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    【Archive Interview】ベニー・グレブ

    • Interview & Text:Rhythm & Drums Magazine
    • Interpretation & Translation:Akira Sakamoto
    • Photo:Taichi Nishimaki

    何をプレイするかだけじゃなく
    節回しやサウンドなどをどうするか
    そういうことも重要なんだ

    6月13日はドイツが誇る超人ドラマー、ベニー・グレブの誕生日。おめでとうございます! サウンド&グルーヴを自由自在に操り、日本にもたくさんのフォロワーを持つベニー。彼の生誕を記念して、マイネル主催のドラム・クリニックで初来日を果たした、2016年のインタビューを掲載! 知られざるルーツを語った濃密な内容です!! 

    ●初来日ということで、あらためてドラムに興味を持ったきっかけから教えてください。
    ベニー
     正直なところ、どうしてドラムに興味を持ったのかは覚えていないんだ(笑)。でも、僕にとってドラムはいつも、最高にカッコいい楽器だったのは間違いない。バンドを観てもドラムに目が行ったしね。他の楽器も好きだったけれど、ドラムは僕の心の中で特別な位置を占めていた。ドラムよりも先に、トランペットやピアノといった他の楽器を習っていたけど、一番好きな楽器はいつもドラムだったんだ。

    そんなわけで、いつドラムに興味を持ったのかは覚えていないけれど、父親や兄が聴いていた、イギリスのバンドや、1970年代のファンクやディスコ、ジャズなんかには影響を受けたね。でも、そういう音楽は家で聴いているぶんにはいいけれど、学校では違和感を持たれる原因にもなっていた。音楽に対する当時の僕の趣味は、年齢のわりにはオールド・スクールな感じだったからね(笑)。でも良い音楽であることに変わりはないし、もちろん今でも大好きだよ。それから何回かドラムのレッスンを受けて、バンドで演奏するようになったんだ。

    ●ドラムを始めた頃に影響を受けたドラマーはどういった人達ですか?
    ベニー
     最初の頃に名前も知らずに影響を受けていたのはマヌ・カチェやヴィニー・カリウタ、スチュワート・コープランド、それにスティーヴ・ガッドかな。スティーヴ・ガッドは僕が聴いた、たくさんのレコードに参加していたことは後から知ったけれど、やがては彼の人となりや音楽性にあらためて惹かれるようになった。さらにその後、音楽を勉強するようになってからは、彼やデイヴ・ウェックル、カリウタ、デニス・チェンバース、サイモン・フィリップスといった、80年代に注目されたドラマーの演奏を譜面に起こしてみたりもしたよ。

    僕はみんなから遅れて80年代の音楽を研究するようになったけれど、いろんな要素が盛り込まれていたから、聴いていてものすごくワクワクしたね。あと、僕はポリスの大ファンでしばらくの間はコープランドみたいなスタイルを目指していたほどだったけれど、本格的に音楽を勉強するようになってからは、彼の影響から脱するための努力もした。それが17歳の頃だね。誰かにそっくりなプレイがうまいというのは、初めのうちは自慢になるかもしれないけれど、ある段階からは自分は誰なのかということが重要になってくる。

    今でもよく覚えているけれど、初めてNAMMでデモ演奏をしたとき、できることをすべてやり尽くしたあと、昔コピーしたものをやり始めたんだ。スティーヴ・ガッドのリックなんかをね。で、得意になってしばらくやって、ふと顔を上げたら、そこに本人が立っていた(笑)。そこで僕は悟ったよ。スティーヴ・ガッドのリックは、本人が観ていないところでしか通用しないってね(笑)。それをきっかけに、僕は真剣に独自のものを追求するようになったんだ。自分のプレイで気に入らない部分を強化することで、自分なりのスタイルを築いてきたと思うけれど、完成の域に達するには長い道のりが残っているから、今も努力を続けているんだ。

    ●本格的に音楽の勉強をするようになったのには何かきっかけがあったんですか?
    ベニー 
    学生としてあまり順調だったとは言えない生活から抜け出して(笑)、すべての時間を音楽に費やすことができるようになったのがその17歳の頃なんだ。とはいえ、それ以前と比べて、特に何かが変わったわけじゃない。午後の自由時間の使い方を変えてもいなかったしね。でも、それまで学生としては怠け者だと言われていた僕が、学校を辞めた途端に「ベニーは特別だ、ものすごい時間を練習に費やしている」なんて言われるようになった。僕としては、それまでやっていたことを続けていただけなのに、環境が変わると、それまで価値を認められていなかったことが、突如として認められるようになったんだ。

    それは僕の人生にとっても大きな経験で、良い意味でのアイデンティティの喪失だった。僕はもう、怠け者のクソ野郎じゃないんだってね(笑)。それはまた、自分はミュージシャンになるんだという確信が持てた瞬間でもあった。その頃に気づいた面白いことが、もう1つある。その頃すでに、僕はデイヴ・ウェックルなんかのリックを完璧に叩けるようになっていて、それを自慢にしていた。ところが、どんなにうまくそれを叩いても、サウンドとしては全然カッコ良くない(笑)。つまり、何をプレイするかだけじゃなく、節回しやサウンドなどをどうするかということも重要なんだ。

    ●自分のプレイで気に入らない部分を強化するために、どんな練習が効果的でしたか?
    ベニー 良い質問だね。というのも、実は今まさに、効果的な練習法についての教則本を書いているところなんだ(笑)。その練習法はもちろん、ものすごく具体的で、僕はこれについて10年くらい考え続けている。それは、時間の使い方から、プロのスポーツ選手がやっていることまで、さまざまなことを参考にしているけれど、ミュージシャンに対してはあまり応用されてこなかった。ミュージシャンに応用してもうまく行かないからじゃなく、その筋の専門家にとっては、お金のあるプロのスポーツ選手と違って、僕らを相手にしてもあまり儲からないからなんだ(笑)。でも、それは彼らのやり方を僕らのために応用できないという意味ではない。

    そんなわけで、僕は次の3つの点を明らかにすると、効果的でやる気も起きると考えた。まず1つ目は目的をはっきりさせること。なぜ練習するのかが明らかかどうかは、練習するためのモチベーションにも影響する。2つ目は、今自分がどの段階にいるのかをはっきりと認識すること。そして3つ目は、次に自分がどの段階に向かおうとしているのかをはっきりさせること。これらの要素がわかっていない人が案外多いんだ。インターネットや世に出回っている教則本や教則素材では、ありとあらゆる練習法が紹介されている。それらは地図のようなもので、最終的にどこへ行くのが目的なのか、今自分がどこにいるのか、そこから次の段階としてどこへ行くべきなのかという、3つの要素がはっきりしていなければ、どんなに素晴らしい地図も役に立たないんだ。

    ●続いて愛用している機材についても教えていただけますか?
    ベニー OK! 僕は、ドラムはソナー、シンバルはマイネル、スティックはヴィック・ファース、ヘッドはレモが大好きだね(笑)。それはともかく、自分が求めるサウンドの質やその出し方を見極めるために、機材の改造を含めて、長い時間をかけて実験した時期もあった。その結果から出てきた僕のアイディアに、マイネルの優秀なエンジニアがいろいろな要素を加味して完成させてくれたのが、サンド・シリーズという僕のシグネチャー・モデルなんだ。ドラムにしても、特にスネアについては、自分でシェルを切断して深さを変えたり、ラグの位置を変えたりしながら実験して、その成果はソナーのシグネチャー・スネアに生かされているんだ

    ●シンバルを選ぶ上での基準みたいなものはありますか?
    ベニー もちろん。そしてそれはシンバルの種類によって違うんだ。ライドなら大切な要素が3つあって、1つ目はサウンドの根幹になる“シュワーッ”っていう音のサステイン、2つ目は木のスティックが金属のシンバルに当たったときの“ティン!”っていう音で、両者の音量バランスが重要だ。ライドは“ティン、ティン、ティン……”と叩いているうちに、“シュワーッ”っという部分の音量が上がっていくけれど、僕はある程度のところに来たら一定の音量になるのが好みなんだ。音のメリハリが保てるからね。

    そして3つ目は、ベルの部分を叩いたときに太い音で鳴ってくれるかどうかで、薄いシンバルは“シュワーッ”と“ティン”というサウンドは良いけれど、ベルの音が太くない。僕のサンド・ライドは、薄いシンバルと厚いベルを組み合わせた構造なんだ。このシンバルは、トラディショナルなジャズのステージで使われていたのを観たことがあるし、ダーケインのピーター・ウィルドアやアニマルズ・アズ・リーダーズのマット・ガーツカ、あとはトーマス・ラングもそう。いろいろなドラマーが使っているよ。

    あと、クラッシュなら“シュワー”という音の立ち上がりも減衰も速いのが好みで、僕のクラッシュは、アビー・ロード・スタジオでレコーディングしたときにも、まさに今説明した通りのサウンドが出たと言ってエンジニアが感動していたし、他のユーザーからも良い感想をもらっているよ。

    ●最後に、ドラマーとしての今のあなたにとって、最大の挑戦課題は何ですか?
    ベニー 僕はいつも、1年か3年単位で計画目標を設定しているんだけれど、今後1年間の目標は、自分の人生で大切に思っていることのバランスを取ることなんだ。自分がやりたいことを最高のレベルで実現させられればとても幸せだし、それと同時に、自分の愛する人達と一緒にいる時間がきちんと持てるような状況が維持できていれば、僕はとてもクリエイティヴな状態で演奏に集中できるからね。いくら練習を積んでいても、他に何かうまく行っていない問題を抱えていると、演奏には集中できない。だから、精神的なバランスを取ることが重要なんだ。

    ※本記事は2016年12月号の内容を転載したものになります。