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  • NOTES

    UP

    メタリカ6年半ぶり新作『72シーズンズ』発売記念! ラーズ・ウルリッヒの“ヘヴィ・グルーヴ”に長谷川浩二が迫る!!

    • Photo:Takashi Yashima/P.G.BRUNELLI(Metallica)
    • Analysis:Kozy Hasegawa

    Part.3 Hand Motion(続き)

    ラーズ流スラッシュ・ビート

    スラッシュ・ビートを叩く場合、右手はどんなに速いテンポでも、ダウン&アップは使わず、フル・ストロークできっちりと8分を刻んでいます。 速い曲の場合、4分で刻んだ方が効果的で、スネアのタイミングも安定するんですが、ラーズは、絶対にしない。テンポによっては、全部8分で刻むと間に合わないだろうと思うんですけど、それを力で強引にねじ伏せる(笑)。それがラーズ独特のグルーヴにもつながっているのかもしれません。

    そしてどんなに速いテンポでもハイハットは確実にエッジをねらっているのもポイント。ただ、速いテンポでチャイナで刻んだりするときに、若干手首を使ってる場面もありました。

    ラーズの代名詞とも言える“スラッシュ・ビート”を叩くときも、ビートを刻む右手はアーム・ショットが基本。
    テンポが速い場合は、ストロークの距離を短くし、強引に叩き切ってしまうのがラーズ流。ハイハットを刻む際は、スティックのショルダーでエッジを確実にヒットさせる。
    ファスト・テンポの楽曲で、右手側にセットしたチャイナを刻むとき、まれにリストを使って叩くシーンも見られる。さすがのラーズも、体力的な限界を超えるとスタイルが変わってしまうようだ……。

    バック・ビートを叩く左手のストロークは、基本的に振り下ろすだけなんですけど、速いテンポの場合は、外側から内側に絞るように叩いているようにも見えます。打点は基本的に真ん中で、映像を見ると(打面の)ポイントはほとんど外していない。上体がフラフラしていないから、当たりどころはしっかりしているんだと思います。

    バック・ビートを叩く左手も1打入魂のアーム・ショットが基本。ただ振り下ろすのではなく、身体の外から内に巻き込むようにショットし、強靭なサウンドを奏でる。
    バック・ビート時のショットは、常にオープン・リム・ショットで、打点は真ん中をねらう。

    バック・ビートに限らず、ショットはすべてオープン・リム・ショットで、これは連打のときも同じ。ここも力で強引にねじ伏せている感じがしました(笑)。あと、スラッシュ系ではないんですが、スロー/ミディアム・テンポでビートを叩いているときに、左手をヘッドの上で休ませるような動きも映像にあったんですけど、これはラーズなりのタイミングのとり方なんだと思います。

    スロー・テンポの楽曲でビートを叩く際、スネア・ドラムの打面に左手を乗せるシーンが見られる。
    これは“間”を埋めるための、ラーズなりのタイミングの図り方だと考えられる。

    Part.4 Foot Work

    ストロークと同じく至ってシンプル
    ペダルに体重をしっかり乗せる

    サブ・ステージでプレイするラーズ。正面からの映像では、太腿が大きく上下しており、足全体で踏み込んでいるのがわかる!

    フット・ワークもストロークと一緒ですごくシンプルで、足全体で踏み込んで、体重をペダルに乗せるだけです。セッティングのところでも解説したように、椅子は床と太腿が平行になる高さなので、足全体の重さをダイレクトに伝えられる。その結果、あのでっかい音が出るんだと思います。

    速い曲でも足首を使ったりせず、ストロークの距離が短くなるだけで、基本的な動きは同じです。それでも大きな音が出せるのは、しっかり体重がペダルに乗っているからだと思います。

    ラーズ流フット・ワークは、そのストローク同様、実にシンプルで、足全体で踏み込む。スライド奏法などは、ほとんど使っていないよう。
    椅子は床と太腿とが平行になる高さのため、足の重さをフット・ペダルにダイレクトに伝えることができる。あのパワフルなキック音は、セッティングとシンプルな踏み方から生まれるのだ。
    テンポが速いときもフット・ワークは変わらず、足全体で踏み込む奏法を用いている。連打する場合は、ストロークの距離を短くし、足全体を小刻みに動かしている。
    ちなみにラーズのフット・ペダルはアイアンコブラのパワーグライド(HP-900P)で、スプリング・テンションはかなり強めだそう。

    総評

    バンドが求めるサウンドを
    表現するための
    唯一無二のドラミング

    ラーズのスタイルはとにかく1打入魂! 1曲入魂! 1打1打に魂を込め、ドラミングを楽しむということとは無縁な、メタリカの楽曲があってこそのドラミングだ。あのグリップもストロークもフット・ワークも、メタリカの楽曲を演奏するための奏法であって、決して一般的ではない。誰にも真似できないし、でもそれがすごくカッコいい。そういう意味でもラーズは、バンド・ドラマーなんだと思う。

    技術的なこともまったく気にすることなく、自分に必要なこと、バンドが求めること以外はやる必要なしといった感じ。だからこそ、常に精一杯で、全力全開フル・パワーで押し切る。それもバンド・ドラマー然としていてカッコいいのだ。

    また、楽曲に入り込む集中力もすごい。あのパワーで叩き切るには、相当の集中力が必要になるのは言うまでもないだろう。歌詞の意味も噛み締めて、楽曲に入っているんだろうと思う。だから1曲終わるごとに休憩しているし(笑)。

    精神は肉体を制すと言うように強靭な精神力、それもただならぬ精神力があってこそのあのドラミングだと思う。しかし奏法的に特殊なのかと言えば、そうではない。確かにアップ・テンポではどうしても力技でねじ伏せるしかないのだが、基本的には無駄がなく姿勢も良い。

    今まで故障は多少なりともあったのだろうが、現在も現役で、しかもさらにパワー・アップしているところを目の当たりにすると、しっかりと考えられた正しいドラミングなのだと思う。

    唯一無二のラーズのドラミングは、前記したようにバンドが求めるサウンド、バンドの叫びをドラミングで表現するための奏法なのであって、パフォーマンスやフレーズを真似たとしてもラーズのそれにはならないであろう。それはラーズ本人がメタリカなのだから。

    本記事は、『St.Anger』のエディション盤に付属された同作のスタジオ・ライヴ模様を収録したDVDの他、『S&M』、『ライヴ・アース』などの映像作品を参考に分析を行ってもらった。

    『St.Anger(Limited Edition)』
    『S&M』
    『ライヴ・アース~地球温暖化防止を訴える世界規模コンサート』 V.A.
    Photo:Taichi Nishimaki

    はせがわこうじ●1965年生まれ。高校3年生の18歳のときにTHE ALFEEのドラマー・オーディションに合格。以降、2005年までサウンドの屋台骨を支えた。卒業後は、筋肉少女帯やT.M.Revolution、abingdon boys schoolを筆頭にさまざまなアーティストのサポートとしても活躍。自身の活動も精力的で、数々のバンドやセッションで、さらに積極的に活動している。

    HP:https://www.kozyhasegawadrums.com/

    ※本記事は2008年11月号掲載の記事を転載したものになります。