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    クリス・コールマン〜ドリカムをグルーヴさせる超人ドラマー!〜 【Archive Interview】

    • Interview & Text:Rhythm & Drums Magazine
    • Interpretation & Translation:Taka Matsumoto
    • Photo:Taichi Nishimaki

    チョップスを音楽的にするためには
    2つ目の楽器をやることだね

    DREAMS COME TRUEが4年に一度開催している『史上最強の移動遊園地 DREAMS COME TRUE WONDERLAND』のドラマーに抜擢された超人=クリス・コールマン。来日を記念して、2017年5月号の“ゴスペル・ドラマー特集”にて実現したインタビューの一部を転載!

    教会で演奏するときに重要なのは“チーム”なんだ

    ●今回はゴスペル・ドラムの特集になるのですが、まず教会でゴスペル・ミュージックをプレイするということについて、あらためて教えていただけますか?
    クリス 教会でゴスペル・ミュージックをプレイするということは“経験”なんだ。自分がその一部になって参加していなければならない。ただそこでプレイしているだけではだめなんだ。自分という人間のすべて―感情、考え、身体、心、魂―そのすべてが関わってくる。

    ●先日カーク・フランクリンのステージを観たのですが、幅広い音楽性やダイナミクス表現、そして大編成のアンサンブルをまとめるための、強力なバック・ビートが求められることがよくわかりました! ゴスペル音楽に求められるドラマーとしての要素は幅広いですよね?
    クリス そうだね。多くの要素が必要とされるよ。ゴスペル・ミュージックというのは本当にいろんなものが合わさって成り立っていて、すべての音楽のスタイルが融合したものなんだ。さまざまなスタイルや要素、考え方、スキルを身につければ身につけるほどよりゴスペル・ミュージックを通じてより良い経験ができるようになるんだ。

    ●教会では大きな音で叩くのと同時に小さい音で叩くことも求められるのでは?
    クリス うん、ソフトに叩く必要も確かにあったよ。でもそれはジャズをプレイすることから来ている部分が大きいね。1曲の中で2拍でトリプル・ピアノ(ピアニッシッシモ)からトリプル・フォルテ(フォルティッシッシモ)に行く曲が俺は好きなんだ。テンポは125なんだけど。そんな曲がたくさんあるんだ。

    ダイナミックスの幅があればあるほど、ダイナミクスのコントロールができればできるほど曲は面白くなる。外に出て女性と会話をしようとその人に対してずっと大声で話しかけたとしたら……どこまでいけるかやってみたらいい(笑)。“コンニチハ!! ゲンキデスカ!!”って。そしたら“どこかおかしいんじゃないの?”って言われるよ(笑)。それじゃダメだよね。音楽も一緒なんだ。速くできることは全部ゆっくりできなければならない。強くできることは弱くもできなければならない。そしてその中間もそうだ。

    最終的な目標はすべてをマスターすることで、何か1つのことが他のことよりも重要ということはない。素晴らしいのはすべてできるようにすることなんだ。そうすることでよりオールマイティなドラマーになれる。そうなれば必要とされたものを必要とされたときに出すことができる。“必要なのに持っていないより持っているのに必要ない方がいい” というのが俺が拠りどころにしている昔からの“ことわざ”だよ。

    ●ゴスペル・ミュージックは神様に捧げる意味もあると思いますが、その意味で全員をまとめ、導くグルーヴ・メイカーとしての役割もあるのでは?
    クリス ドラマーにはすごく重要な役割があるね。全体を100と見たらドラマーはそのうちの60%の重要度を担っていると思う。特にゴスペル・ミュージックではビートによってダイナミックスが上がったり下がったりする。例えば軍隊のマーチのようなリズムを、争い的な雰囲気を出さず、すごくソフトに叩いて、誰か人々に対してスピーチをしているのを引き立てるような演奏をすることだってできる。それに対して他のミュージシャンが反応する。

    (例えば)キーボード・プレイヤーがそれに寄り添ってプレイするんだ。それが雰囲気を生み、空気を生むんだ。もしそこで俺が同じリズムを同じテンポのままでも、もっと激しく叩き始めたとしたら急に魂の叫び、雄たけびのようなものに変わるだろう。ドラムは軍隊の隊列を整え一斉に歩かせるために使われていたんだ。全体を統率するためにね。勢いが変わると突然空気が変わるんだ。だからドラムにはすごく大きな役割があるよ。

    ●あなたの最大の魅力である心地良いグルーヴこそ、教会を通じて身につけたものと言えるのでは?
    クリス そうだね。教会で演奏するときに重要なのは“チーム”なんだ。ソロが重要なんじゃない。ゴスペル・チョップスが重要でもない。いい面と悪い面があって、一方ではゴスペル・ドラマーやゴスペル・ドラミング、ゴスペル・ミュージックの要素が世界中に知られるようになったことはすごくうれしいし、わくわくしている。とても感謝しているし、光栄だとも思っている。

    でももう一方ではすごく残念にも感じている。YouTubeとか世間で取り上げられたりすることで、みんなゴスペル・ドラマーは教会でチョップスだけやってると思っている。でもそれは事実ではないんだ。というのは俺はドラム・ソロをやったり、ドラムのイベントでやったりしていることの1%ぐらいしか(普段は)やっていない。みんなそういうのを見て“あなたはゴスペル・ドラマーで、ゴスペル・ドラマーはみんなそういう演奏をしますね”って言うけど、それはドラムのイベントで叩くからそうなのであって、ドラムのイベントでは自分がやりたいことは何をしたって大丈夫だ。でも教会でプレイするときは俺がすべてじゃないんだ。俺は単にドラムを叩くだけ。チャカ・カーンやスティーヴィー・ワンダーのステージをやるときとまったく同じだよ。チョップスを叩きまくることなんてできない。曲を叩かなければならないんだ。グルーヴ(リズム)をプレイしなければならないんだ。それが俺の仕事だからね。

    ゴスペル・ミュージックの多くのドラマーにとってもそれが仕事なんだ。彼らもグルーヴをプレイしないといけない。チーム・プレイヤーの考え方が必要なんだ。ずっとチョップスばかり叩いてはいられない。そんなの重要じゃないんだ。ゴスペル・チョップスとゴスペル・ミュージックは異なる2つのものなんだ。

    ゴスペルがみんなに知ってもらえるようになって、そこそこポピュラーになってくれて俺はうれしいし、わくわくしているし、感謝もしているけど、みんなその根本的な部分やその全体を見落としていることは残念なんだ。チョップスは100%の内0.5%ぐらいでしかないよ(笑)。だからグルーヴが大事なんだ。それが俺が言いたいことだよ。グルーヴがすべての基礎になっているんだ。

    ●あなたの場合は、リズム・パターンだけでなく、いわゆるチョップスもグルーヴしているところが魅力だと思うのですが、そのために何か心がけていることはありますか?
    クリス それは俺が努力してきた部分だよ。音楽的なプレイをするように努力してきたんだ。例えばアメリカにはウェブスター辞書というものがある。ウェブスター辞書には英語という言語のすべての定義が載っている。俺がそのウェブスター辞書を開いてAからZまで単語を読み始めたとしても、誰も興味を持たないだろうし誰も聞いてくれないだろう。“ただの単語じゃないか、いったい何してるんだ?”って。俺が頭がおかしくなったって思うだろうね。“何で単語を読んでいるんだ?”ってね。それは音楽的な考えを持たずにステージに上がってソロをプレイするのと同じことなんだ。

    テーマはあるのか? メロディはあるのか? それは物語を伝えるのと同じで、始まりがあって中盤があって終わりがある。チョップスやソロで物語を伝えることができれば、みんな興味を持ってついて来てくれるようになる。そうすればみんなに対して意味をなさないつながりのない単語をただ叫んでいるのではなく、みんなを旅に連れていくことができるからね。俺はそこに対してはすごく努力をしてきたよ。

    ●チョップスをグルーヴさせる秘訣は?
    クリス チョップスを音楽的にするためには、俺の個人的な意見としては2つ目の楽器をやることだね。俺はベースもやるしピアノもやるしサックスもやるしトランペットもやる。ピアノを弾くときはコードもあるしメロディも弾かなければいけないし、その2つを使ってどう色づけするかも学ばなければならない。その3つの異なる領域があるんだ。安定したコードを弾いて、もう1つはメロディを弾く。コードとベースを左手で弾かなくてはならない。ということはメロディと土台になるものを弾かなければならないということで、さらにそれに色づけをしなくてはならない。コードを置き換えたりしてね。それが3つの異なる領域なんだ。

    それに加えて曲の構成も考えなければならない。イントロ、Aメロ、サビ、ブリッジ、間奏、バンプ・セクション、リプライズ、そういうもののすべてが曲を形作っているんだ。そしてすべての曲がトリプル・フォルテではない……全部ボリューム10ではないんだ。場合によっては-1から始めなくてはいけないこともあるし、そこからどうやって10に持っていくかも考えなくてはいけないこともある。その逆に10からスタートしてどうやって1に落としていくかを考えなくてはならないこともある。

    こういったことは全部他の楽器をやるようになって音楽的に聴くことができるようになれば見えてくるんだ。そうするとドラムに戻ったときにただ“叩く”だけのドラムというような見方はしなくなる。ドラムやシンバルのトーンとかメロディが聴こえてくるようになって、それが混ぜ合わさってドラム単体でフル・バンドのように聴かせることができるようになるんだ。

    史上最強の移動遊園地 DREAMS COME TRUE WONDERLAND
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