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    ジーン・クルーパ – 沼澤 尚が語る伝説のスウィング・ジャズ・ドラマー –

    • Interview & Text:Rhythm & Drums Magazine

    スウィング・ジャズ全盛期にその名を轟かせ、それまでサイドマンとして扱われていたドラマーをバンドの花形へと押し上げた元祖ドラム・ヒーロー、ジーン・クルーパ。彼の存在がなければ、今のドラム・シーンはまったく別のものになっていたと言っても過言ではないだろう。1月15日は彼の生誕記念日ということで、ジーン・クルーパのフォロワーである沼澤 尚がその影響力について語った記事を公開!

    すべてのダンス・グルーヴと共通する
    大元には、常にジーン・クルーパとジョー・ジョーンズがいる

    僕が初めて聴いたジーン・クルーパの演奏は、もちろんベニー・グッドマン・オーケストラ。1983年にアメリカの(MI)PITへ行ってからの話になるんですけど、アメリカではいわゆるドラム・セットを使った演奏の大元がやはりジャズであり、どんな練習をするにしても必ずジャズが音楽教育の基本になってます。すべての教材もその上で成り立っていますし。

    僕自身ほんの少しだけジャズについて知っているつもりだったけど、実は知らないことだらけだったことがわかって。ジャズのスタンダードをはじめとして、たくさんの曲を覚えないといけないのと、とにかくそのフィーリングに慣れるために家では常にFMのジャズ・ステーションが流れるようにしてました。ジャズのクラスはチャック・フロアーズという偉大なドラマーが教えてくれていて、僕が日本から1人で来たこともあってものすごく良くしてもらったので、彼の影響がまずはものすごく大きかったと思います。

    そうこうしているうちに、“この人が誰で、次に誰それの影響を受けたこの人が出てきて”とか、時代の流れや歴史を当たり前のように少しずつ覚えてきますし、と同時にもちろん歴史を築いてきたドラマー達をどんどん遡って知るようになって、そしてベニー・グッドマンのジーン・クルーパ、カウント・ベイシーのジョー・ジョーンズに行き着いた。

    この2人がいなかったら、現代のドラム・プレイや音楽そのものはまったく別物になっていたはずだと思ったし、彼らがオリジナルとして産み出していた当時のいろいろな要素が、それ以降のすべてのダンス・ミュージックの元になっていることもはっきりしてきて……例えば1930年代のカウント・ベイシーを聴けば、この頃のホーン・セクションが、その後のタワー・オブ・パワーなどファンキーなホーン・バンドに多大な影響を与えていることが一瞬でわかったり。

    ジャズ・プレイヤーになるかならないということではなくて、とにかくアメリカではジャズが音楽教育の基本でしたから、自分が好きなジャズ・ドラマーがやはりタイム・キープを重んじてるドラマー達だっていうこともより明確になりつつ、エド・シグペンやジミー・コブ、もちろんフィリー・ジョー・ジョーンズ、そして自分の中で断トツの二大巨頭がジーン・クルーパとジョー・ジョーンズでした。

    僕がアメリカへ渡った80年代前半にR&B系のラジオ曲で頻繁に耳にしていたのは、プリンスとミネアポリスもの全般、アイズレー・ブラザーズ、マイケル・ジャクソンをはじめとするクインシー・ジョーンズや、アリフ・マーディンがプロデュースしていたアーティスト達、各種80’s HIP-HOPとブラコン物で、そこから90年代にかけてニュージャックスウィングものへという流行り廃りの流れを常に感じながら、ジーン・クルーパやジョー・ジョーンズが50年前に多くの人々を驚異的なスウィング感で踊らせていたフィーリングと、もちろん時代もビートそのものも違うんだけど、そこに完全に共通してるグルーヴを感じてました。

    彼らが産み出した“スウィング”が、もちろんダンス・ミュージックそのものであって、そしてその時代時代のダンス・ビートに基本になっているんだと。後のジェームス・ブラウンにしても、ゴスペルやソウル、R&Bやその他身体が動いてしまうすべてのダンス・グルーヴと共通する大元には、常にジーン・クルーパとジョー・ジョーンズがいる。

    どんな世界でもそうだけど、やっぱり“オリジナル”作った人達が本当にスゴい。もちろんそれを進化させて歴史を作ってきた偉大なドラマー達がたくさんいるけど、“誰が最初に始めたのか”っていうことが何よりも大切で、その人は何を思ってやり始めたんだろうとか、未だに自分の興味はそういうところにあるので。

    タイム・キープの概念を作ったジーン・クルーパとジョー・ジョーンズ。マイク1本だけで録音しているような音源もたくさんあって、それらを聴いていて、この人達は一体どうやってこんな奇跡的なタイム・キープができたんだろうって思います。ビッグ・バンドは本当に異常なまでのタイム感とテクニックが求められる音楽だと思うし、今の時代では不可能な音楽かもしれない。

    それこそカーネギー・ホールで初めてクラシック以外の音楽が演奏されたベニー・グッドマンの『ザ・フェイマス・1938・カーネギー・ホール・ジャズ・コンサート』なんて、現実として本当に起こったこととは到底思えないようなクオリティ。

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