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【連載】博士 山本拓矢がデジマートで見つけた今月の逸品 ♯12 〜Ludwig Acrolite Snare Drums〜
- Photo & Text:Takuya Yamamoto
- illustration:Yu Shiozaki
第12回:Ludwig Acrolite Snare Drums
ドラム博士=山本拓矢が、定番商品や埋もれた名器/名品など、今あらためて注目すべき楽器たちを、楽器ECサイトであるデジマート(https://www.digimart.net/)で見つけ、独断と偏見を交えて紹介する連載コラム。第12回目はプロにも愛用者が多いアルミ・シェルの名器=ラディック・アクロライトにフォーカス。その歴史も踏まえながら、詳しく考察していきます!
いつもご覧いただき、ありがとうございます! 以前から、中古楽器を紹介する方法を考えていましたが、比較的歴史が長く、流通量が多いモデルで、面白い個体が目に留まったので、ヴィンテージから現行までをまとめて紹介してみたいと思います。
今月の逸品は、アルミシェルの代名詞とも言える、LudwigのAcroliteです。
1963年に正式発売され、マイナー・チェンジを繰り返しながらバリエーションを増やしてきた、超ロング・セラー・モデルです。個性的でありながら実用的で、比較的安価、さらに修理パーツも豊富、偽物も少ないということで、中古やヴィンテージの入門にぴったりの楽器と言えるでしょう。
分類の仕方はいろいろあると思いますが、大きく6つの時期に分けられます。
【Ultralite】/①
最も古いものは、1962年にPrototypeとしてわずか200台ほどが製造されたと言われている、通称Ultraliteです。ラグやフープまでアルミ製という異色のモデルで、音色もかなり特徴があります。
【Keystone Badge Acrolite】/②
1963年から1968年ごろまでの、Keystone Badgeが取りつけられたAcroliteが、60年代と呼ばれているでしょうか。シェルは無塗装で、フープも基本的にはスティール製で1.6mm厚程度のものがセットされており、軽めの個体が中心で、現行との違いを感じ取りやすいでしょう。重めのブラス・フープがついた個体もありますが、それぞれ魅力があります。
この時期までの個体は、状態がよければ、ヴィンテージとして捉えて差し支えないかと思います。
【70s Blue Olive Badge Acrolite】/③
1969年頃から、いわゆるBlue Olive Badgeに切り替わります。1978〜79年ごろまでの、バッジの右上と左下が尖っているものが、70年代Acroliteとして認識されているようです。
ストレイナーのロゴ部分が黒色なのも、この時期ならではのものです。フープの厚さはまちまちで、薄いものから厚いものまでさまざまです。1.6mmないし、2.1mmであればオリジナルの確率が高くなりますが、2.3mmは交換されている可能性が高まります。
オリジナル・パーツは付加価値として重要ですが、出荷状態が絶対とは思いません。実用性を鑑みて、好みのサウンドが出せるものに交換するのはアリなので、もし、それらしきものを手に入れた場合は、取り外したフープはきちんとラベリングして保管するなど、自分自身はもちろん、後から発見した人がもと通りに戻せる状況を維持しつつ、いろいろ試してみるのも良いと思います。
【80s Blue Olive Badge Acrolite】/④
大まかに80年代Acroliteとされている個体は、前述のB/O Badgeの先端が丸くカットされており、シェルもワントーン暗い、グレーないしシルバーのような塗料で塗装されています。塗装されていることでシェルの鳴きがカットされていて、明らかにキャラクターが変化していますが、アルミ特有のドライさはAcroliteらしさとして健在です。
明確な基準があるわけではありませんが、この時期以降はヴィンテージというよりは、中古として捉えることが多いような印象です。価格も底から緩やかに上昇し始めているといったところで、潜在的な個体数は不明ですが、2022年現在は、比較的お買い得かもしれませんね。
【Black Galaxy Acrolite】/⑤
続いて、”Black Galaxy“と呼ばれる仕様に切り替わります。シェルはラメ入りのブラック塗装に、バッジは黒と白の新デザインに変更されます。また、正式に6.5インチの深胴モデルがラインナップに加わります。音色の方向性は、塗られた軽い金属というスペックそのものな、落ち着いた地味なトーンで、音量も派手さもありませんが、独特でクールなルックスということもあり、個人的にはとても好きな時期です。
今月の逸品 【Acrolite Classic】/⑥
最後に、現行のAcrolite Classicです。シルバーのフィニッシュに戻り、バッジもB/Oになりました。初期にはUltraliteを彷彿とさせる、つや消しパーツのモデルも存在していました。新たに登場したハンマリング・バージョンは、アルミ特有のドライな方向性へ、さらに一歩踏み込んだキャラクターです。
フープは2.3mmなので、パワーは十分。最新モデルでは、ストレイナーも緩み止めが組み込まれたP88ACに更新されており、現代のニーズをきちんと満たしています。予算が許せば、この辺りを新品で購入して、数十年後にヴィンテージと呼ばれる時期が来るまで、長くつき合ってゆくのも1つの楽しみ方かもしれません。
ざっと紹介してみましたが、この分類の中でも、マフラーの仕様の違いや、カタログ外モデルの存在、明言されていないスペックの変更、時期を跨いだ双方の特徴を兼ね備えた個体が存在するなど、良い意味でのファジーさがあるのも、古い楽器の面白いところです。
ヴィンテージ市場において、高い付加価値がつく希少なモデルは、パーツが偽装されていたり、パーツのみが本物で、シェルが偽物というケースすら存在しており、それなりのリスクが存在するジャンルでもあります。
最終的には、各々の目利きにかかっていますが、デジマートに登録されている楽器店であれば、一定の信頼があり、個人売買に比べると、故障時に後継パーツを紹介してもらえる可能性が高いなど、ある程度のトラブル対応も期待できます。 この機会に、新旧の楽器の違いに目を向けてみてはいかがでしょうか。
Profile
ヤマモトタクヤ●1987年生まれ。12歳でドラムに出会い、高校時代よりプレイヤーとして音楽活動を開始。卒業と同時に入学したヤマハ音楽院にて、さまざまなジャンルに触れ、演奏活動の中心をジャズとクラブ・ミュージックに据え、2013年、bohemianvoodooに加入。 音楽と楽器の知識・スキルを生かして、ドラム・チューナーとしてレコーディングをサポートしたり、インタビュー記事や論説などの執筆業を行うなど、音楽全般への貢献を使命として活動中。
Twitter:https://twitter.com/takuya_yamamoto
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