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アコースティックエンジニアリングが手がけた“ドラムが叩ける”プライベート・スタジオ Archive #10[埼玉県 太田さん宅]

  • 取材:編集部 文:西本 勲
  • 撮影:関川真佐夫

“自宅で思いきりドラムを叩きたい。しかも良い音で”……スタジオやライヴ・ハウスなどの防音/音響工事を行う専門業者、アコースティックエンジニアリングが住宅に施工したドラム用防音室にフォーカスする連載企画。今回は練習/収録/家族でのバンド演奏などに、スタジオをフル活用している埼玉県、太田さん宅を紹介していく!

自宅スタジオを作って今ようやく
ドラムと真剣に向き合えるようになった

隣の部屋で寝ている家族を起こさずに
夜中でもドラムを叩ける

2024年頭に完成した新居の1階にスタジオを作った太田さん。「家の工事中からずっと仕事が忙しくて、最近やっと落ち着いたので、ここ半年くらいは毎晩この部屋に入ってます」と笑う。シンデレラのトリビュート・バンド“シソデレラ”での活動を続ける一方、家族とも時折ここで演奏する。

「実は、スタジオを作ろうと言い出したのは妻なんです。今の家を建てる前は、2時間かけて通勤する生活を20年間続けていたので、プレゼントのようなものですね。妻がヴォーカル、息子がギター、娘がベースをやっていて、今は遠方で暮らしている子供達がときどき帰ってきたときは、スタジオでセッションやリハをするのが楽しいですね」。

▲ミラー・クローム・フィニッシュのYamaha YD-9000が堂々と鎮座する太田さんの自宅スタジオ。施工後約5畳と比較的コンパクトだが、「こんなに広く作れるとは思っていなかった」と太田さん。ハード・ロック指向でバンドでも音を出すため、壁だけでなく天井にも吸音パネルを設置したデッド寄りの音響設計となっている。ドラム背後の棚の最上段には、コージー・パウエル『オーヴァー・ザ・トップ』のアナログ盤を御神体の如くディスプレイ。目の前のドラムも、ツーバスではないため気づきにくいが、よく見るとコージーへの愛に溢れたキットである。

もともと家にスタジオを作る発想はなかったという太田さんは、家を建てるにあたってまずは住宅メーカーに防音室のことを相談。そこで一番に紹介されたのがアコースティックエンジニアリングだった。「九段下のショールームには何度も通いましたし、越谷の髙木さんというドラマーさんのスタジオも見学させてもらいました。一番気になっていたのはどのくらい防音できるのかというところだったので、とても参考になりました」。

そう話す太田さんが期待していた以上に、このスタジオの遮音性能は高い。具体的な数値は下記の図を参照していただきたいが、設計担当者によると、ドラム室としての最低保証性能の2ランク上は出ているという。

「最初は遠慮して叩いていましたが、今は夜中の12時以降でも普通にやっています。さすがに家の中には若干聴こえますけど、隣室で寝ていても気になりませんし、家の外にはまったく聴こえません」。コージー・パウエルに衝撃を受けてドラムを始めたという太田さんだけに、叩く音の大きさは推して知るべし。その音を外に漏らさないだけでなく、室内ではタイトかつクリアに聴かせるのがアコースティックエンジニアリングの手腕である。

「正直、音漏れの心配さえなければ良くて、スタジオの中で音がどう聴こえるかなんて気にしていませんでした。そこはプロにお任せ、という感じだったんですけど、音がワンワン回ってしまうこともなく、良いスタジオで叩いているときと変わらない感覚で演奏できます。さすがだなと思いました」。

壁一面に設けられた大きな鏡は、ロール・スクリーンを下ろすとプロジェクターで映像を投影できる。

設計段階でいろいろ提案してもらい
機能的なスタジオが出来上がった

音のことだけでなく、スタジオの使い勝手にも多くを望んでいなかったそうだが、その点も予想以上だったと太田さんは言う。

「防音室ってもっと狭いイメージがあったんですけど、ここは4人入っても全然演奏できるので、僕としては十分な広さです。あとはそれをいかに機能的にできるかということになりますが、その点でもアコースティックさんがいろいろ提案してくださって、素晴らしいスタジオになりました」。

その成果は、部屋の角で主に中低域を吸音するサウンド・トラップに棚やスピーカーを設置するという工夫に表れている。それを特別な工夫と感じさせず、スマートに仕上げるのもまた、アコースティックエンジニアリングならではの手腕だ。

コンパクトなスタジオではスピーカーを天井から吊ることが多いが、吊り金具パーツの世界的な供給不足でそれが叶わず、サウンド・トラップに収納することで見事に解決した。
出入り口は木製防音ドア×2枚で構成。内装に合わせた木目仕上げはスタジオの雰囲気作りにも大きく貢献している。
▲スタジオの使い勝手を高める収納棚には、ミキサーやオーディオ・インターフェースなどが並ぶ。
Yamaha YD-9000と、左右に大きく広がったセッティングのパイステ2002がコージー好きの証し。スネアは池部楽器店ドラムステーションのオーダーで限定復刻された切削リムを搭載した旧SAKAEのスティール・スネア。

そんなスタジオを、今まさに“フル活用”している太田さん。その現状と、今後の展望についても話してくれた。「もともとギターも弾いていたので、妻とやっている歌謡曲のバンドではアレンジもやったりしています。ここで楽器もヴォーカルも全部録って、ひたすらアレンジする作業はとても楽しいです。ドラムに関しては、基礎練習に時間を使うようになりました。外のスタジオではなかなかできなかったので、今になってやっと、っていう感じですけど、上達するうえでやるべきことがわかってきました(笑)。動画を撮れるカメラを最近買ったので、“叩いてみた動画”も撮りたいですね。といっても公開したいわけじゃなくて、自分の叩き方を分析するためです。今やっているバンドには元プロのギタリストがいたりして、とても良い環境なので、自分も基礎からしっかり練習してうまくならないと、って思っています」。

鉄骨造2階建て+屋上にテラスが設けられた太田さん宅。玄関の反対側(写真では奥側)にスタジオがある。

ドラムを始めたのは16歳のとき。「ハード・ロックが流行っていた時代で、80年代後半のリバーブが効いたドラムの音を再現しようとして、力いっぱい叩くクセがついてしまいました。しかもコージー・パウエルの真似もしていたので、なかなかクセが抜けませんでした(笑)」。そう言いつつ新しいものへの関心も強く、取材時には高品質の動画収録方法や、AIを使った音楽アプリなどの話題で盛り上がった。「すごい時代になりましたね。僕ももっと勉強します」。

※本記事は2025年4月号掲載の記事を転載したものになります。

アコースティック
エンジニアリングとは?

株式会社アコースティックエンジニアリングは、音楽家・音楽制作者のための防音・音響設計コンサルティングおよび防音工事を行う建築設計事務所。1978年に創業して以来、一貫して「For Your Better Music Life」という理念のもと、音楽家および音楽を愛する人達へより良い音響空間を共に創り続け、携わった物件の数は2,000件を超えている。現在も時代の要請に答えながら、コスト・パフォーマンスとデザイン性に優れ、「遮音性能」、「室内音響」、「空調設備」、「電源環境」、「居住性」というスタジオの性能を兼ね備えた、新しいスタイルのスタジオを提案し続けている。

株式会社アコースティックエンジニアリング
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住所:東京都千代田区九段北2-3-6九段北二丁目ビル
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