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DWフット・ペダルのロングセラー=5000シリーズを比較【連載|博士 山本拓矢がデジマートで見つけた今月の逸品 ♯35】

  • Text:Takuya Yamamoto Illustration:Yu Shiozaki

第35回:DW-5000 Series Foot Pedal

ドラム博士=山本拓矢が、定番商品や埋もれた名器/名品など、今あらためて注目すべき楽器たちを、楽器ECサイトであるデジマート(https://www.digimart.net/)で見つけ、独断と偏見を交えて紹介する連載コラム。今回は、長い歴史を持つDWのフット・ペダル=5000シリーズを紹介!

いつもお読みいただき、ありがとうございます! 早速ですが、今月の逸品は【DW-5000】です。

今月の逸品 【DW-5000】

DW 5000 Series Pedals

以前、当連載において、DW-9000の記事を公開しました。製品の歴史や、セッティングのポイントなどを紹介する内容でしたが、あの文章を書きながら、いつかは紹介したいと思っていたのが、この5000シリーズです。

DW-5000には長い歴史があります。1972年にdw(Drum Workshop, Inc.)が誕生する以前から、その系譜は遅くとも1940年代にまでさかのぼります。

一貫した特徴のようなものはありますが、その演奏感にはある程度の幅があり、時期やモデル(中古品や誰かの所有物であれば、コンディション)によっても、その印象は異なることでしょう。細かなマイナー・チェンジも多く、パーツの交換も可能なため、中古品を品番のみで判断することは難しくなっています。そこで今回は、2025年時点の現行品を軸として、その特徴や相違点に触れながら、特徴を整理してみたいと思います。

大枠を理解する上で、重要なキーワードがあります。それは、アクションの傾向に大きな影響のある、ドライヴ・システムの種類を示す、 Accelerator DriveTurbo Driveです。

前者のAcceleratorは、偏心カムとも呼ばれ、シングル・ペダルの現行品番はDWCP5000AD4です。踏み始めとヒットの瞬間とで、踏み込んだ深さに応じてビーターの動く角度の変化が大きくなっています。

▲DWCP5000AD4

後者のTurboは、真円カムとも呼ばれ、同品番はDWCP5000TD4。踏み込んだ分だけビーターが動くような、ある種のシンプルな操作感があります。

▲DWCP5000TD4

この2種類の駆動方式に関しては、“軽い/重い”や“素直/クセがある”など、表現する上でよく使われる言葉はありますが、感触と事実の双方を織り込みながら文字で説明するのは難しく、実際に使いこなす上では、感触をさまざまな言葉に置き換えながら、理解を深めていくことが大切だと思います。

当然生じる「で、どちらを選べば?」という質問に対して、いくつかの判断材料を挙げてみます。

まず、市場における人気の差について。正式な統計があるわけではありませんが、北米ではAccelerator系統、日本と欧州ではTurbo系統の人気が高いと言われています。近年は、その傾向にも変化が生じているように感じますが、これには、地域ごとのメーカーの勢力や、受け継がれる演奏技術の違いが影響を与えていると考えています。

フレーズの仕上がりや、一打ごとのサウンドをゴールとした場合、用いる道具が異なると、同じ結果を出すための技術に違いが生じます。端的に言えば、先生や練習環境によって、身につく技術が異なるため、偏りが生じるということです。

次に、個人的な印象について。結果と技術の関係について触れましたが、両方を使う私自身の感想としては、Acceleratorの方が、アタックの鋭い音色が得られるように感じます。エネルギッシュでマッシヴなニュアンスが欲しいときに試して、良い結果が得られたことがありました。この視点でTurboについて掘り下げるならば、ソフトで低域が充実したトーンや、クールなニュアンスが得られるとも言えるでしょう。

また、身につけたテクニックの影響もあるとは思いますが、演奏のしやすさの観点でも違いを認識しています。繰り返しのリズム、一定のビートを演奏する場合、Turboの方が思考のリソースを節約できるように感じます。一方のAcceleratorは、任意のタイミングで踏みたい場合、不規則なフレーズへの対応が、より容易に感じられます。

このような感触の部分を傾向として捉えて、言葉を研ぎ澄ませていった結果として“軽い/重い”といった表現が出てくるのは間違いないのですが、“軽いとどうなのか、重いとどうなのか”と一歩踏み込むと、各々の感想が変わってくるため、説明が難しくなっています。直感や、身近な人の意見を聞きながら選んでみてください。

ドライヴ・システムの話が長くなってしまいましたが、現行ラインナップにシングル・チェーン/ローマス・フットボードのタイプ、DWCP5000AH4が存在する点については、必ず押さえておきたい部分です。

▲DWCP5000AH4

アクションの影響に関して、演奏している最中に動いている物体全体の質量や、重心の位置は、非常に重要です。5000シリーズで言えば、ヒンジのフットボード側と、フレームに支えられた、カムやビーター・ホルダーなどが取りつけられた六角のシャフトまでの部分であり、ビーターはもちろん、チェーンとフットボードもその一部です。

チェーンやボードが軽ければ、踏み込みは軽く、戻りも速くなります。安定感の観点で触れられることもある部分ですが、例えば横ブレは、ベアリング入りの強固なデルタ・ヒンジの採用によって排除されているので、チェーンが何にどう作用しているのかは、理屈と感触の双方で確認すべきポイントです。

この調子で、中古として流通量が多い旧モデルや、ヴィンテージと呼ばれる領域まで広く触れてみたいところですが、語るべき要素があまりにも多いため、今回はこのあたりとさせていただきます。

DW自ら「The industry standard.」と謳っていますが、5000シリーズは文字通り業界標準のキック・ペダルです。YamahaやPearl、SONORの真円タイプに、TAMAの個性的なタイプなど多くのペダルが存在していますが、5000シリーズを理解することで、さまざまなバリエーションに対する解像度がアップすることは間違いありません。

今回紹介した3機種すべて手に入れても損はありません。この機会にぜひチェックしてみてください。

▲筆者所有の5000シリーズの一部。左から、現行Acceleratorの限定カラー、やや古いシングルTurbo、さらに古い5000T、再初期のアンダー・プレートが取りつけられた個体。
▲6000シリーズも、ある種の5000かもしれない。

Profile
ヤマモトタクヤ●1987年生まれ。12歳でドラムに出会い、高校時代よりプレイヤーとして音楽活動を開始。卒業と同時に入学したヤマハ音楽院にて、さまざまなジャンルに触れ、演奏活動の中心をジャズとクラブ・ミュージックに据え、2013年、bohemianvoodooに加入。 音楽と楽器の知識・スキルを生かして、ドラム・チューナーとしてレコーディングをサポートしたり、インタビュー記事や論説などの執筆業を行うなど、音楽全般への貢献を使命として活動中。

公式X:https://x.com/takuya_yamamoto

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▲山本拓矢 著
『That Great GRETSCH DRUMS』