SPECIAL
UP
独占インタビュー|鈴木貴雄が語る“MY FLAGMENT”始動とこれからのドラマー人生【前編】
- Interview:Rhythm & Drums Magazine
2026年7月15日をもってUNISON SQUARE GARDENを脱退し、新たな一歩を踏み出した鈴木貴雄。音楽事務所“MY FLAGMENT”の設立を発表し、アーティスト・マネージメントやライヴ制作など、プレイヤーの枠を超えた活動をスタートさせた。そんな大きな転機を迎えた鈴木への独占インタビューが実現。前編では、脱退を決断した当時の率直な思いをはじめ、MY FLAGMENT立ち上げの経緯、そこで目指す“正しい循環”、さらに新たに手がける対バン・イベントの構想について聞いた。
●まず、7月15日のライヴを終えた今の、率直なお気持ちを聞かせてください。
鈴木:あらためてなりますけど、まず大前提として、自分はバンドを辞めたくて辞めたわけではありません。これは自分のYouTubeでも話したことなんですけど、自分から“辞めたい”と思って辞める選択をしたわけじゃないんです。脱退を発表したタイミングでも投稿した通り、田淵(智也)から「辞めたい」という話が先にありました。その状況を客観的に見たときに、自分が身を引くことでバンドが存続できる可能性が少しでも上がるのであれば、その方がいいんじゃないかと考えたんです。もちろん、自分の考えはありました。でも、それはいったん横に置いて、冷静に判断した結果が、“自分が辞めた方がいい”という結論だったんです。ファンの方も、自分に“辞めてほしい”と思っていた人はほとんどいなかったと思いますし、斎藤(宏介)も「できれば一緒にやりたい」と言ってくれていました。誰も望んでいない状況の中で辞めるという決断をして、その上でライヴでは今まで通り笑顔で演奏しなければならない。その期間はやはり複雑な気持ちでした。
嬉しくないお知らせだと思うので覚悟してから読んでネン pic.twitter.com/Z3gxOGP1TU
— 鈴木貴雄 (@SUZUK1TAKAO) April 27, 2026
●そんな中で事務所の立ち上げの準備も同時に進めていたわけですよね。
鈴木:そうなんです。表ではドラマーとしてステージに立ってライヴをやっているのに、その裏では会社を立ち上げて、社長として動いている。“DRUM SUPPS”の撮影もありましたし、事務所の準備もありました。この2つの立場を同時に抱えていた時期は、自分の中に、ものすごい矛盾を抱えていました。シンプルに大変でしたね。でも、その期間を乗り越えられたことは、自分にとって間違いなく財産になっています。今はまだ何も土台はないんですけど、気持ちの面では不思議なくらい落ち着いていますね。
●脱退発表の際に「今後やりたいこともたくさんあります」とコメントされていました。その1つが、今回立ち上げられた音楽事務所の“MY FLAGMENT”ということでしょうか?
鈴木:そうです。事務所を立ち上げようと思った最初の理由は、“何をやりたいか”よりも、 “誰とやりたいか”だったんです。去年は本当に大変な1年だったんですけど、その時期をずっと支えてくれた仲間が2人いて。彼らとこの先も一緒に生きていきたいという思いが最初にあったんです。2人はずっとマネージメントやライヴ制作をやってきた人達なので、“じゃあ、その強みを生かそう”というところからスタートして、まずはマネージメントとイベント制作を事業の軸に据えようという話になりました。
一方で、自分はプレイヤーとして活動してきた中で、多くのアーティストやスタッフと出会い、たくさんの経験を積ませてもらいました。その自分の経験や人とのつながりを、2人の持っている力と掛け合わせることができれば、もっと大きなイベントもできるし、新しいことにも挑戦できる。オーディションをやるにしても、“元UNISON SQUARE GARDENの鈴木がやるなら”と信頼していただける場面も少なくないと思っています。自分が積み重ねてきたものと、2人が積み重ねてきたもの。その掛け算で、新しい価値を作れるんじゃないかと思ったんです。
●“こういう会社を作りたい”という構想があったというよりも、“この人達と一緒に何かをやりたい”というところから始まったんですね。
鈴木:完全に人ありきでしたね。発表してからオーディションにも少しずつ応募をいただいていますし、反応もすごくありがたいです。でも、まだ始まったばかりなんです。本当にスタートラインに立ったばかり。だから今は反響よりも、“結果を出さないと意味がない”という気持ちの方が強いですね。
“正しい循環”を作り
納得して活動できる環境を
●ホームページには「アーティスト、スタッフ、ファンに正しい循環を作る」という言葉が掲げられています。この“正しい循環”という考え方は、ご自身が活動を続ける中で感じてきたことが反映されているのでしょうか?
鈴木:ありますね。もちろん、音楽業界も昔よりは確実に良くなってきていると思います。ただ、感情としてはまだスピードが遅いと感じています。自分で言うのもなんですけど、僕は昔から正義感が一番モチベーションになる人間なんです。“これはおかしいだろう”と思う気持ちが、常に自分を動かしてきました。だから残りの人生は、その正義感をこの業界で貫きたい。そして次の世代の若い人達に対して、“この業界で音楽をやって良かった”と思える環境を少しでも残したいという思いがあります。もちろん、すべてを変えられるとは思っていません。でも、自分が関われる範囲だけでも、少しずつ変えていけたらいいなと思っています。
●ホームページを拝見して印象的だったのが、利益配分や経理資料の開示まで明記されていたことでした。あそこまで透明性を打ち出しているのはあまり例がないと思います。
鈴木:そこは見てほしかった部分なので、気づいていただけてうれしいです(笑)。長年、この業界でやってきたからこそ、一緒に活動するアーティストとは、できるだけ透明性を持って仕事をしたいと思っているんです。何にどれだけお金がかかって、どれだけ利益が出て、それをどう分配するのか。そういうことをきちんと共有した上で、“納得して活動してもらう”ということを一番大事にしたい。結局、人のモチベーションを支えているのって納得感だと思うんですよ。例えば、“宿題をやろうと思っていたのに、親から「宿題やりなさい」と言われた瞬間にやる気がなくなる”みたいなことってあるじゃないですか(笑)。人って、自分で納得して動くから頑張れる。その感覚を、音楽活動でも大事にしたいんです。
●そこまで踏み込んで書くことに迷いはありませんでしたか?
鈴木:もちろん仲間の2人には相談はしました。“本当にここまで書くの?”という話にもなりましたし、一度立ち止まって考えました。でも、これは自分の中では絶対に譲れない部分だったんです。だったら、それを隠すんじゃなくて、むしろ会社の姿勢として打ち出そう、と。正直、勇気は要りました。こういうことを書くことで反発もあるかもしれないですし、敵を作る可能性もある。それでも踏み出そうと思えたのは、自分達が目指したい方向がはっきりしていたからです。
●現在は所属アーティストのオーディションも行っています。鈴木さん自身は、どんなアーティストと出会いたいと思っていますか?
鈴木:これはスタッフとも少し考え方が違うところなんですけど(笑)、自分だけの意見で言えば、極端な話、才能さえあれば他には何もいらないと思っています。もちろん、人間性が良いに越したことはないです。20年間この業界で活動してきて、人間的にはめちゃくちゃだけど、音楽家としては圧倒的に魅力的な人もたくさん見てきました。近くで関わりたくはないけど(笑)、作品を聴くとやっぱりすごいという人はたくさんいて。だから、自分はまず音楽が良いかどうか、人を惹きつけられるかどうかを見たい。そこが一番大事ですね。

技術だけではない
今、ドラマーに求められること
●少し視点を広げて、今の時代に求められるアーティストは、どんな存在だと思いますか?
鈴木:あまり偉そうなことは言えないですけど、でも、時代が変わっても、本質はそんなに変わっていないと思っています。それはメロディが良いこと、声が良いこと、そしてライヴで熱量を感じられること。この3つは、昔からずっと変わらない共通項なんですよ。AIが発達しても、ボカロが流行っても、人の心を動かす部分は変わらず、その3つなんです。そこをちゃんと持っている人は、時代が変わっても支持され続けると思っています。
●なるほど。では鈴木さんが考える“今、求められるドラマー”は、どんな存在でしょうか?
鈴木:誤解されるかもしれないですけど(笑)、僕は昔から“うまさだけを目指してほしくない”と思っているんです。お客さんはドラムがうまいから、お金を払うわけではないと思うんです。もちろん“うまいドラマーを観に行く”という人もいます。でも、それはすごく限られた層で、ライヴに来る人の多くは、まず歌に惹かれて、曲に惹かれて、その世界観に惹かれて足を運ぶと思うんです。その中でドラムはどうしても最後の方なんです。だから、ドラムがうまくなっただけでは価値は生まれにくい。それは若い頃からずっと考えてきたことでしたね。
●ドラマーは何を磨いていくべきだと思いますか?
鈴木:もちろん最低限の技術は必要です。下手だとカッコ悪いですからね(笑)。でも、ある一定のラインを越えたら、その先は“何を伝えられるか”なんですよ。例えば、ステージでちゃんと叫べているか。30分なら30分、全力で命を燃やし切っているか。演奏が終わった瞬間に汗だくになって、“もう動けない”というくらい全部出し切れているか。そういう熱量の方が、お客さんには伝わると思っています。それに自分にしかない個性も必要です。機材の選び方でもいい。セッティングでもいい。音作りでも、フレーズでも何でもいいから、“この人だ”とわかるものがあるかどうか。うまい人はいくらでもいます。だからこそ、僕は技術以外の部分でどう差別化を図るかを常に考えてきました。
あと、もう1つ、すごく大事だと思っているのは、ちゃんと前を向いて叩けるということ。手元ばかり見て演奏していても、お客さんはそこを見に来ているわけじゃない。ちゃんと前を見て、ヴォーカルと呼吸を合わせたり、お客さんと目を合わせたり。曲に合わせて自然と笑顔になったり。そういうこともドラマーの仕事だと思っています。“ドラムだけ叩ければいい”というわけではないと思います。
●技術だけではなく、ステージ全体で何を届けられるか、ということですね。
鈴木:そうです。パフォーマンスという言葉でもいいんですけど、結局、お客さんに“また観たい”と思ってもらえなければ意味がない。“明日から自分も頑張ろう”、“またこのライヴに来たい”……ライヴを観てくれたお客さんにそういう感情を生み出せるかどうか。そこに人は愛情も時間もお金も使ってくれる。だから、自分は“何に対してお客さんがお金を払っているのか”をちゃんと考えるべきだと思っています。
●長年バンドで活動されてきたからこその考え方でもありますよね。
鈴木:そうですね。UNISON SQUARE GARDENは特にそうで、普通に歌に寄り添って、普通にいいドラムを叩いているだけだったら、バンドは魅力的にならなかったと思うんです。だから、自分からメッセージを発して、自分というドラマーを好きになってもらう。それが結果としてバンドの魅力にもつながっていく。ずっとそう考えていました。もちろん、サポート・ドラマーはまた別です。サポートの場合は、いかにアーティストを立てるか、精神的にも支えられるか、一緒にいて安心できる存在になれるか、そういう能力が求められる。でも、自分がこれまでやってきたのはバンド・ドラマーですから。自分自身がメッセージを発して、自分という存在に価値を感じてもらう。だからこそ、技術だけではなく、“その人にしかないもの”をずっと考え続けてきたんです。

“人間関係”を見せる
新たな対バン・イベント
●ライヴ・イベントの企画・運営もMY FLAGMENTの事業の1つですが、このプロジェクトについての考えを教えてください。
鈴木:やりたいと思っているのは対バン・イベントです。今、対バン・イベントって下火になってきたように感じるんです。ワンマンでは何千人って入るバンドでも、対バンになると数百人しか入らなかったり、規模が10分の1くらいになることも全然あるんです。そんな状況の中で、なぜあえて対バン・イベントをやりたいのかというと、僕自身が対バン・イベントに救われてきた人間だからなんですね。対バンで一緒に演奏して刺激を受けたり、仲間意識が芽生えたり。それはメンバー同士だけじゃなくて、スタッフ同士もそうなんです。やる側にとって絶対に必要なものだから、お客さんには申し訳ないんですけど、“やります”と。ただ、やるからにはやっぱり楽しんでもらいたい。そのためには対バン選びがすごく大事だと思っています。
【告知2/4】
— 鈴木貴雄 (@SUZUK1TAKAO) July 22, 2026
・音楽事務所MY FLAGMENTの事業としてライブ制作を行っていきます。
対バンライブが下火な昨今ですが、それに救われてきた自負があります。新規性と親和性を大事に、告知など工夫しながら火を絶やさぬよう行っていきます。… pic.twitter.com/0BbNKLo7Z0
●対バンの組み合わせを考える上で必要だと思うのはどんなことですか?
鈴木:親和性と新規性ですね。“この組み合わせだから観たい”と思ってもらえる親和性がありつつ、すでに何度もやっている組み合わせではない新規性も必要です。そのバランスを工夫していきたいと思っています。もちろん話題作りも必要だと思います。他の業界を見ていると、喧嘩させることが一番簡単なんですよね(笑)。ラップ・バトルもそうですし、BreakingDownもそうですよね。音楽番組でも対戦形式にすると盛り上がる。でも、自分は音楽に“対戦”を持ち込みたくないんです。じゃあ何が面白いのかと考えると、やっぱり“人間関係”なんですよね。人と人との関係性が見えるのが面白い。だから僕らが仕掛けるイベントでは、バンド同士の関係性に焦点を当てたいと思っています。
●関係性に焦点を当てていくと、組み合わせを見つけるのが大変そうですよね。
鈴木:そこは大丈夫です。一緒にやっている2人は、事務所を始める前から100本、200本とイベントを作ってきたプロなので信頼しています。イベント制作の会議には自分も参加していますけど、“いいね、いいね”って頷く、赤べこみたいになってます(笑)。
●(笑)。すでに2027年3月10日に豊洲PITでライヴ・イベントを行うことが発表されていますが、どんなイベントを考えていますか?
鈴木:ツーマン・イベントを予定しています。対バンならツーマンが一番面白いと思っていて。スリーマンになると転換時間も長くなるし、お客さんの負担も増えてしまうので。だから、真っ当に良いツーマン・イベントをやりたいですね。すでに豊洲PIT以外の会場も押さえていて、全部ツーマン・イベントを考えています。
●ちなみに鈴木さんもイベントには出演される予定ですか?
鈴木:出演はしないですけど……オープニングでちょっと喋るくらいは、やってもいいのかな(笑)。その辺はこれから打ち合わせですね。
【Info】昨日リリースされたドラム配信サービスDRUM SUPPS(こちら)や、これからのドラマーとしての活動について語った独占インタビューの後編は後日公開。お楽しみに。
