ』(2003年発表)

    30周年記念ライヴを終え、ロードはパープルを終結させる時期を自覚した。だがギランはそれに納得できず、02年、ロードの正式脱退を受けて、新キーボーディストにドン・エイリー迎えた第10期パープルがスタート。ついにロードもいないパープルとなったわけだが、作風は力みのないリラックスした大人のハード・ロックで、バラードの佳曲には安らぎすら滲ませる。

    『ラプチャー・オブ・ザ・ディープ』(2005年発表)

    前作の成功を受けて、同メンバー、同プロデューサー(マイケル・ブラッフォード)により作られた18 作目。リラックスした雰囲気を持ちつつ、前作よりも鋭角的にリフを生かしたハード・ロックを追究している。ブラックモア時代を思い出させるギター・フレーズもあって軽い錯覚を覚えるとともに、形態を変えながら脈々と流れるパープルという存在の大きさを感じる。

    『ナウ・ホワット?!』(2013年発表)

    バンド創設者のジョン・ロードが2012年に他界した後、初の制作となる作品で、ジョンへの献辞がアート・ワークに綴られている。プロデュースはピンク・フロイドなどを手がけたボブ・エズリン。デビュー45周年の節目の年のリリースともなり、ハード・ロックの雄として君臨した彼らの堂々たる風格と深い響きをもつ王道ロックを展開。ファンキーな匂いを醸し、パンチ力あるイアンのプレイが、バンドに活力を供給し続ける。

    『インフィニット』(2017年発表)

    2016年の“ロックの殿堂”入り後、最初の発表となる通算20作目は、そのタイトル(「無限」という意味)や、リリース・ツアーが“ロング・グッドバイ・ツアー”と題されたことなどから「最後のアルバムか?」との憶測が飛んだ。ドイツ他各国でチャート1位を獲得した本作は、前作同様にエズリンのプロデュースだが、音はよりヘヴィでダーク。イアン&ロジャーのリズム体は往年以上のソリッドさで、休止とはまったく無縁の力強さ。

    『ウーッシュ!』(2020年発表)

    前々作からのプロデューサー、エズリンのアイディアで、デビュー作の1曲目「And the Address」をセルフ・カヴァーしたことにも表れているように、バンドの原点のアート・ロック期に立ち返ったような若々しさと、現在の彼らが獲得した深い情感を持つ大人のハード・ロックが巧みに組み合わされ、バラエティ豊か。模索の時代だった第1期パープルの答えがここにあるのかも。大団円と言わず、さらなる新たな展開をぜひ期待したい。

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