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【連載】博士 山本拓矢がデジマートで見つけた今月の逸品 ♯19〜REMO POWERSTROKE 3〜

  • Text:Takuya Yamamoto
  • illustration:Yu Shiozaki

今月の逸品 ② 【POWERSTROKE 3 Coated

P3-122B(22″)

続いてCoatedバージョンですが、コーティングの効果により、高域がさらに抑制されていて、Clearが明るいとした場合、温かな音色になっていると言えます。アタックも幾分マイルドに感じます。個人的には、バス・ドラムに対して、このCoatedのPOWERSTROKE 3を張ることが多いです。

リングなしのCoated Ambassadorの方が、ミュートの微調整が効くというメリットもあるので、甲乙つけ難いのですが、フロント・ヘッドの交換や、POWERSTROKE 3にさらにミュートを追加して解決したり、ビーターを交換してアタック量を調整するシーンが多いので、自分の中の標準ヘッドになっています。

サウンドの表現に関して、明るいの反対は暗い、温かいの反対は冷たい(≒暖かい/涼しい)というのが、言葉としては正しいように思いますが、ドラム・ヘッドのサウンドに言及する場合は、このような言葉選びになることが多いようです。一時期はこういった表現を避けて説明することで、比較しやすくなるのではないか、誤解が減るのではないかと考え、実際にそれを試みたこともありますが、伝わる場合は使っても良いのかなと思ったりもしています。

シンバルについては、クール、ダークといった表現もポジティヴな意味で使われることがあるので、1つの基準としてまとめてみるのも面白いと思うのですが、専門用語化が進むと、コミュニティの外からはわかりにくくなったりと、弊害が生じる懸念もあります。

幸運にもこのような連載の場を設けていただいているので、その都度、必要に応じて、背景を説明しつつ、さまざまな角度から、自分の言葉で説明できるよう、精進を重ねて参りたいと思います。

脱線しかけましたが、最後にバリエーションと仕様について、補足すべき点を記しておきます。まず、リング・マフラーの幅についてですが、これがなかなか難しい部分です。公式の仕様として明記されているものが見つからなかったのですが、口径とリング部の比率が一定ではありません。

個人的に、22インチから16インチまで、2インチ刻みで所有しているバス・ドラムを使い分けているのですが、口径が変わると、急に広くなったり狭くなったりすることがあるので、文脈がはっきりしていないと、食い違う表現が出てきてしまいます。

具体的には、22インチであれば、標準ヘッドとして語ってもまったく問題がありませんが、16インチの場合、非POWERSTROKEのAmbassadorと比較すると、音量がだいぶ小さく感じます。また、YamahaがPHX用としてリリースしたフロント・ヘッドは、標準のPOWERSTROKE 3と比べて、明確にリング幅が狭く設定されています。写真などで確認する限り、dwのCoated Clearも狭い幅のタイプのようです。

各社のフロント用がどうなっているかは、機会があれば整理してみたいところですが、標準の仕様がはっきりしていない為、難しいかもしれません。

これまた余談ですが、日本国内ではスネア・ドラム用の14インチ・バージョンも入手可能です。リング部は、バス・ドラム用の10milと比べて薄く、3milというスネア・サイド並の厚みになっており、あのSteve Gaddが長年愛用しているヘッドでもあります。

POWERSTROKE 3 Cotedが標準装備されたYamahaのSteve Gadd Signature Model

ヘッドが垂直になるバス・ドラムと比べると、リング内蔵であるメリットはさほど大きくないように感じるかもしれませんが、エッジと打面によって挟まれて、しっかりと固定されることから、また一味違ったトーンになります。効き具合いの安定性や、ブラシで利用可能な打面の広さなど、単純な音色以外の違いもあるため、スネアをノーミュートで使う機会が少ない方には、一度は試してみていただきたいです。

書きたいことが多すぎて、散らかり気味ですが、ドラムヘッドは消耗品であり、破れたり凹んだりしていなくても、伸びて硬化し、音量は下がっていきます。

バス・ドラム・ヘッドはスネア・ヘッドと比べると大きい分、値段も張りますが、楽器のポテンシャルを引き出す上で、重要なピースです。この機会に、ヘッドを交換して、サウンドに対してヘッドが占める要素と、楽器がもつ個性の領域を、再確認してみてはいかがでしょうか。


Profile
ヤマモトタクヤ●1987年生まれ。12歳でドラムに出会い、高校時代よりプレイヤーとして音楽活動を開始。卒業と同時に入学したヤマハ音楽院にて、さまざまなジャンルに触れ、演奏活動の中心をジャズとクラブ・ミュージックに据え、2013年、bohemianvoodooに加入。 音楽と楽器の知識・スキルを生かして、ドラム・チューナーとしてレコーディングをサポートしたり、インタビュー記事や論説などの執筆業を行うなど、音楽全般への貢献を使命として活動中。

Twitter:https://twitter.com/takuya_yamamoto

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