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【連載】博士 山本拓矢がデジマートで見つけた今月の逸品 ♯16〜Zildjian Standard HiHat〜
- Text:Takuya Yamamoto
- illustration:Yu Shiozaki
今月の逸品② 【Zildjian A New Beat HiHat】
New Beatの発売年は諸説ありますが、公式には1963年に登場し、今年2023年で60周年を迎える、超ロングセラー商品です。これだけの長い歴史があれば、マイナーチェンジやリニューアルも行われており、年代毎に一定の傾向も存在しています。その中で、一貫している事実と、個性の源泉とも言えるのが、上下のウェイト差です。
New Beatの登場以前は、ハイハットのトップとボトムは、製品として大きな差をつけることなく販売されていたというのが定説です。New Beatは軽いトップと、重いボトムの組み合わせであることを明確に示して製品化された、最初もしくは最初期の楽器だと思われます。近年どころか、長年に渡り、各社で当たり前に採用されていますが、これはZildjianがルイ・ベルソンにインスパイアされてNew Beatを製品化したことで、一気に普及したスタイルと言えるでしょう。
いわゆる“Chick” Soundと呼ばれるフット・クローズのサウンドが、当時の音楽性にフィットしていた上、前述のタイプのコントロール性とキレの良さの面でも大きなアドバンテージがあり、ジャンルを問わず長く愛される製品になりました。
ちなみに、最初に紹介したK Fat Hatsは、上下のウェイト差が少ない設計であると謳っていたのでいろいろと調べてみましたが、K Fatの14”はトップとボトムのウェイト比が平均で43:57程度になっている一方、New Beatは42:58程度になっているようでした。
K Fatの15”は45:55とさらに差が少なくなっているので、口径に比例してウェイト差が小さくなる可能性もありますが、New Beatは2:3(=40:60)としている資料も見つかったので、ここはサンプル数がそれぞれ20ペア未満の山本調べと断りを入れつつ、ある程度明らかな差はあった、とだけ記しておくことにします。なお、New Beatはバラ売りしてるので、現代のニーズに収斂して似たようなバランスになっているという可能性もあります。
また脱線しましたが、比較的豊富に中古が流通する楽器なので、どのような変遷を辿っているのかを、大雑把に説明してみます。
一般に、登場してから少なくとも90年代までの間は、時代の変遷と共にウェイトが増加してゆく傾向がありました。そして、2013年に大幅リニューアルが行われ、60年代のやや重めの個体や、70年代の中央値くらいまで、ウェイトの基準が引き戻されました。
個人的には、60年代の軽めでコンディションの良い個体や、2013年のリニューアル後の現行品に対して、お勧めできる要素を感じますが、実際には他に所有しているハイハットとの兼ね合いもあって、90年代から2000年代の楽器を2ペア、運用しています。
Kタイプのダークなトーンのハイハットをベースに、ボトムを重い時期のNew Beatのトップに交換してピッチや明暗の調整を行うなど、活用方法はいろいろあるので、安価な中古の個体を買ったり、スタジオの楽器を借りて試してみるのも良いと思います。
今回は2機種ということでいつもより長めでお届けしました。
説明している側としては、ごく当たり前のことなので、これがマニアックなのか初心者向けなのか、判断は難しいのですが、楽器の傾向を捉えて知識を整理した上で、体験を重ねることは、時間とお金の節約につながります。
ハイハット100ペアと、それを重ねずに収納できるスペースとインデックスシステムがあれば何も困りませんが、そんな方は極めて稀かと思われます。楽器を試すときは、それぞれの良いところを見つけて、楽しみながら選んでもらえたら幸いです。
Profile
ヤマモトタクヤ●1987年生まれ。12歳でドラムに出会い、高校時代よりプレイヤーとして音楽活動を開始。卒業と同時に入学したヤマハ音楽院にて、さまざまなジャンルに触れ、演奏活動の中心をジャズとクラブ・ミュージックに据え、2013年、bohemianvoodooに加入。 音楽と楽器の知識・スキルを生かして、ドラム・チューナーとしてレコーディングをサポートしたり、インタビュー記事や論説などの執筆業を行うなど、音楽全般への貢献を使命として活動中。
Twitter:https://twitter.com/takuya_yamamoto
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