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    Archive Contents ドラムの歴史を変えた天才=バディ・リッチ

    ジョジョ・メイヤーが考察するバディ・リッチの“技術

    驚異のテクニックで世界中を魅了したバディ・リッチ。特にパワーとスピードを高次元で両立したスティック・ワークは超人的で、現在においても彼の右に並ぶものはいないだろう。ここでは現役最高峰のテクニシャン、ジョジョ・メイヤーにバディ・リッチのテクニックについて話を聞いたインタビューを転載する。

    技術的な能力をバディのように
    劇的な表現や正統的な音楽の語法に
    昇華できた人はほとんどいない

    ●最初にバディ・リッチのことを知ったのはいつ頃ですか?
    ジョジョ
     まだ子供の頃、5歳か6歳くらいだったと思う。親父が家でジャズのレコードをたくさんかけていたから、バディのことを知る前から彼の音楽は聴いていたんだ。初めて彼を観たのはテレビだったけど、とにかくビックリしたことを覚えているよ。

    ●バディ・リッチのドラミングの特徴はどこにあると感じますか? 
    ジョジョ
     決定的な違いは、彼の独特な経歴にあると思う。彼はヴォードヴィリアンの子役として、最初から脚光を浴びていた。そのことが、彼の生涯に渡る成長や意思決定に影響を与えたんじゃないかな。彼は4〜5歳にしてすでにスーパー・スターで、そのドラミングは常にスペクタクルを演出することを目的にするものだった。彼は大衆を喜ばせ、劇的な展開を創造し、芸人魂を発揮する名人だったんだ。

    ●バディ・リッチは超人的なテクニックの持ち主で、特にスネア・ドラムの超高速連打が有名ですが、あのスティック・テクニックについてどのように見ていますか?
    ジョジョ
     基本的な原理は特定のテクニックだけじゃなく、テクニックに関する考え方全般に当てはまる。幼い頃からドラムを演奏していたバディの身体は、ドラムを叩くのに最高の状態に形作られていったんだと思う。とはいえ、バディも空気を吸って生きていたという点では、他のみんなと同じだった。実際、彼のテクニックは完璧に物理法則に適うもので、それだから彼はああいう演奏ができた。同じことはマイケル・ジョーダンやブルース・リーのようなトップ・アスリートやパフォーマーについても言えると思う。あと、彼のテクニックでは“細かい”部分が高度に発達していた。彼のテクニックの多くは文字通り彼の指先から生まれたものだった。その方法論やテクニックについては、僕のDVD『Secret Weapons for the Modern Drummer Part 1』で詳しく解説しているよ。

    ●バディ・リッチは晩年までパワーとスピードを兼ね備えていましたが、その理由はどこにあったと思いますか?
    ジョジョ
     それが可能だったことには数多くの理由がある。テクニックの点では、すでに説明した通り、バディは物理法則に完全に従っていたということ。彼はスティックを思い通りに扱う方法を心得ていた。彼は物理的な抵抗を最小限にまで抑えていて、その動きは最小限の筋力で演奏するために微調整されていた。しかも、バディはたくさん演奏していた。絶えず演奏やツアーをしていたから、常に調子の良い状態を保つことができたんだ。心理面で言えば、不況の時代に育ったことが、彼の人間性に深い影響を与えたんじゃないかと思う。彼は熱意のある人だった。彼は最高のドラマーを目指していたし、常に自分の全てを捧げていて、ドラムと音楽に対する情熱を失うことはなかった。彼は、演奏できなきゃ死んだ方がましだと思っていたんだ。

    ●ネット・メディアが発達し、ドラムに関する情報が溢れる現代においても、バディ・リッチを超えるテクニシャンは現れていないように思います。彼はやはり特別な存在だったのでしょうか?
    ジョジョ
     テクニックを他の要素から切り離して考えるのは健全じゃないと思う。とくにバディ・リッチの名人芸に関しては、視野の狭い見方しかできなくなるからね。音楽はスポーツとは違う。バディはあれだけのテクニックを持っていたから、その点ではジョン・ボーナムもトニー・ウィリアムスも超えられなかったと思う。でも問題はそこじゃない。テクニックというのは身体の中だけにあるのではなく、心の中にもある。音楽やドラミングについてまったく何の知識もない人が見ても、バディが無類のテクニックの持ち主なのは明らかだ。しかしながら、物理的な効果という表面的な部分にだけ注目していると、動作の本質を見誤ることになる。

    今はドラミングについての情報が氾濫しているにも関わらず、残念ながら芸術や音楽における心の作用についての情報は依然として、多くのドラマーの間で共有されているとは言えない。バディは特別な存在だったけれど、その理由は、彼が目を見張るようなテクニックの持ち主だったからというだけではない。バディが特別だったのは、彼が見出したドラム・キットによる正統的な語法が、結果的に彼の技術的な能力を見せつけるための決定的な武器と場面を提供したからだ。これが単なる技術的な能力との大きな違いなのだ! 

    彼と同じぐらいのスピードでシングル・ストロークができるドラマーはたくさんいる。彼より速くできる人もいるかもしれない。しかし、その技術的な能力を、彼のように見事で劇的な表現や正統的な音楽の語法にまで昇華できた人はほとんどいない。初期のビリー・コブハムはそれをやっていたと思うけれど、この点でバディは抜きん出ていた。バディの演奏は技術面ばかりでなく、方法論としても感情表現としても大きな意義があった。多くのドラマーは、彼の演奏を技術面で超えていないばかりでなく、彼のテクニックを強調する相乗効果を生み出した要因を見逃している。今のドラマーがバディを超えられない理由はそこにある。決してテクニックが足りないわけではないんだ。

    ジョジョ・メイヤーが選ぶバディ・リッチの名演

    『Oscar Peterson Plays Count Basie』/Oscar Peterson

    「Easy Does It」

    【ジョジョ】いつもとは違う感じで、一般にはそれほど高く評価されていないようなバディの側面が表れている。とても味わい深い、必要最小限のプレイだ。

    「Channel One Suite」

    【ジョジョ】この映像は、1984年−−彼が亡くなる3年前にベルリンで撮影されたものだ。僕の考えでは、これまでに見てきた彼のソロの中でもベスト・プレイの1つと言っていい。ここでの彼はドラム界の“ヨーダ”(スター・ウォーズ)みたいだ!

    Interview & Text:Rhythm & Drums Magazine
    Translation & Interpretation:Akira Sakamoto