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Drummer’s Disc Guide – September 2020

– September 2020 –

【A】=アルバム 【M】=ミニ・アルバム 【E】=EP 【V】=DVD、Blu-ray


【A】ディープ・パープル『ウーッシュ!』

d:イアン・ペイス

どんな録音環境下でも、歳を半世紀分重ねていても
すべてが変わらず、間違いなく彼のサウンドだった

イアン・ペイスが初めてのアイドルだったと公言しているこの私、実は初期から80年代前半の作品しか聴いておらず……このレビューをきっかけに“今”のディープ・パープルを聴かせていただきました。M2の「ドロップ・ザ・ウェポン」のような、オルガン・サウンドの生きた、昔からのバンドの色を感じられる曲もあれば、M6の「ステップ・バイ・ステップ」のように、プログレ色が強めな、挑戦的な曲も収録されています。特に感動した点は、どんな録音環境下で録っていても、歳を半世紀分重ねたとしても、イアン・ペイスの説得力のある8ビート、「バーン」のAメロを彷彿とさせる、疾走感ある16分のアクセントを存分に生かしたフィルイン、タイトなバック・ビートが心地良いシャッフル、それらすべてが変わらず、間違いなく彼のサウンドであったこと。“私は彼のこんなプレイに夢中になったんだよなぁ”とあらためて感じさせてくれる、素敵な作品でした。(川口千里)

◎Disc Information
【参加ミュージシャン】イアン・ペイス(d)、ロジャー・グローヴァー(b)、スティーヴ・モーズ(g)、ドン・エイリー(key)、イアン・ギラン(vo)

発売元:ワードレコーズ 品番:GQCS-90902 本体価格:¥2,800 発売日:2020.08.07

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【A】アート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズ『ジャスト・クーリン』

d:アート・ブレイキー

このスタジオ盤は初々しく端正なアプローチ
純粋にブレイキーのスウィング感の比類なさを味わえる

ジャズ聴き始めの頃、実はアート・ブレイキーが苦手だった。派手な演奏が子供心に大袈裟に聴こえて、少し商業的なイメージを抱いた。もちろん、やがてそれはあらためられるが、それほどにインパクトの強い演奏だ。この未発表のスタジオ録音のものは、すでに世に放たれてから半世紀過ぎているライヴ名盤の雛形なのだが、前述のイメージとは異なり、実にスッキリしていて、爽快なスウィング感を覚える。件のライヴ盤は本作の4週間後に録音され、収録曲も3分の2が重複しているが、まるで味わいは別物。わずかな期間で大ヒット・アルバム『モーニン』と比肩するメッセンジャーズ・サウンドに仕立て上げるのは、まさにブレイキーの真骨頂なのだろうが、それは強烈な泥臭さでもある。その意味でこのスタジオ盤は、まだ楽曲に手垢がついていない、初々しく端正なアプローチで、むしろ、純粋にブレイキーのスウィング感の比類なさを味わえる。
ライヴ盤と比較して聴くのも一興だろう。(大坂昌彦)

◎Disc Information
【参加ミュージシャン】アート・ブレイキー(d)、ジミー・メリット(b)、ボビー・ティモンズ(p)、ハンク・モブレー(sax)、リー・モーガン(tp)

発売元:ユニバーサル 品番:UCCQ-1123 本体価格:¥2,400 発売日:2020.07.17

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【A】ニック・メイスンズ・ソーサーフル・オブ・シークレッツ『ライヴ・アット・ザ・ラウンドハウス』

d:ニック・メイスン

当年76歳のニック・メイスンがバリバリと叩いていて
あのスネアの音が聴こえてくることにうれしくなってしまう

15年に解散宣言をして、二度とバンドとしては活動しなくなってしまった、UKプログ・ロックの雄、ピンク・フロイド。そのドラマーであるニック・メイスンが、90年代のフロイドのツアー・サポート・メンバー達とバンドを結成、昨年行ったライヴの音と映像が早々とリリース。バンド名をフロイドの2作目のタイトル“A Saucerful Of Secrets(神秘)”として、伝説のオリジナル・メンバー=シド・バレットの曲を含む、70年代前半までのサイケデリック・ロック期からプログレ期への過渡期の楽曲を中心に演奏するという、何ともうれしすぎる企画。今聴くと、初期のシド・バレットの曲の不思議なメロディとサウンド・カラー、サイケなアプローチがこんなにもUKロックっぽいことにあらためて驚かされる。「神秘」、「吹けよ風、呼べよ嵐」、「原子心母」などなど、プログレ期初期の数々の曲も当時のアルバムの構成を見事に再現。何しろ当年76歳のニック・メイスンがバリバリと叩いていて、あのスネアの音が聴こえてくることにうれしくなってしまう。(芳垣安洋/Orquesta Libre、On The Mountain、他)

◎Disc Information
【参加ミュージシャン】ニック・メイスン(d)、ガイ・プラット(b)、ゲイリー・ケンプ/リー・ハリス(g)、ドム・ビーケン(key)

発売元:ソニー 品番:SICP-31363-5 本体価格:¥5,000 発売日:2020.09.18

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【A】メタリカ&サンフランシスコ交響楽団『S&M2』

d:ラーズ・ウルリッヒ

双方のおいしいところが存分に発揮されるバランス
ラーズは強烈なアタック感と音量でオーケストラに挑んでいる

昔からメタリカの音楽性にクラシックっぽさというものを感じていたので、オーケストラとの共演と聞いても良い意味で意外性も感じず、絶対にこのコラボは間違いないと思ってました。まず最初の印象として、オーケストラとバンドの音量のバランスがとても良い。特にオーケストラ側の弦楽器がきちんと聴こえるよう、ギターのバッキングの音量がソロ・パート以外の部分でだいぶ抑えてあって、メタリカ、オーケストラ双方のおいしいところが存分に発揮されるバランスになっている。とはいえ、そこはメタリカの屋台骨ラーズ。普段のライヴと変わらずの強烈なアタック感と音量でオーケストラに挑んでおります。聴きどころといえば個人的にはやはり「ワン」〜ラストの「エンター・サンドマン」までの4曲でしょうか。まさにオーケストラとの共演と聞いて、自分が想像していた通りの壮大でグッとくる演奏でした。余談ですが「ワン」のイントロに入る前の打楽器体の盛り上げ方がすごくカッコいいです!(宮上元克/ACE OF SPADES)

◎Disc Information
【参加ミュージシャン】ラーズ・ウルリッヒ(d)、ロバート・トゥルヒーヨ(b)、カーク・ハメット(g)、ジェイムズ・ヘットフィールド(vo、g)、マイケル・ティルソン・トーマス&サンフランシスコ交響楽団

発売元:ユニバーサル 品番:UICY-15877/8 本体価格:¥3,000 発売日:2020.08.28

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【V】UVERworld『KING’S PARADE 男祭り FINAL at Tokyo Dome 2019.12.20』

d:真太郎

東京ドームで45,000人動員の男祭り
エネルギーの塊が膨張していく様を目に焼きつけてほしい

2018年末に横浜アリーナにて彼らのライヴを観たとき、年末10日間で8本のライヴ(しかも1日2公演含む)の真っ只中。“俺達は止まらない”感を見せつけられたあの日から1年後の『KING’S PARADE 男祭りFINAL at TOKYO DOME 2019.12.20』。祭りの挨拶とばかりに真太郎の屈強なドラムからスタート。「WE ARE GO」でのタイコ乱れ打ちや男心くすぐる哀愁のサックスで前半から男汁出まくり感伝わります。TAKUYA∞氏の“走り続ける”が印象的な「PRAYING RUN」やエレクトロとアコースティックの融合したドラム・サウンドが気持ち良い「Making it Drive」〜「和音」の流れは視覚聴覚釘づけです。2011年、滋賀にて230人からスタートし、東京ドームで45,000人動員の男祭り。彼らのエネルギーの塊が膨張していく様がパッケージされたこの伝説を、ぜひ目に焼きつけていただきたく思います。(ARIMATSU/特撮、OBLIVION DUST )

◎Disc Information
【参加ミュージシャン】真太郎(d)、信人(b)、彰/克哉(g)、誠果(sax)、TAKUYA∞(vo)

発売元:ソニー 品番:SRXL-276(Blu-ray)/SRBL-1943(DVD) 本体価格:¥6,300(Blu-ray)/¥5,800(DVD) 発売日:2020.9.16

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【A】米津玄師『STRAY SHEEP』

d:堀 正輝/石若 駿/玉田豊夢

置きどころが正確だと、こうも歌が前に出てくる
歌とドラムの良い関係性ってテクだけじゃ成り立たない

カラフルな楽曲に応じて必要なドラマーをチョイス。それがうまく機能してました。M3「感電」には駿、M13「TEENAGE RIOT 」には豊夢さんを起用してアルバム通して聴いたときに、ドラマーじゃなくても“お、これ何か違う”感をがっつり演出。この2曲に関しては、ドラマー次第で曲って印象ガラッと変わるんだなーってのがよく出てますね。2人にしかこの色は出せない。さすが。けどね、俺が今回素敵だなって思ったのは他5曲で最多参加の堀さん。どの曲に対してもこの人はほんと歌を聴いてるなって。何気ないパターンでも置きどころが正確だと、こうも歌が前に出てくるのかと。米津玄師さんが彼を起用し続ける理由がマルっと体感できた。どんな楽器もそうだけど、特に歌とドラムの良い関係性ってテクだけじゃ成り立たない。やっぱその人を知り、愛情持ってバチ振らないとさ。ジェームス・テイラーとガッドみたいなアレ、堀さん達すでに共有してるんだろうな。(松下マサナオ/Yasei Collective、GFJB)

◎Disc Information
【参加ミュージシャン】堀 正輝/石若 駿/玉田豊夢(d)、米津玄師(vo、g)、須藤 優/日向秀和(b)、小川 翔/真壁陽平/松本 大(g)、伊澤一葉(p)、坂東祐大(p、org)、佐藤芳明(accordion)、MELRAW/上野耕平(sax)、小畠幸法(violoncello)、真砂陽地(tp)、川原聖仁(tb)、室屋光一郎ストリングス(strings)、他

発売元:ソニー 品番:SECL-2598 本体価格:¥3,000 発売日:2020.8.5

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【A】ROVO『ROVO』

d:芳垣安洋/岡部洋一

聴く者をトランス状態へと誘うハイセンスなリズム・ワークと
そこに潜む良い意味での“土着性”が絶大な威力を発揮している

結成24年を迎えるROVOの新作。芳垣、岡部両氏による鉄壁のツイン・ドラムがこのユニットの屋台骨で、定番の人力ドラムンベースをはじめ、白熱すると聴く者をトランス状態へと誘うようなハイセンスなリズム・ワークと、そこに潜む良い意味での“土着性”は、このアルバムでも絶大な威力を発揮している。楽曲はブラック・ミュージック的なものや、イタリアあたりのユーロ・ロックを彷佛とさせるものなどバリエーションも豊かで、ヴァイオリンによるメロディもよりキャッチーになった印象。バンドとして何か一歩“突き抜けた”という感覚は、アルバム・タイトルからも伝わってくる。新次元のダンス・ミュージックここに極まれりと言った感じ。(菅沼道昭/る*しろう)

◎Disc Information
【参加ミュージシャン】芳垣安洋/岡部 洋一(d、per)、原田 仁(b)、山本精一(g)、勝井祐二(vln)、益子 樹(syn)

発売元:ワンダーグラウンド・ミュージック 品番:WGMPCI-071 本体価格:¥2,700 発売日:2020.09.09

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【A】山本達久『ashiato』

d:山本達久

優れた技術に基づく美しいドラム・セット・サウンド
音に対する極めて鋭い感覚ならではの見事な表現力

チャンスがあったら何度でも目の前で観たい大好きなドラマー、山本達久……その理由は“unpredictable”=予測不可能、“spontaneous”=自発的……ないろいろがランダムに羅列されるのではなく、すべて意味があって“Art”として表現されているように感じさせてくれる、自分にとっては極々まれな素晴らしい表現者だからだ。彼のドラマーとしての優れた技術に基づいて産み出されるその美しいドラム・セット・サウンドは、決して“叩く”ではなく“奏でる”という、音に対する極めて鋭い感覚ならではの見事な表現力。ソロとして何を創ったのかと思ったら……驚きのサウンド・スケープ・アート! このストーリーを作品に仕上げた特別な才能にただただ脱帽……。(沼澤 尚/シアターブルック、ブルーズ・ザ・ブッチャー、他)

◎Disc Information
【参加ミュージシャン】山本達久(d、per、syn、p)、須藤俊明(b)、石橋英子(p、fl、etc.)

発売元:Newhere Music 品番:PEJF-91031(LP)/NWM-005 本体価格:¥3,000(LP) 発売日:2020.10.07

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【A】UNISON SQUARE GARDEN『Patrick Vegee』

d:鈴木貴雄

飽和しかねない手数を繰り出しながら
楽曲展開の舵取りを担う鈴木の多彩なドラミング

 海外のポップ・チャートではバンド・サウンド自体がめずらしいものになってしまったが、近年の日本におけるそれは、アニソンやボカロなどのカルチャーと溶け合いながら、独特なアヴァン・ポップとして発展を遂げてきた感がある。その特徴でもある詞曲の圧倒的情報量を包括しつつ、多方面での活躍も頷ける田淵の強い作家性が滲んだUSGの楽曲群に、“昔ながらのバンド形態”ならではの肉体性を与えているのが各メンバーの一癖ある演奏であり、今作においても、下手なアプローチでは飽和しかねない手数を繰り出しながら楽曲展開の舵取りを担う鈴木の多彩なドラミングを聴くことができる。ライヴでの華のあるパフォーマンスを含め、日本ドラマー界の中邑真輔(元新日本プロレス/現WWE)と密かに呼ばせてもらっております。(木暮栄一/the band apart)

◎Disc Information
【参加ミュージシャン】鈴木貴雄(d)、田淵智也(b)、斎藤宏介(vo、g)

発売元:トイズファクトリー 品番:TFCC-86724 本体価格:¥2,800 発売日:2020.09.30

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【A】Jumpei Kamiya『Jumpei Kamiya with…』

d:神谷洵平

それぞれの宅録データを重ねて生まれたとは
とても思えないほどの緻密な音像/世界観

自身のユニットである赤い靴や、セッション・ドラマーだけでなく、楽曲提供、アレンジ、プロデュースまで手がける神谷洵平の1stソロ・アルバム。コロナ禍で縁のミュージシャン達と創り上げた完全リモートによる今作は、それぞれの宅録データを重ねて生まれたとはとても思えないほどの緻密な音像/世界観で、神谷のルーツとゲスト・ヴォーカルの歌と詞、バンド・メンバーの個性、そしてリモート制作という環境が複合的かつ絶妙に混じり合って形となった、ある意味、奇跡とも言えるバランスが作品のキモだと思う。楽曲がサウンドするドラムの極致という表現は大げさかもしれないが、自宅スタジオでDIY的に録ったという音色とタッチは本当に素晴らしい。彼自身が歌うM-2は特筆もの。(横尾 彰)

◎Disc Information
【参加ミュージシャン】神谷洵平(d、vo)、隅倉弘至(b)、岡田拓郎(g)、Rayons(p)、副田整歩(sax)、Yohei Shikano/優河/Ryo Hamamoto/Predawn/THE CHARM PARK/Daniel Kwon(vo)

発売元:Make Some Records 配信限定 本体価格:¥1,681(iTunes) 発売日:2020.09.09

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