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TAMA Starclassic Mapleの歴史と魅力を再確認!【連載|博士 山本拓矢がデジマートで見つけた今月の逸品 ♯36】

  • Text:Takuya Yamamoto Illustration:Yu Shiozaki

第36回:TAMA Starclassic Maple

ドラム博士=山本拓矢が、定番商品や埋もれた名器/名品など、今あらためて注目すべき楽器たちを、楽器ECサイトであるデジマート(https://www.digimart.net/)で見つけ、独断と偏見を交えて紹介する連載コラム。今回は、1994年の登場以来、プロ・ドラマーにも長年に渡って愛用されるTAMAのStarclassic Mapleを紹介!

いつもお読みいただき、ありがとうございます!

突然ですが、皆さまがドラムのトレンドや流行について考えたとき、頭に思い浮かぶのは何でしょうか。シェル材やフィニッシュ、メーカー(ブランド)にハードウェア、いろいろあると思います。個人的には、サイズが筆頭で、次いでシェルの厚みがそれでした。

流行と多様化についてなど、いろいろ話が広がるテーマですが、これらの要素に触れながら、今あらためて整理して向き合うべきシリーズに注目して参ります。

今月の逸品 【TAMA Starclassic Maple】

▲TAMA Starclassic Maple Drum Kit

TAMA Starclassicは、1994年に薄胴のメイプル・シェルをフィーチャーして登場しました。2025年現在においては、より高価で尖ったスペックのSTARも販売されていますが、今なおトップ・プロにも愛用されているロング・セラーのシリーズです。

並べてみると、その価格差やネーミングからさまざまな印象を受けると思いますが、歴史がわかると整理がしやすくなります。少しだけ解説してみます。

さまざまな見方があるとは思いますが、“現代のドラムは1960年代に完成した”という視点があります。“当時の楽器を、直系の消耗品(=ヘッド)で、そのまま使用できる”と補足すれば、他の考え方をする方々からも、ある程度の同意は得られると考えます。

録音が誕生し、演奏とPAが発展していく中で、楽器も変化してきました。大まかな傾向として、1970年代から1980年代にかけては、全体的に重く、硬くなっていきます。会場や、アンサンブル全体の音量が大きくなり、ドラム側もそれに対応する必要が生じ、丈夫で大きな音が出せる楽器が求められたのでしょう。

そんな流行も、1980年代から1990年代にかけて、転機が訪れます。そのきっかけや理由はさまざまですが、1960年代以前のような、ある意味でクラシカルな楽器が再び脚光を浴びることになります。

各社、アプローチはさまざまだったので、例外も多数ありますが、具体的ないくつかの例を挙げてみましょう。SONORは、1982年に重厚長大を極めたSignatureシリーズを発売しますが、1983年にはシェルの重さを約半分にしたSONORLITEを投入しています。また、Pearlは、1988年にZenithal Resonatorを、1993年には半分以下の厚みとレインフォースメントを備えた、MR(Classic Maple)を投入しています。

TAMAも、1980年代後半には、Gibraltarと名づけられた極厚シェル(最初期は12ply、早々に14ply/18mmへと移行)のスネア・ドラムを投入していましたが、このトレンドの変化を察知したのか、9plyで約5mm(タムタム、フロア・タム)/約7mm(バス・ドラム)という、極めて薄く仕上げたシェルを開発。“Back to the Basics.”をコンセプトとしてリリースしたのが、このStarclassic Mapleでした。

長く販売されているので、細部では時代に合わせたマイナー・チェンジを重ねてきていますが、基本スペックとしては、薄く硬いメイプル・シェル高い剛性を持った亜鉛ダイキャスト・フープ豊かながら整理されたレゾナンスを実現する先進的なマウントが、このシリーズの特徴でしょう。加えて、膨大なシェル・サイズの選択肢をはじめとした高いカスタマイズ性によって、冒頭で触れた、トレンドの重要な要素、サイズ面をもカバーしており、登場してから30年以上が経過しているものの、まったく古さを感じさせないフレッシュさが維持されています。

STARには、シェルの構成やエッジ形状など、Starclassic以上の“クラシック”を感じる要素があります。2025年時点での最新シリーズであり、ある意味で“未来に向かって挑戦する楽器”という側面もあるかもしれません。

一方、Starclassicは、30年前に定義された“ベーシック”を軸として、常に更新された現在を示し続けています。Mapleを起点としていますが、現在展開されているBubingaWalnut/Birchのラインは、紛れもなく最新のサウンドであり、現代から現在はもちろん、最先端の領域に強くフォーカスされたシリーズも内包しています。

ドラム・セットの入手には、スネア・ドラムやシンバル、キック・ペダルと比較すると、より高いハードルがあります。最新/最高級には、ある種の魅力があります。その一方、長く併売される、かつての最高級にも、実績に裏づけられた、また別の魅力があるはずです。

もし少しでも興味が湧いたら、幅広いレンジの楽器をチェックしてみてください。気がつかなかった自分のベストに出会えるかもしれません。

▲TAMA Starclassic Maple Drum Kit

Profile
ヤマモトタクヤ●1987年生まれ。12歳でドラムに出会い、高校時代よりプレイヤーとして音楽活動を開始。卒業と同時に入学したヤマハ音楽院にて、さまざまなジャンルに触れ、演奏活動の中心をジャズとクラブ・ミュージックに据え、2013年、bohemianvoodooに加入。 音楽と楽器の知識・スキルを生かして、ドラム・チューナーとしてレコーディングをサポートしたり、インタビュー記事や論説などの執筆業を行うなど、音楽全般への貢献を使命として活動中。

公式X:https://x.com/takuya_yamamoto

【Back Number】

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▲山本拓矢 著
『That Great GRETSCH DRUMS』

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