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ジーン・クルーパ – 沼澤 尚が語る伝説のスウィング・ジャズ・ドラマー –

  • Interview & Text:Rhythm & Drums Magazine

現在進行形の最先端ダンス・ミュージックの土台になっている

ジーン・クルーパは装飾音符なしで、本当に4分音符だけで空間とバンドをとことんスウィングさせるという信じられない技術とタイム感を持っていた人で、“何でこんなふうに聴こえるんだろう?”って、まるで魔法使いのごとくトーンなどを変化させて音の長さをコントロールしていて……“スティックをこう持って、なんちゃらっていうテクニックを使って”なんていうことを知ろうとするのではなく、ただひたすら彼の演奏を聴いてこのスウィング感に触れる時間を増やそうとしました。今でももちろん、いつでもそうなんですけど、自分の耳を慣れさせる、というか。

ステディなビートやグルーヴの感覚というのは譜面を見ても、教則本を読んでもわかるわけがないし、ドラム・セットに座って1人で練習しているだけでもわからない。自分に響いてきて大好きになったいろんな音楽をとにかく聴きまくって、一定のグルーヴやリズムを身体に覚えさせられないものだろうかと思って、この2人の演奏を聴いてました。

そしてさらに何よりも重要だったのが音色などを含むサウンド……いわゆるドラム・ビートって簡単にいうとキック、スネア、シンバル類、つまり基本的な“高・中・低”という音色とレンジ(音域)があって、さらにその音量バランスなどは音楽の種類と時と場合によってもちろんそれぞれなんだけど、自分にとって特に興味深いのは、コンピューターなどで作られたビートに、ジーン・クルーパのビートと同じフィーリングが多々あったりすることで。ジーン・クルーパのビートがあったおかげで、今のクラブ・ミュージックやテクノ、ヒップホップに人々を踊らせるグルーヴがあるんだなと、フロアにいながらにして感じることがよくあります。

あとは同じようにステディなタイムがあっても“この音楽はキックを大きめに使っている”、“こちらはスネアを長めに鳴らしてる”っていうそれぞれの違いにも当然が気がつくようになって。僕が言う“聴いて耳を慣れされる”というのはそういう“感覚”の部分で、聴いたビートだけをそのまま“コピーする”、練習して“マネをする”っていうことではないです。

それはもうそれを産み出してそこで演奏しているドラマー本人が絶対的にスゴいわけで、だから“今”のドラムの流行りとかっていうことを、使う機材までも含めてそこだけを真似してしまうことが我々ドラマーにとって最も危ないことだといつも思います。“知る”ことはもちろん大切ですけど。

とにかくジーン・クルーパは何から何までをハードにスウィングさせて、ドラムで人々を踊らせるという概念を作った人で、同じグルーヴの中にどファンクを感じることもあったり、僕の中でのジーン・クルーパはやはりダンス・ミュージックを産み出した最高峰のドラマーです。

それに男前でカッコ良かったし、お洒落だったし、ものすごいスター性を持った人で、本当に最初のドラム・ヒーロー的な存在。後に対抗馬的に登場した、こちらも奇跡の大スター=バディ・リッチはどちらかというと究極の大道芸的な、ジーン・クルーパとはまた別の魅力がありましたけど。

ドラム・ビート、サウンド&グルーヴそのものをカッコいいものとして革命を起こしたジーン・クルーパは正に自分のドラム・ヒーローで、僕がドラム・セットを今のセッティングにしたのは間違いなくジーン・クルーパの影響、というか、そんなこと言いながらこのルックスはもうただの真似です(笑)。自分のバスドラのフロント・ヘッドの“TN”は、89年にハリウッドの看板屋さんにジーン・クルーパの“GK”ロゴの写真を持っていって作ってもらいましたから。

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